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第18話 枯れた花

 レベル2のころは、ほんの雑草しか枯らせなかった。花壇にある立派な花は枯らせること自体できなかったのだ。だから特に配慮せずとも花壇から雑草だけを除去することができた。


 ところが、レベル3になった途端、魔法の威力が上がってしまい、除草作業のつもりがうっかり花壇の花まで枯らしてしまった。

「あらあら、キルルさんは、レベル3だといつでもレベル3の威力を出してしまうんですね。レベル3でも、レベル2の威力で魔法を使えるように、調整できるようにならないといけませんね」 

「すみません」

「魔法には失敗はつきものです。だけど、これからは気をつけてくださいね」

 枯れた花を見た校長先生はそう言った後、一度姿を消し、小さな花の株をもってきた。

「代わりにこれ、植えてください。先生が草魔法でちゃちゃっとやっちゃってもいいんですが、キルルくんが枯らしたのですから、ここはやはりキルルくんが植えてください。スコップはそこの棚にありますからね」

「はい」

「キルルさんはあれですね。『即死魔道士』なのに聞き分けがいいですね」

「『即死魔道士』は聞き分け悪いものなんですか?」

「先生、あなたの一代前の『即死魔道士』と同級生だったんです。昔、ここで一緒に勉強していました」

「そうなんですか!」

「はい。僕と同級生だった『即死魔道士』は気性が荒くておっかなかったですね。キルルさんは穏やかな子なので、最初あなたを見たときは先生かなり驚きましたよ。教え子としてはあなたはやりやすくてありがたい限りです」

「……あの、校長先生、と同級生の『即死魔道士』って、もう亡くなられました?」

 適性検査のとき、診断士は即死魔道士の素質があるのは国で僕一人と言っていたはずなので、気になった。

「はい。去年亡くなりました」

「そうですか……」

「彼とはここでいろいろな思い出がありましたね。キルルさんにもお話ししたいのですが、結構ヘビーな思い出が多いので、キルルさんが、そうですね、三年生ぐらいになったらお話するかもしれません。それじゃ、花壇お願いしますね」

 そう言うと、校長先生は姿を消してしまった。 

 僕は、枯らせてしまった花を土から抜き、スコップを持ってきて新しい花を植える。植えながら考えた。

 校長先生って、何歳なんだろう。見た目ピエロなので、見た目からは全く想像できない。しかし、声は案外若いのだ。声を聞く限り、僕の父さんより若い気がする。『一代前の即死魔道士』が何歳のとき、何か原因で死んだのだろう。そしてヘビーな思い出ってなんだろう。気になったが、聞く勇気が出なかった。


 新しい花を植え終えた僕は、枯らせてしまった花を見た。

 枯れた雑草を見て、これといって何か感情が湧いたことはなかったが、枯れた花を見るといろいろ思うことが出てくるから不思議だ。

 綺麗だな、と思った。葉は茶色くなり、花の首は俯き、茎は曲がっている。だけれど、咲いていたころの美しさを端々に残していた。

 僕は、名も知らないその花を自分の部屋に持ち帰り、花瓶に差して飾った。

 枯れた花は、一般的には無用だろう。だけど僕にとっては勲章だ。僕が即死魔法で枯らせた花。


 僕はそのころから、王都の街中を歩くと、街中に植えられている花をに目が行くようになった。どの花も、枯れたときの姿をつい想像してしまう。綺麗な花を見ると枯らせてみたくなってくる。王都に植えられた花を枯らせるのは怒られるので、思いとどまった。


 植物図鑑も買って読むようになった。今までは花になんか興味なかったのに不思議だ。


 僕は植物図鑑から、気にいった野草を探し、空き地に咲いているのを見つけると次々枯らせて部屋に持ち帰った。それを逆さにして壁に吊るしたり、瓶に詰めたりして飾った。殺風景だった僕の部屋が、徐々に居心地が良くなっていくのを感じた。


 この話をスーにしたところ、

「フラワーホールに挿したらどう?」

 と言われた。僕がこないだスーに買ってもらったベストの襟には、花を挿すフラワーホールという穴があるのを今頃知った。

 フラワーホールに枯れた花を挿す。鏡で見ると、これはこれで洒落ている。

 だけど、これは、僕の心の内をあまりにも垂れ流している気がして、この状態で外を歩くのは抵抗を感じた。だから、僕はあえて、枯れてない花をフラワーホールに挿すようになった。僕なりに、自分の内を取り繕いだしたのだ。


 僕のフラワーホールの花に一番最初に気がついたのは、リリイだった。

「あら、綺麗なお花。キルルはお花が好きなの?」

「あ、ああ」

 僕の言葉を聞くと、リリイはにっこり笑った。

 枯らすのが楽しいから好きだとは、とてもリリイに言えない。花が好きなことには変わりないからそれでいいと思った。


 そんなことをしている内に気がつけばレベル5まで上がっていた。




 



 






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