第136話 別れの挨拶
学校の校門の前に、特殊クラスみんなで集まった。
「みんな、今日でお別れだな。元気でな。僕は春からここの教員になるから、いつでも会いに来て」
ポールトーマスが言った。
「ああ、でもみんな王都で仕事するんだろ? 会える機会あるよな」
トイが言う。
「だけど、リリイは故郷に帰っちゃうんでしょ?」
ショウが言った。
「ええ。もう『蘇生魔法』はどこでも使えるから。故郷で過ごすわ」
リリイが答えた。そうか、リリイは王都を離れてしまうのか……
「リリイ!」
リリイが故郷への馬車に乗るとき、僕は叫んでリリイを呼んだ。最後に、お別れを言いたかった。
「キルル」
リリイは足を止めて僕の方を見た。
「今まで、ありがとう。それと、ごめんね」
「私こそ、ありがとう。勉強たくさん教わったわ。一般教養の単位を取れたのは、キルルのおかげよ」
リリイと過ごした日々が、蘇ってくる。
「リリイ……好き……だったよ……」
「私もよ。キルル、幸せになってね」
「リリイも、幸せになってね」
リリイは、ふんわりと笑った。付き合っていたときのように。
「じゃあ、さよなら、キルル」
「さよなら、リリイ」
リリイが乗った馬車を、見えなくなるまで見送った。もう、二度と顔を見ることはないだろう。蘇生魔法はレベル100だと遠くにいる場所の人間も蘇生できる。たとえ、僕が即死魔法に失敗して死んでも、もう直接会うことはなく蘇生できるのだ。だからもう、一生会わない。
さよなら リリイ
さよなら――
僕は校長室に行った。もう家のようになってるけど、校長先生にも挨拶しなくちゃ。
「校長先生ありがとう。僕の新しい家にも、遊びに来てね」
僕は、卒業後はさすがに校長室を出て、新しいところに住むことにした。
「いいんですか。生徒なんて、卒業したらだいたい目が覚めて私から離れていくのに」
「やだな、離れたりしないよ。僕、あのとき校長先生と付き合わなかったら壊れてた。暇つぶしに道端の人殺してたかもしれない。あのとき先生が構ってくれたから、立ち直れたんだ」
「そう。……キルルくん、君はこの国が好きですか?」
「うん。だって、即死魔道士として、三年間も育ててくれたもん。その恩は、国に返すよ。『即死魔法』も、国の役に立つときもあるんだから」
「よかったです。君は賢いから気づいているでしょう。『即死魔法』は、その気になればこの国を滅ぼせます。一日一人殺したぐらいじゃ国は滅びませんが、自然や動物や魚を広範囲で殺され続けたらあっけないもんです。だから、君は、この国を愛してくれるだけでいい。本当にそれだけでいいんです」
「うん」
だから即死魔道士は罪にも問われず、ここでも特待生なんだよね。すべては国に感謝させるため。
「ねえ、先生、先生が僕を好きなのは、ここの校長先生だから?」
「どんなときも君の味方につくのは『国立魔道士養成学校の校長先生』の仕事です。だけど、抱いたのはただの趣味ですよ」
「先生、ほんとブレないね」
僕は思わず笑ってしまった。
「先生、僕を愛してくれて、ありがとう。僕も、愛してるよ」
こうして、僕は国立魔道士養成学校を卒業した。
僕、即死魔法を授かってよかった。ほんとだよ。適正検査のあの日、即死魔法の素質が見つかったから、地元から王都に来れて、国立魔道士養成学校に入れて、初めて友達が出来て、恋人が出来て、三年間、楽しかった。
そして、なにより魔法が使えたんだ。魔道士になれたんだ。本当に、それだけで、嬉しかったよ――
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