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第133話 強さ

「キルルさん、お母様から連絡が来てますよ」

「母さんから?」

 校長先生に手渡された手紙を受け取る。

 僕は結局、校長室に入り浸りに戻ってしまった。特殊クラスのみんなと気まずくなったからじゃない。もう寮の部屋を出たのだ。学校はもう冬休みになっていた。あとは補講期と卒業式だけだ。補講期は、もうホームルームもない。だから、レベル100になった者は、寮から出ても問題ないのだ。レベル100になった生徒の多くは寮から出て、卒業式までは好きな場所で過ごしている。僕も寮から荷物を引き払い、校長室に身を寄せていた。剥製たちは、元校長先生のツチカベさんに一室借りて置いておくことにした。寮の荷物を引き払うときに剥製をリリイにもみんなにも見られてしまって、少し苦い顔をされたけど、もうどうでもよかった。それと共に、とても気が楽になった。

「母さん、冬休み中王都に来るって!」

 僕は手紙を見て叫んでしまった。

「あら、良かったじゃないですか」

「どうしよう。とうとう母さんにもばれたかな」 

 もう誰にどう思われてもいいと思っていたけど、母さんに本当のことを知られるのは怖かった。

「先生も一緒に行きましょうか?」

「いや、いいよ。大丈夫」

 もう、何が起こっても、受け止められる自信があった。もう逃げないよ。


 保護者であっても、学校内には入れないので、母さんとは学校の外で待ち合わせだ。場所は母さんが王都に来るときに利用する宿屋だ。

「キルル!」

 宿屋の部屋に入ると、母さんが、駆け寄って来た。

「良かった! 元気そうで……」

 母さんは涙ぐんでいるように見えた。

「母さん、急にどうしたの?」

「最近、うちの町で不幸話が多くて……キルルの身にも何かあったらって、不安になってしまったの」

「母さん……」

 母さんは、不幸話の元凶が僕かもしれないなんて、全く考えていないようだった。

「父さんは?」

「父さんは、仕事で来れないって」

 もしかしたら、父さんは感づいているかもしれない。だけど、母さんには言わずにいてくれているのだろう。

「母さん、魔法、レベル100になったよ。もう卒業できるんだ。高校卒業資格も、ちゃんと取ったよ」

 まだ報告できていなかったので、報告した。

「そう、三年間、よく頑張ったわね」

「うう……」

 僕は、また泣いてしまった。三年間、いろいろありすぎた。即死魔法の素質が見つかったとき、こんな三年間を過ごすことになるなんて、夢にも思ってもいなかった。これで、よかったのだろうか。

「ねえ、母さん、僕に魔法の才能がなかったら、母さんどうしてた?」

「またどうしたの」

「ちょっと聞きたくて」

「何言ってるの。魔法の才能なんて、あるにこしたことないけど、なくてもいいのよ。母さんは、キルルが、生きててくれたらいいの」

「生きてたら……? それだけでいいの……?」

「ええ、それだけでいいのよ」

 そんなこと、考えたこともなかった。強くなりたい、強くなりたい、いつもそう思ってた。強くなったら、なんでも手に入って、母さんも父さんも自分も幸せになれるって信じてた……

 だけど、強くなりたいばかり考えてたら、だめだって、今ならわかる。強さに固執しなければ、アレンは死を選ばすに生きただろう。僕の元クラスメイト皆殺しも、結局強さを誇示したいがために起こったことなのだ。

「わかったよ、母さん。僕は生きるから、母さんも、父さんと、生きていて。僕も、母さん達が生きてるだけでいい。僕を生んで育ててくれて、ありがとう」

「ええ。もうキルルも大人だものね。母さんも子離れしないといけないわね。父さんと二人で、新しく生きなくちゃね」

 そうだね、僕も探さなくちゃ、新しい道を……

 

 




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