第132話 別れ
「リリイ、話がしたいんだ、お願い」
僕はリリイの部屋の扉を叩いた。みんなは遠慮して、ロビーにいる。僕の声はほとんど聞こえないだろう。
「話したくないわ」
恐ろしく冷たい声色でリリイの返事が来た。
「……わかった。じゃあ、出てこなくていいから聞いて。僕、リリイが思ってるような、優しい人間じゃないんだ。もともと、動物を殺そうが、人間を殺そうが、なんとも思っていなかった。リリイの前では、自分を隠してたんだ。そして、それじゃ続かないこともわかってて、リリイに告白したんだ。最初から、終わりが来るの、わかってたんだ」
一気に話したが、リリイの返事はなかった。
「だけど、やっぱりリリイに嫌われるのが怖くて逃げたんだ。ごめん、リリイの気持ちなんて、なんにも考えてなかった。ごめん……そして……別れてください」
僕は扉の前で頭を下げた。
小さく、扉が開く音がした。
「キルル……」
リリイがいた。憔悴の中に怒りを感じる表情だった。
「このところずっと心配していたのに。私の心配を返して」
「ごめん」
「どんな恨みがあろうと、殺すのなんてやりすぎよ。レベル上げをしたいなら、『蘇生魔法』を使って、実質誰も殺さない選択もあったわよね?」
「うん」
「もう、あなたにはついていけない」
震える声と共に、リリイの白い頬に涙が伝った。
「だけど、あなたが本当に悪い人なら、何食わぬ顔で私と付き合うこともできたはずよ。何食わぬ顔でホームルームに出てた先生みたいにね。本当に悪いのはああいう人よ。キルルは、本当は優しいのよ」
「リリイ……」
「だけど、もう恋人には戻れないわ。他の人と関係持った人に触られたくないもの。望み通り、別れてあげるわ。先生には『親子二代で生涯嫌う』って言っておいて。先生が死んでも蘇生なんてしませんから。じゃ、さよなら」
扉が静かに閉まった。
「リリイ、さよなら……ありがとう」
僕は、扉の前で小さくつぶやいた。
「リリイさん、私のこと『死ねばいいのに』って思ってますね。さすがに『蘇生魔道士』として口に出せなかったみたいですけど」
校長先生がしれっと後ろに立っていた。
「まあ、先生、国の中では重要度高いのでね。死んだら女王令で蘇生するように指示が行くんですけどね。あはは」
「先生、本当に最低。今に始まったことじゃないけど」
先生は後ろから僕を抱きしめた。
「リリイさんももうレベル100なので、『先生』の役目は終わりました。今はただの恋敵ですから」
先生、本当に悪い人だなあと思った。リリイの言う通りだ。だけど、先生のこと、やっぱり嫌いになれない。先生はさっきも今も自分に非難が行くように誘導してたことぐらい、わかってたから。先生は悪者になってくれたんだ。僕の代わりに。
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