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第129話 染色

「まあ、キルルくんが今こんな状態になってるのは、レベル100になるのが早すぎたからであって、優秀な証拠なんですけどね」   

 さっきの話のあと、先生は言った。

「優秀? 僕が?」

「はい、優秀ですよ。学年で一番にレベル100になった人が優秀じゃなきゃ誰が優秀なんです? 一般教養の単位も全部取ったんでしょう? 超優秀です。本来この時期の三年生は、レベル100になれるかどうかでヒイヒイ言ってますよ。魔法って、レベルが上になるほどレベル上げが大変ですから。キルルくんは異例なんです」

「そうなんだ」 

「はい。君の学年は皆優秀ですけどね。卒業までに余裕でレベル100になりそうですもん。先生なんてめちゃくちゃ苦労したんですよ。レベル100になるのも卒業式直前でした」

「どう大変だったの?」

「『染色魔法』は、何かきっかけでレベルが上がるかわからないんですよ。使っても使ってもレベルが上がらないなんてザラでね」

「あ、カランドも言ってた!『音楽魔法』は何がきっかけでレベルが上がるかわからないって」

「そうそう。先生の『染色魔法』も同じでした、結局、いろいろ勉強することになりました」

「勉強?」

「染色はもちろん、色彩のこととか、服飾のこととか、化粧とか、いろいろ勉強しました。一般魔法もね。この辺りを全部勉強して、ようやくレベルが上がったんです」

「ふええ……」

 先生って、なんだかなんでもそつなくこなすイメージだったけど、そうでもないんだな、と思った。

「そうだ、こっちにいらっしゃい」

 先生は急に起き上がって僕に服を着せ、先生もガウンを羽織った。


 先生は、さらに奥にある小部屋へと僕を連れて行った。この部屋は先生が着替えをするときに入る部屋で、僕は入ったことがなかった。

 てっきり先生の衣装部屋だと思っていた小部屋だったが、中は予想と違って台所のようだった。木の棚の上に、大きな鉄の鍋やボウルがある。それと、植物を植えた鉢がいくつか、そして、カラフルな布が何枚か吊るされていた。

「ここは先生の染色の工房です」

「へえ……」

「せっかくなので、何か染めてみましょう。そこの植物から好きなの選んでください」

 部屋の窓際に並べてある鉢植えから、僕は一つ花を選んだ。橙のマリーゴールドだ。

「そのマリーゴールドの花で、ここにあるしろい布を染めましょう」

 先生の指示に従って、マリーゴールドの花の部分を摘んだ。

「これを、この鍋で煮ます」

 先生が火魔法と水魔法で鍋に湯を沸かし、僕はマリーゴールドの花を鍋に入れた。鍋の湯が黄色に変わってゆく。

「そして、この布を鍋に入れて」

 しばらく鍋で布を煮ると、白かった布が黄色に変わっていった。あとは、その布を鍋から取り出す。

「わあ、橙のマリーゴールドで、黄色に染まるの」

「ええ、あとはこれを乾かすだけです」

 黄色い布が、広げられ吊るされた。

「綺麗だね」

「そうでしょう。この布で、ガウンに仕立てますね。染色って奥が深くて、同じ花を使っても少しずつ違う色になるんですよ。狙った色はなかなか出ないんです」

「へえ……」

「『染色魔法』はね、私が知らない色は出せないんですよ。なので、こうやって時々手で染め物をします」

 そう話す先生の横顔はすごく綺麗だった。

「先生、これ、またやりたい」

「気に入りましたか? いいですよ。いつでもやりましょう」

「うん」

 先生は、染色魔法が使えなかったとしても、とても素敵な人だ。僕はそんな先生が羨ましかった。僕は、即死魔法がなくなったら本当に何も残らない。

「先生、僕も先生みたいになりたい」

「え? なにも先生みたいにならなくても。先生ろくでもないですよ」

「そんなことない」

 僕はぶんぶん首を振った。

「僕、レベル上げの必要がなくなった途端、やることなくなって、なんとなく先生に流されてこんな生活して、こんな自分が嫌なの」

 セックスに溺れているのは僕も先生も同じだ。だけど、先生は自分の意思で溺れていて、僕はただ流されただけ。同じようで違うのだ。流されてしまったのは僕が空っぽだったから――





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