第116話 18歳の夏
僕はアレンと共に馬車に乗り、三日かけて故郷の町に到着した。
「一応、家にも行かないと。アレンも来なよ」
夏休みの序盤に僕の誕生日があるから、帰ってこないとお母さんが悲しんでしまう。
「いいんですか、お邪魔して」
「大丈夫だよ」
アレンを連れて実家に向かった。
「キルル! お帰りなさい! おや、その子は?」
僕を迎え入れた母さんは、アレンを見て尋ねた。
「友達だよ。アレンっていうんだ。学校は違うんだけど、訳あって夏休み里帰りできないから、連れてきたんだ」
「まあ、またお友達が増えたの。よかったわね! アレンくん、キルルと仲良くしてくれてありがとう。さあ、上がってちょうだい」
「アレン、何日か泊めていい? 僕の誕生日ぐらいまででいいから」
誕生日まであと三日だ。
「いいわよ。アレンくん、ゆっくりしていってね」
「はい」
僕の部屋にアレンを通した。
「へえ、キルルさんが子供の時に読んでいた本、僕と変わらないですね」
僕の部屋の本棚を見てアレンが言った。本棚には魔道士に憧れている子供が読む小説や魔導書は大体揃っている。アレンは懐かしそうな顔でそれを眺めていた。
「キルルさんも、あんまりこれらの本が参考にならなかったタイプですね」
「そうだね」
僕は笑って返した。これらの本の中の「魔道士」は一般魔法が使える人のことだ。一般魔法は全く使えず、即死魔法一個だけ使える僕のような魔道士は、どの小説にも登場しない。僕もアレンも、小説に書かれない道を歩むことになってしまったという点は同じだ。
三日後、僕は誕生日を迎えた。18歳。とうとう成人だ。
「キルル、18歳のお誕生日おめでとう」
今年は両親の他、アレンも一緒になって祝ってくれた。テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいる。
「もう、大人になってしまったのね。早いものだわ」
お母さんは感慨深そうに言った。
「子供のころはいろいろ心配したけれど、元気に大人になってくれて、嬉しいよ」
お父さんが言った。
このあとは、いろいろある。だけど、この時は一旦忘れて、誕生日を迎えた喜びを噛み締めた。
僕はもう大人だ。この先僕がやることは僕一人の責任で、両親にはもう責任はない。
「もう、誕生日が終わるとすぐ王都に帰るんだから」
翌朝、町を出ようとする僕に向かってお母さんは言った。
「まあそれだけ王都が楽しいんだろう。キルル、元気でな。これからも最低でも一年に一度はここに帰ってきて顔を見せてくれ」
お母さんをなだめながら、お父さんが言った。僕は頷いた後、故郷の町をアレンと共に後にした。
というのは表向きで、王都には帰らず、故郷の周辺に僕とアレンはいた。目的は、元クラスメイト達を殺すためだ。
僕とアレンは、故郷の町の中にある高校に向かった。僕の故郷は小さな町で、小学校と中学校は町に二つずつだ。男子校と女子校に別れているため二つあるのだ。それぞれ一学年一クラスしかない。僕の小学校と中学校のクラスメイトはすべて同じ顔ぶれというわけだ。25人一クラスだったため、元クラスメイトは全て男子で24人。高校からは適正検査により進路が別れるわけだが、魔法の素質がさほどなかった者は、この地元の高校に通っているというわけだ。ここには元クラスメイトが10人通っている。この高校は男女共学だ。
なんとこの高校、この夏休みの間に王都への修学旅行があるのだ。明日にはこの町を出発する。王都に着くまでの道中を狙う計画だ。王都観光なんかさせてたまるか。最悪の修学旅行にしてやるよ。
アレンと共に馬車に乗り、地元の高校の生徒達が乗る馬車が通る場所に先回りして辿り着いた。道中で一番危険度の高い森の前だ。故郷の村と王都の丁度中間地点あたりになる。ここで馬車から降りて、元クラスメイト達を待ち伏せする。
森の手前でアレンと野宿した。野宿している場所には低レベルの(人間が死なないレベル)即死魔法陣を書いてあるため、モンスターや、野生動物に襲われる心配はない。
「なるほど、こうやって野宿できるんですね。『即死魔法』ってなかなか便利ですね」
アレンは感心していた。
二日後、森の近くの道を見張っていると、地元の高校の校章が着いた馬車が二台通りかかった。10人乗りの馬車が二台で、片方に男子、もう片方に女子が乗っているようだ。男子は全員元クラスメイトだ。馬車の隙間から少しだけ乗っている人間が見えた。
僕は、森の影に隠れて、即死魔法の呪文を唱え、元クラスメイト一人を殺した。ピートというやつで、いじめの主犯格ではないが、この中では一番魔力が高いため最初に始末した。
馬車から悲鳴が聞こえる。クラスメイトがいきなり絶命して動揺しているのだろう。いい気味だ。様子がおかしいことに気がついた先生であろう馬車の運転手が、馬車の中を見て動揺している。その隙に、馬車を引いていた馬二匹を殺した。女子を率いている馬車を異変に気がついて停止し、この事態について相談している。
女子生徒が乗った馬車に乗せて動きだした。元いた道を引き返している。ピートの遺体もここに乗せたようだ。修学旅行は中止して、とりあえず女子生徒を近くの町へ避難させる運びだろう。予想通りに事が進んでいる。いい感じだ。
残された男子生徒達は、そのまま馬車の中で待機するようだ。もうすぐ夜だから下手に動かす待機するのだろう。
僕とアレンは、一行の馬車に近づき、馬車の中に睡眠薬の入った瓶を投げ込んだ。これで余程のことがない限り起きない。僕とアレンで手分けして、全員の手足と口を縛った。あと、馬車から放り出した。僕とアレンも野宿の場に戻り、一回寝て、朝になったら一行の馬車に向かった。
元クラスメイト9人と引率の先生が目を覚ました。皆手足を縛られていて動揺している。
「やあ、みんなおはよう」
僕はみんなに挨拶した。
「キフフ!」
元クラスメイトは僕に反応した。「キルル」と言ったのだろうけど、縛られた口で言い切れていない。
「みんな、久しぶり。これ何かわかる?」
僕は腕につけてある「国立魔道士養成学校」の腕章を見せた。皆目を見開いて驚いている。
「僕、魔法の才能あったみたい。どんなのか、見たい?」
僕は早速即死魔法の呪文を唱えて、一人殺した。ウィノだ。ウィノも主犯格じゃないし、まだ恨みが薄い方だから早めに殺してあげた。これで残り8人。
死んだウィノを見て、みんなガタガタ震えだした。
「ふふふ。『即死魔法』っていうんだ。呪文一つで何でも殺せるんだよ。一般魔法と違う、特殊魔法だよ。僕は特殊魔法が使えるからって、『国立魔道士養成学校』に強制入学になったんだ」
みんな、怯えた目で僕を見ていた。
「本当はさあ、みんないっぺんに殺したいんだけどさ、『即死魔法』ってあっけなく死んじゃうから、楽に死ねちゃうんだよね。こんなに楽に死なれたらたまったもんじゃないから、少しずつ殺すよ」
これは嘘で、一日一人しか殺せないことを気づかせないために言っている。
「僕に今すぐ殺されたくなかったら、あっちの森に移動して」
全員、手足を縛られた上で、芋虫のようにのそのそと移動を始めた。僕とアレンはその後ろをついていく。
全員森の中に入った。これで、学校の関係者には容易に見つけられなくなった。もう邪魔は入らないからゆっくり殺せる。
僕とアレンは、一行の馬車から食料を引っ張り出して来て食べまくった。10人分あるので好きなだけ食べても十分足りる。もちろん一行にはあげない。餓死されたら嫌なので、水だけ縄を外さない状態でやった。
夜になると、即死魔法陣の中にいる僕とアレン以外の一行にモンスターや野犬が襲ってきた。魔法陣の中は安全なことに気がついた連中は、魔法陣の中に入ろうとしたが蹴飛ばした。
モンスターが、一行の誰かの命まで奪いそうな時は、モンスターの方を殺した。おかげで、死にそこねた重症者が何人か出た。血の匂いと恐怖で皆泣いて失禁している。可哀想だけどしょうがないよね。僕水魔法とか使えないし。
それと、一行の引率の先生だけは、モンスターに襲われているのを助けずに見殺しにした。何の恨みもないから、即死魔法で殺すのは申し訳ないのでちょうどいい。引率の先生がいなくなって、みんなさらに震えだした。
僕とアレンは交代で眠り、僕は起きて魔力が回復するなり一人ずつ殺すことにした。アントルを殺した。怪我してなくて、元気そうだったから早めに殺した。次の日にアリイを殺した。こいつは隙あらば森から出ていくから殺すことにした。次の日はペールを殺した。一度縄が外れたとき、僕を攻撃しようとしたから殺すことにした。
これであと半分、残り5人になった。死んだやつの遺体はモンスターにあげた。放置したら腐ってしまうからね。残りの皆はろくに食べていないし、モンスターに襲われて負傷しているからかなり弱っていた。仕方がないので、口を縛っている間にから餓死しない程度に少し食料をやった。僕とアレンは相変わらず一行の食料をむしゃむしゃ食べていた。空いている時間はアレンとチェスしたりしたけどアレンが強すぎて勝てない。
そして五日間かけてデービスとタールとデビーとロイスとヤントを殺した。
これで元クラスメイト10人殺した。おそらく今即死魔法はレベル92だ。元クラスメイトはあと14人。
読んでくださってありがとうございます!




