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第115話 二人目

 次の日には、僕の体はすっかり元気になっていた。レベルを測りに行くと、なんとレベル81になっていた。人を一人殺すとレベルが1上がるのだろうか。それともレベルが上がるにつれ、殺す人数を増やさないとレベルが上がらなくなっていくのかどっちだろう。


 早速もう一人の死刑執行……といきたいところだったが、僕の心身の様子を見てから二人目の死刑執行日を決めることになっていたから、とりあえず校長先生に元気になったことを報告した。

「では監獄の方に連絡を入れますので、監獄が指定してきた日でお願いします。多分二、三日後になると思います」

「はい」

 となると、二、三日は即死魔法が使えなくて暇だなと思った。

「あ、そうだ先生、自分に即死魔法かけて殺すことってできますか?」

「え!?」

 先生は、今日はピエロ姿だったが、それでもわかるぐらい驚いた表情で反応した。

「死にたいんですか!?」

「いや、その、自分に『即死魔法』が効くか気になって……自分を殺して、リリイに生き返してもらってレベル上げもいいかなと……」

 それと、この間アレンが考えていた作戦が使えるかどうか検証するためである。

「なるほど。一応、自身にも『即死魔法』はかけられますが、あまりおすすめしませんよ。『蘇生魔法』で蘇生しても、最低半月ぐらい経たないと元の生活できませんので」

「そうなんですか」

「はい。一度死ぬわけですから、やはりかなり体にダメージかかります」

「なるほど……もうすぐテストだし、とりあえず今自分に『即死魔法』かけるのはやめておきます」

 殺されて蘇生されたことのある先生の言うことだし、言うこと聞いておいて損はないだろう。

「……君は本当に危なっかしいな」

 先生がぼそりと言った。今まで聞いたことのない口調と声色で、少し驚いた。

「僕、危なっかしいですか?」

「はい、突拍子のないことばかりするんですもの。先生いつもヒヤヒヤしていますよ」

 そうかなあ。僕はむしろ、本来怖がりだし、

そんなに突拍子もないことをしているつもりはないけど……


「キルル」

 ロビーに戻るとリリイが話しかけてきた。何か言いたげな顔をしている。多分、僕のレベルが上がっていることに気づいたのだろう。

「昨日、ほとんど部屋で休んでいたみたいだけど、大丈夫?」

「うん、もう平気」

「そう……私にできることがあったら、何でも言ってね」

「うん、ありがとう。それよりリリイ、もうじきテストだから勉強しなきゃ。後で一緒に勉強しようよ」

「ええ」

 リリイは、僕が国の依頼で殺人をしたことをわかっていただろうけど、何も聞かないでいてくれて、ありがたかった。


 その二日後、二人目の死刑執行を行うことになった。先日と同じように校長先生と監獄に向かい、鉄格子で分けられた部屋で死刑囚が連れてこられるのを待つ。

 今回の死刑囚の資料を見ると、なんと火魔法レベル100の魔法使いでうちの学校の卒業生だそうだ。名前はユン、性別は男、年齢は35歳。罪状は火魔法による器物損壊と傷害と殺人。気に入らないことがあると各所で暴れていたようだ。傷害だけで被害者は100人超え、殺人だと被害者が20人いる。

「彼は、一応同級生なので知っています。昔から、旧即死魔道士と並ぶレベルの不良でしたね」

 校長先生が言った。例のごとく素顔に黒いコート姿だ。

「火魔道士はものすごく気性が荒いのが一定数いるんですよ。彼はその典型ですね」

 鉄格子の向こう側の扉が開く。看守が入ってきたあと、死刑囚ユンが入ってきた。今度の死刑囚は暴れてはいなかった。緋色の長髪で、前髪が長すぎて顔がなかなか見えない。ユンはこちらを見るなり話しだした。

「あれ? 死刑執行すんのって即死魔道士じゃねえの?」

「即死魔道士ですよ。鉄格子の向こうにいる青年がそうです」

 看守がそう答えると、死刑囚はずかずかと鉄格子に近づいて、鉄格子に顔がめり込むところまで来た。長い前髪からものすごく人相の悪い顔が覗いた。

「このガキが!? あいつは? 『シニガミ』はどうした!?」

 いくつものピアスを携えた唇を動かしながら、死刑囚ユンは叫ぶように周りに尋ねた。

「あいつは、死にましたよ。今は、彼が『即死魔道士』です」

 答えたのは、校長先生だった。「シニガミ」は、「旧即死魔道士」のことだろう。

「お前、シキか! 色魔道士の! 久しぶりだな! そういやあの学校の先生だっけな!」

「『染色魔道士』ですって」

 死刑囚ユンは校長先生を見て嬉しそうな反応を見せたあと、続けた。

「そうか、『シニガミ』はくたばったのか。それで今の『即死魔道士』がこのガキか。虫も殺さなさそうな顔だけど、何も殺してなきゃここまで来れねえな。たいしたもんだぜ」

 ユンはしばらく僕を見つめていた。

「キルルくん、すみません、先生、席外していいですか。さすがに知人が死ぬところを見るのは辛いのです」

 校長先生はそう言った。

「ふん、ヘタレ。まあお前は色恋関係だけだもんなやんちゃなの」

 ユンは笑いながら校長先生に言った。ユンはこれから殺されるというのに何も動じていなかった。先日の死刑囚ゼルとは随分な違いだ。

「はい、大丈夫です」

 校長先生が退室すると、看守が話しだした。

「ユン、言い残すことはありますか?」

「そうだな……おい、お前」

 僕に話しかけてきた。

「人を殺すのって楽しいよな」

 ユンがそう言ったあと、しばらく監獄は静まり返った。

 僕は、言葉は返さなかったが、表情で汲み取ってくれたようだ。

「だよな。俺はもう思い残すことはねえ。とっとと殺してくれ」

「では、即死魔道士キルル様、お願いします」

 看守がそう言うなり僕は即死魔法の呪文を唱え、ユンは息絶えた。さっきまでとは違い、穏やかな死に顔を見せた。ユンの亡骸を看守達が運び出す。

 

 校長先生は、監獄の外で僕を待っていた。

「今日は、すみません。側にいれなくて」

「いえ」

 僕は首を横に振った。


 今日はこの間ほど体は疲れていなかった。

レベルを調べるとレベル82になっていた。殺人の呪文は一人殺すことに1上がるようだ。


 数日後にはテストが終わり、夏休みに入ることになった。


――人を殺すのって楽しいよな


 僕は、微笑んで返した。楽しい夏休みがやってくる。





 



 

 




 

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