第106話 セキュリティ強化騒動
先日、トイのクイズ作成魔法もレベル80になった。それに伴い、学校に変化が起きることになる。
「トイくんのクイズ作成魔法のレベルが上がって来たので、せっかくの機会ですから学校のセキュリティのシステムを一新しようかと思います」
校長先生がホームルームで説明する。
「入口にある、『校長先生を選んでください』のあれも、トイくんが三年前作ってくれたものなんですよ。学校から外に出るのは簡単にしますが外から中に入るのは少し難儀にしようと思います。今日からしばらく試験的にセキュリティを強めに、というかクイズ作成魔法を多めに設置します。やりすぎだと思ったら教えてくださいね」
なんだか嫌な予感がしたが、当たっていた。
次の日はリリイと外に出かけていて、学校に帰ってくると、入口の仕様が変わっていた。
「学校の校歌の第二番の十七文字目を答えてください」
学校の建物に入って最初にある小さな部屋の、入口から正面の壁にそう書いてあり、その下に候補の文字が並んでいる。正解の文字を押せばいいのだろう。
「校歌の二番?」
「どんな内容だったかしら……」
僕とリリイは二人で首をひねって悩んだ。校歌って、始業式と終業式になんとなく歌った記憶しかない。
「たしか、校歌も今年新しくなったよね?」
「ええ……」
だから、本当に数回も歌っていない。ましてや二番って。
「もう一通り押しちゃおうか」
「キ、キルル、こういうのはむやみに押すと……」
「え?」
リリイの言うことを聞く前に僕は、あらゆる文字を押してしまった。
耳を引き裂くような高い不快音が天井から鳴り響いた。
「三回間違えたので、敵とみなしセキュリティシステム発動します」
「ええー!?」
正面の壁がこちらに向かってずんずん移動してきた。僕とリリイは強制的に学校の建物の外に押し出された。
「困ったな、ゴーレムならともかく、壁は殺せないよ」
「壁は殺せない」なんて言葉を口にする日が来ると思わなかった。シュールな響きだ。
「入るのに失敗した場合、どうしたらいいのかしら」
途方にくれていると、リャが現れた。
「セキュリティ発動したから敵を確認しに来たら……」
リャは小回りが利くので、学校の警備のバイトをしているらしい。リャは僕とリリイを見て察したようだ。
「あははは、ごめん、適当に答えたらこうなって……」
「敵じゃない確認ー。正解は『に』ね。じゃ!」
リャは手早く伝えると、あっという間にどこかに行ってしまった。壁が元に戻っているので、さっきの問題に答え直した。無事に学校内に入る。
特殊クラスの部屋がある地下の廊下にくるとまた問題が書いてある壁が現れた。
「この学校の食堂の二番目に人気のメニューは?」
いや、知らないし……というか、校歌といい二番ばかり聞いて来ないで欲しい。
「リリイ、わかる?」
「二番目って言われると……」
だけど、よく見たらこの問題三択だ。
「僕がこの中で二番目に好きなメニューにしようかな」
「鳥モンスターの角煮」を押したら「不正解につきセキュリティ発動」という声がして、またしても壁が迫って来た。無理矢理外に繋がる魔法陣まで押し出され、また最初の部屋からやり直しとなった。
「キルル、最初の問題が変わっているわ!」
リリイが指差した問題を見ると、
「校長先生が二回目の離婚をしたのはいつですか?」
「いや、知らないよ!」
思わず叫んでしまった。ていうか先生二回も離婚しているのか。まだ入口の近くにリャがいたので、リャに泣きついた。
「みんなこんな感じで中に入れないんだよねー。やれやれ」
気がつけば、入口にうちの生徒がごろごろいた。みんな中に入れないのだろう。
「いやーみんな、この学校に対しての愛着がたりないんじゃなーい?」
トイがどこからともなく現れた。
「ふざけんな! お前クイズ作成魔法で学校を混乱させて遊んでるだろ!」
後ろから怒号と火魔法がトイに向かって飛んでくる。火魔法クラス辺りの気性の荒い生徒が暴れだしたようだ。
「あはは、バレたー? やっぱ魔法学校はこうでなくちゃ!」
トイも水魔法で余裕で応戦した。恐ろしい数の魔法弾が飛び交う。この学校の生徒のくせに、魔法弾を見慣れていない僕はおろおろしてしまう。
「生徒同士でいがみ合ってどうするの!」
そう言ったのはリリイだった。土魔法を使ったのか地面が揺れてみんな魔法への集中が途切れた。よく考えたら、今校内一強いのはリリイだ。リリイに止められない者などいなかった。
「トイくん、クイズはこの学校関連にしろとは言いましたけど、先生の離婚時期まで問題にしなくてよろしい」
校長先生が翌日のホームルームで注意した。
「はーい」
トイは昨日存分に暴れて満足したのか、セキュリティは程よくなった。「はじめからそうしろ」というブーイングが学校中からトイに来たのは言うまでもない。
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