第104話 新一年生
この間リリイとペアで買ったペンダントは、いつも身につけていたが、飾りの部分は服の中にしまって見せびらかさないようにしていた。
もちろん、こんなものつけていたら周りにからかわれるのが目に見えているから隠していたわけだが、僕が浮かれている様子から、あっけなくみんなにバレてしまった。
僕がやたら機嫌良さげでしかも今までよりもリリイと行動を共にする回数が格段に増えているのだからバレて当然とも言える。
このことでしばらくからかわれるかなあ、と思っていたが、他に大きな話題ができて思いがけず沈下した。
今年の適正検査で見つかった特殊魔道士は一人だけで、分身魔道士クローンという男の子だった。要するに、分身ができる魔道士だ。ワープマンの弟だそうだ。ワープマンのことを「兄貴」と呼んでいるし、故郷も同じだし、みんなてっきり実の弟だと思っていた。
ところが、
「俺の『姉貴』とワープマンが結婚したから『兄貴』なのであって、ワープマンは義理の兄貴だよ」
とクローンがロビーで話したのである。
「は!?」
ロビーでこの話を聞いた僕たちは当然度肝を抜かれた。
「あいつ結婚したのか!? カランド、ワープマン呼んで!」
トイがカランドに言った。カランドが音楽魔法でワープマンを呼び出す。学校中に、カランドが書いた音楽魔法陣があるので、音楽魔法を使って呼びかけると学校中に声が聞こえる仕組みだ。(読者の皆さんの学校の校内放送のようなもの)
すぐにワープマンがロビーに現れた。さすが瞬間移動魔道士である。早速トイが質問した。
「お前結婚したのか!? 教えてくれよ! 水くさ過ぎだろ!」
「いや、違う。まだ結婚してない。婚約してるけど。年齢的にまだ結婚できないし。ていうかカランドの音楽魔法こんなことで使うなって」
この国は男女共に18歳から結婚できる。みんなが詰め寄っているのでワープマンは少しうろたえていた。
「二人とも18歳になり次第結婚するんだよ」
クローンが情報を補足した。
「それいつなの?」
トイはもともと知識欲満載だが、他人のプライベートにいたるまで興味津々なタイプだ。クイズ作成魔道士だからか役に立たないなことまで知りたがる。
「俺の姉貴は、もうすぐ18歳だし、兄貴も夏には18歳だから、今年の夏休みごろに結婚するよ」
説明はすべてクローンがしている。ワープマンを呼び出す必要なかったんじゃないかと思う程いろいろ教えてくれる。
「卒業するまで待たないのか、すごいな」
ポールトーマスが言った。たしかに、高校から付き合って高校卒業してすぐ結婚は割とよくある話だが、学校在席中の結婚はかなり珍しい。
「うん、もう子供の時から家族ぐるみの付き合いだからもともと両家超乗り気でさ。兄貴が乗り気になった途端にあっという間に話が進んじゃって」
すべてクローンが説明している。
「姉貴がさ、風魔法レベル80どまりで地元にいるんだけどさ、兄貴はここに強制入学になって、しかも弟の俺までここに強制入学になったからすごく寂しがっちゃって。だから兄貴が『結婚しよう』って……」
「クローン! もうそのぐらいにしろ!」
ワープマンが瞬間移動魔法でクローンの元まで移動し、クローンの口を手で塞いだ。
「はあ、もうこいつがいたらプライベート筒抜けだなあ」
クローンを押さえつけながらワープマンはうなだれていた。耳が赤くなっているので照れているのだろう。
「まあ、俺も瞬間移動魔道士だから、他人のプライベートに侵入しまくれる立場だし、昔からよく知ってるのと結婚した方がいいと思ったんだけどね」
「そうそ。俺の家なんて、いまさら兄貴が驚くような新事実なんてないから、侵入してくれて結構だし、こんなこと言ってくれる家、他にないからね」
と、クローンが言った。その気になれば国中どこでも行ける瞬間移動魔道士ワープマンだが、結婚はものすごく近場でせざるを得ないというのは、なんだか皮肉な話だ。とはいえこの話をするワープマンは案外幸せそうだし、これでいいのだろう。
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