第100話 束の間の恋
レベル80になって人を殺すようになったら、多分僕の人生は大きく変わってしまう。人生というか、僕自身が変わってしまうと思う。今まで、モンスターだの動物だのを殺生してきた。それは、両親やクラスメイトやスーやリリイから見てもまだ許容範囲だろう。殺生に関する感覚もどうやらズレているようだけど、まだ許されてきた。
だけど、人を殺したら……周りの人たちはいよいよ離れていくかもしれない。ただ、人を殺したこと自体を伏せればまだなんとかなる可能性もある。
だけど、どう考えてもごまかしの効かない相手がいる。リリイだ。リリイは対の魔道士だからレベル80になったら人を生き返せる。リリイも、僕が即死魔法がレベル80になったら人を殺せることは把握している。つまり、僕がレベル80を過ぎると、レベルが上がるたびに人を殺めていることをリリイは自然と把握することになるのだ。
そんな僕をリリイが受け入れるだろうか。多分難しいだろう。
だけど、今なら?まだ人を殺す前の僕なら、まだ少しだけ可能性があるんじゃないだろうか。というかもう今しか可能性が残っていないんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、僕は王都の南門にいた。明日で冬休みが終わる。リリイは間もなく学校に帰ってくるだろう。
たくさんの馬車が南門にやってくる中で、リリイを探した。馬車から降りてきた人の中に、色白の、紺色のコートを着た女の子を見つけた。リリイだ。
「リリイ!」
リリイのところへ駆け寄る。リリイは、僕の姿に気がつくと、僕に微笑みかけた。
「リリイ! 待ってたんだ。一緒に学校に行こう」
「ええ」
リリイと共に学校へ向かう。学校は王都の端にあるから、学校へ近づけば近づくほど道から人が減っていき、静かになる。
歩きながらリリイと冬休みのことを話した。リリイはお母さんが亡くなったばかりなので、静かに過ごしていたようだ。僕も一応冬休みに里帰りしたことなどを話した。
「ごめんなさいね。付き添いのために冬休み半分潰させてしまって」
「いいんだよ。そんなの」
僕は平然と話しているように装っていたけど、本当は心臓がバクバク言っていた。リリイになんて言い出そう。
「リリイのためなら、僕が出来ることなら、何でもするよ」
そこで僕は足を止めた。もう学校の目の前まで来ていた。突然立ち止まった僕に気がついて、リリイも足を止めて僕を見た。
「リリイ、僕、リリイのこと好きなんだ。初めて会った時から、ずっと、好きだった」
リリイ、僕がレベル80になるときまででいいから、君の心を僕にちょうだい。少しの間でいいから……
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