第10話 南の特殊魔道士
南の地方の式典と適性検査では、一人特殊魔道士が見つかったそうだ。僕たちは校長先生がその子を連れてくるのをロビーで待っていた。だが、なにか揉めているようで、その少女と校長先生が言い合いしている声がロビーの外の廊下から聞こえてくる。僕たちは気になってロビーの外に出た。
「私、こんなところで三年も暮らせません! お願いします! 故郷の村に帰してください!」
少女が、校長先生に訴えていた。少女は後ろ姿で、顔は見えない。
「なりません。あなたは特殊魔道士なのでここへの入学は強制です」
校長先生は譲らなかった。
「どうしてです!? 私は故郷の村の学校で少し魔法を習えればそれで充分です!」
「そう言われましてもね、あなた、一般魔法も、火水土風草すべてレベル100の素質があるんですよ。あなたの故郷の村の魔法学校では面倒見きれませんよ。うちしかふさわしい学校がありません」
「そんな……」
「そしてあなた、ヒーラー志望でしょう。あなたは『蘇生魔道士』なんですよ。死んだ人を生き返すことができるんですよ。ここで『蘇生魔法』を会得すれば最強のヒーラーになれます。田舎出身で王都に馴染めないのはわかりますが、長い目でみればうちで勉強するのがあなたのためですよ」
「う、うう……」
少女はまだ受け入れきれてなさそうだったが、抵抗することもできなさそうだった。校長先生がその子の手を引っ張りかなり強引にロビーに連れてきた。僕たちもロビーに引っ込む。
ロビーにその少女が入ってきてようやく、少女の顔をはっきり見た。
かわいい!
僕はその少女に釘付けになった。表情は暗かったものの、白銀髮で、色白の透き通るような美少女だった。花の刺繍が施された紺色のワンピースを着ている。
「皆さん、こちらは『蘇生魔道士』のリリイさんです。王都に馴染めるかどうか不安らしいので、協力してあげてください。彼女が今年見つかった最後の特殊魔道士です。これで特殊クラスの顔ぶれが揃ったので、来週から授業を始めますよ」
蘇生魔道士リリイは、ロビーの僕たちに軽く会釈したが、すぐに踵を返し、ロビーを出ていってしまった。
「寮の自室に行ったようですね。まあ、学校内にいるならよしとしましょう。それと、キルルさん」
校長先生が僕を呼び寄せた。
「『蘇生魔道士』と『即死魔道士』は対の関係にあります。即死魔法は失敗すると、あなたが死んでしまうので、あなたはそのうち彼女にお世話になるでしょう。だから、特に仲良くしてあげてください」
「ええ? 僕、失敗すると死ぬんですか?」
「はい、人を殺すぐらいの強力な魔法でないとそうはなりませんが。なので『即死魔道士』は『蘇生魔道士』が側にいないと強力な魔法が使えなくなってしまいます。『即死魔道士』が現れる年はちゃんと『蘇生魔道士』も現れるようになってるんですよ。先週、最低あと一人現れると言ったのはこれが理由です」
「なるほど……」
「リリイさんをよろしくお願いしますね」
校長先生に言われずとも、僕は、リリイと話してみたくてたまらなかった。
要するに、一目惚れしてしまったのだ。
しかし、自室に籠もられてしまうとどうにもできなかった。女の子の部屋に強引に入ることはさすがにできなかった。ショウやリャなどの女子がリリイの部屋を訪ねたりしたが、リリイは授業が始まる日まで自室に籠もり、授業が始まる日まで誰とも交流しなかった。
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