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【澪亜】見習い聖女の憂鬱  作者: 澪亜【N-Star】
第一章 平穏な幸せ
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第七話 私と別離

 あれから、何事も無かったように過ごし、無事お父さんとお母さんの友人の結婚式も見届けた。

 そしてせっかく街に来たのだからと、必要なモノの買い出しに出かけていた。


「……お金、初めて見た」


 私の呟きに、お父さんは笑い出す。

 今更か、と自分でも思う。

 思うけれども……いかんせん、村では基本物々交換だからお金を必要としないのだ。

 ついその存在を忘れてしまっていても、仕方ないだろう。


「というかお金、家にあったんだね」


 そんな環境のため、そもそも我が家にお金があったこと自体驚きだった。


「おう。布とか狩った獲物とかを売って金にすることもあるんだ。まあ、あんまり使わないけどな。一応、何かあった時のためということで」


 お父さんは研ぎ石を買って、お母さんは調味料を買っていた。


「ねえ、何か良い匂いするよ?」

 アレンが私の袖を引っ張りつつ、指を指す。

 確かにアレンが指し示した店の方から、甘くて良い香りがしていた。


「ん? 何かの菓子か?……せっかくだから、食べて行くか!」


「本当!? わーい、やったあ!」


 小躍りするアレンを横目に、お母さんが小さく溜息を吐く。


「あなたったら……アレンに甘いんだから」


「良いだろ? 皆で食べよう」


「……そうね。何かしら? あんなに人が集まっているんだもの……きっと美味しいんでしょうね」


 いそいそと家族でその列に並ぼうとした……その時だった。

 急に並んでいる人たちがこれ以上は下がれないというほど脇に身を寄せ、人混みが目の前から消えたのは。

 ……何があったのだろうか?

 そう疑問を口にする前に、女性二人と男性二人が反対方向から近づいて来るのが眼に映る。

 女性二人はシルエットが隠れそうなほどゆったり目の白い服を着ていて、その中央には金糸で丸の中に五角形の星が描かれている。

 男性は全然鎧を身に纏っていて、腰には剣を帯びていた。


「神官様と騎士様……」


 呆然と、お父さんが呟く言葉に衝撃が走る。

 目の前の人たちが、『あの』神官……?

 私の混乱を他所に、いつの間にか目の前まで来ていた女性が私に手を差し伸べた。


「お迎えに来ましたよ」


 そう、極上の笑みを浮かべながら。

 ……迎え?

 目の前の状況について行けず、私はただただその手を見つめることしかできない。

 視線をズラせば、騎士は跪くように頭を下げている。

 …何、この状況?


「……恐れ入りますが、神官様。娘を迎えに来たとは一体……」


 私が固まる横で、お父さんが庇うように私と神官の間に立った。


「この娘の親ですか。ならば、喜びなさい。あなたの娘に、神力があることが観測されました。よって、学園への入学を許可します」


 神官が淡々と事務的に告げる。

 私たちの様子を伺っていた通行人たちは、彼女のその言葉に騒ぎ始めていた。


「何かの間違いでは? ……通常、学園には遅くとも十になる前までには入学すると聞いていますので。この子は見ての通り、十五歳。既に入学する歳を随分と越しています」


「歳は関係ありません。確かにこの歳になるまで神力が観測されなかった点は不可解ですが……一度観測された以上、学園へ入学することは決まりなのです」


 例外は認めないとでも言うかのように、神官がピシャリと言い放つ。

 お母さんは既にアレンを抱きしめながら、泣いていた。


「さあ、あなたは私と共に来るのです」


 有無を言わさないその言い方に、段々と腹が立ってきていた。


「決まりだか何だか知らないけれども、私はそんなところに行かないわ。村で生活するのに、学園なんて通える訳がないもの」


「……通う? そんな心配、必要ありませんよ。学園は全寮制ですから」


 コロコロと笑いながら、神官の一人が告げる。

 ……お母さんがあの出来事を無かったことにしようと告げた理由は、これだったのか。

 やっとその意味が分かったけれども……こんな形で知りたくはなかった。


「さあ、早く。貴女には、覚えなければならないことが沢山あるのですから」


「嫌よ……行きたくないわ」


 あくまで拒絶を示す私の頑なな態度に、神官は息を吐く。

 それと同時に、控えていた騎士が立ち上がった。


「決まりですから」


 神官がそう言うが早いか、騎士二人が小さく『失礼』と呟いて私の手を取る。


「お父さん、お母さん、アレン……!」


 助けを求めるように後ろを振り向くも、皆神官の人たちが立ち塞がっていて動けないようだった。


「クレア……!」


 涙を溜めて、お父さんとお母さんが叫ぶ。


「お姉ちゃん!」


 状況をよく分かっていないだろうアレンも、私を求めて叫んでいた。

 そんな悲しい叫びを聞きながら、私は強制的に連れられて行ったのだった。

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