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【澪亜】見習い聖女の憂鬱  作者: 澪亜【N-Star】
第一章 平穏な幸せ
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第六話 私の力

 気がつけば、私はベッドに横たわっていた。

 慌てて飛び起きる。


「お父さん……お母さん! アレン!」


 そしてその勢いのまま、叫んだ。


「クレア……! ああ、気がついたのね!」


 側で看病してくれていたらしいお母さんが、泣きそうな顔をして私に抱きつく。


「お母さん、皆は……?」


「大丈夫よ。あれから無事街に辿り着いて、今は宿にいるのよ」


「そう……良かった」


 ホッと、安堵の息を漏らした。

 ……本当に、良かった。

 この大切な家族を、失わずに済んで。

 そう、共にいれる歓びを噛みしめる。


「お母さん、あの魔物は……?」


 私の問いかけに、一瞬お母さんは言葉を詰まらせていた。

 けれども、次の瞬間お母さんは首を横に振る。


「……きっと、気のせいだったのよ」


 唐突なその言葉に、私は思わず反論をしかけて……けれども、止めた。

 お母さんが何故か、泣きそうな顔をしていたから。


「私もお父さんもアレンも……そして貴女も、疲れていたから。だからきっと、変な夢を見ちゃったのよね。こんなこと恥ずかしくて誰にも言えないからって、私もお父さんも誰にも話してないわ。アレンはそもそもよく覚えていないみたいだったし……。まあ、夢だから仕方ないわよね」


 ふふふ、とお母さんは泣きそうな顔をして笑っていた。


「お母さんもね、お父さんも……貴女が村にいたいという気持ちを尊重したいの。ううん……私たちが貴女ともっとずっと共にいたいのよ。だから、こんな夢、早く忘れてしまいましょう?」


 ……まるでこれ以上、言及してくれるなと。

 そう言っているような気がした。

 分かったのは、私の力が露見すれば……家族と一緒にいられなくなるかもしれないということ。

 それが嫌な私の答えは、決まっていた。


「うん、そうだね。私も情けないな……夢見が悪くて寝続けるなんて。何だか寝過ぎちゃって、逆に体が怠くなっちゃったわ」


 私の答えにお母さんは一瞬驚いたように目を丸くして……そして優しく微笑んだ。


「あら、じゃあお夕飯はいらない?」


「いるいる! すぐに食べたい!」


「ふふふ、良かった。じゃあ下にクレアの分は取っておいてあるから、今取りに行くわね」


「え、いいよ。私が自分で食べに行く」


「そう?」


「うん、動かさないと体が怠いままだろうし」


 私は立ち上がると、そのまま階下に向かう。


「お姉ちゃん!」


 宿屋の食堂の一角にお父さんとアレンが座っていた。

 アレンは私の姿を見つけると、目を輝かせて抱きついてくる。


「もう、体は大丈夫?」


「ええ。ごめんなさい、心配をかけて」


「いや、俺の方こそお前に無理をさせて悪かったな。慣れない旅で、疲れが出たんだろう」

 アレンを抱えたまま、私はお父さんの席の前に座る。


「ううん、全然。お父さんは気にしないで」

 同時に、宿屋の人が私の前に食事を持ってきてくれた。


「まあ、アレンたら……。お姉ちゃんは疲れているのよ? そんなに抱きついたら、お姉ちゃんの疲れが取れないでしょう?」


 私の後から来たお母さんが、アレンを|嗜≪たしな≫める。


「……ごめんなさい」


 アレンは素直に言うことを聞くと、私の膝から降りて横の椅子に座り直した。

 そんなアレンの頭を撫でる。

 それから食事を食べながら、皆で旅の話をして盛り上がった。

 ……けれども誰も、あの魔物のことには触れなかった。

 それはきっと、無かったことにしようとしてくれているからだろう。

 魔物の話をすれば、必ず私がおこした出来事の話になる……そこに行き着けば、それは私のあの不思議な力を認めることと同じ。

 そしてそれが露見してしまえば……何故かは知らないけれども、私は家族と共にいられなくなる。

 この宿屋の食堂は泊まる人皆が利用するから人で溢れていて、誰が私たちの話を聞いているか分からない。

 だから、お父さんもお母さんも口には出さない。

 その気遣いが嬉しくて、私は話しながら少しだけ泣きそうになっていた。

 そうして食事は終わり、私たちはそれぞれの部屋に戻った。

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