第六話 私の力
気がつけば、私はベッドに横たわっていた。
慌てて飛び起きる。
「お父さん……お母さん! アレン!」
そしてその勢いのまま、叫んだ。
「クレア……! ああ、気がついたのね!」
側で看病してくれていたらしいお母さんが、泣きそうな顔をして私に抱きつく。
「お母さん、皆は……?」
「大丈夫よ。あれから無事街に辿り着いて、今は宿にいるのよ」
「そう……良かった」
ホッと、安堵の息を漏らした。
……本当に、良かった。
この大切な家族を、失わずに済んで。
そう、共にいれる歓びを噛みしめる。
「お母さん、あの魔物は……?」
私の問いかけに、一瞬お母さんは言葉を詰まらせていた。
けれども、次の瞬間お母さんは首を横に振る。
「……きっと、気のせいだったのよ」
唐突なその言葉に、私は思わず反論をしかけて……けれども、止めた。
お母さんが何故か、泣きそうな顔をしていたから。
「私もお父さんもアレンも……そして貴女も、疲れていたから。だからきっと、変な夢を見ちゃったのよね。こんなこと恥ずかしくて誰にも言えないからって、私もお父さんも誰にも話してないわ。アレンはそもそもよく覚えていないみたいだったし……。まあ、夢だから仕方ないわよね」
ふふふ、とお母さんは泣きそうな顔をして笑っていた。
「お母さんもね、お父さんも……貴女が村にいたいという気持ちを尊重したいの。ううん……私たちが貴女ともっとずっと共にいたいのよ。だから、こんな夢、早く忘れてしまいましょう?」
……まるでこれ以上、言及してくれるなと。
そう言っているような気がした。
分かったのは、私の力が露見すれば……家族と一緒にいられなくなるかもしれないということ。
それが嫌な私の答えは、決まっていた。
「うん、そうだね。私も情けないな……夢見が悪くて寝続けるなんて。何だか寝過ぎちゃって、逆に体が怠くなっちゃったわ」
私の答えにお母さんは一瞬驚いたように目を丸くして……そして優しく微笑んだ。
「あら、じゃあお夕飯はいらない?」
「いるいる! すぐに食べたい!」
「ふふふ、良かった。じゃあ下にクレアの分は取っておいてあるから、今取りに行くわね」
「え、いいよ。私が自分で食べに行く」
「そう?」
「うん、動かさないと体が怠いままだろうし」
私は立ち上がると、そのまま階下に向かう。
「お姉ちゃん!」
宿屋の食堂の一角にお父さんとアレンが座っていた。
アレンは私の姿を見つけると、目を輝かせて抱きついてくる。
「もう、体は大丈夫?」
「ええ。ごめんなさい、心配をかけて」
「いや、俺の方こそお前に無理をさせて悪かったな。慣れない旅で、疲れが出たんだろう」
アレンを抱えたまま、私はお父さんの席の前に座る。
「ううん、全然。お父さんは気にしないで」
同時に、宿屋の人が私の前に食事を持ってきてくれた。
「まあ、アレンたら……。お姉ちゃんは疲れているのよ? そんなに抱きついたら、お姉ちゃんの疲れが取れないでしょう?」
私の後から来たお母さんが、アレンを|嗜≪たしな≫める。
「……ごめんなさい」
アレンは素直に言うことを聞くと、私の膝から降りて横の椅子に座り直した。
そんなアレンの頭を撫でる。
それから食事を食べながら、皆で旅の話をして盛り上がった。
……けれども誰も、あの魔物のことには触れなかった。
それはきっと、無かったことにしようとしてくれているからだろう。
魔物の話をすれば、必ず私がおこした出来事の話になる……そこに行き着けば、それは私のあの不思議な力を認めることと同じ。
そしてそれが露見してしまえば……何故かは知らないけれども、私は家族と共にいられなくなる。
この宿屋の食堂は泊まる人皆が利用するから人で溢れていて、誰が私たちの話を聞いているか分からない。
だから、お父さんもお母さんも口には出さない。
その気遣いが嬉しくて、私は話しながら少しだけ泣きそうになっていた。
そうして食事は終わり、私たちはそれぞれの部屋に戻った。