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【澪亜】見習い聖女の憂鬱  作者: 澪亜【N-Star】
第一章 平穏な幸せ
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第四話 私と村の異変

「ありがとね、クレアちゃん。水やりを手伝ってくれて、助かったよ」


 虫と激戦を繰り広げ、あわや負けそうになったけれども……無事、任務を完了した。

 そんな達成感に浸りつつ、畑の傍らで汗を拭っていると、畑の持ち主である隣家のおばさんが声をかけてきた。


「お安い御用です。それよりおばさん、怪我の具合はどうですか?」


「大分違和感はなくなったんだけどねぇ……」


「そうですか……。また、お手伝いできることがあったら言ってくださいね」


 虫という強敵がいるけれども、こちとら村で過ごすこと十五年。

 既に攻略方法を会得しているという自負から、それが理由で逃げる訳にはいかない。

 そう固く心に決めつつ、おばさんに言葉をかける。


「本当にありがとう。いつも手伝ってくれるお礼と言っちゃ何だけど、畑の野菜、好きなもの持って行っておくれ」


 何度か遠慮したけれども、結局、おばさんから少なくない野菜を貰った。

 せっかくこんなに貰ったのだから、野菜をたっぷり使った炒め物でも作ろうか。

 幾つかはアレンの苦手なものだけど、かなり細かく刻めば気づかれないかな……。

 そんなことを考えながら家に帰ると、既に私以外の三人全員が席についている。


「あれ? 皆、どうしたの?」


「今度街に行く用事ができたんだが、せっかくだから家族皆で行こうかと思ってな」


「……街に行く用事? 何かあったの?」


「父さんと母さんの共通の友達で、街に出て働いているやつがいるんだが……今度、結婚することになったんだ。その祝いの席に呼ばれたから、せっかくだし皆で街に行こうかって話になったんだ」


「行ってみたい! ……でも、私とアレンが行ったらお父さんとお母さんは結婚式でゆっくりできないんじゃない? アレンのことは私が見ておくから、二人でゆっくりして来れば?」


「何言ってんだ。家族の自慢ができる良い機会なんだぞ?」


「そうよ。二人が一緒で邪魔になることなんて絶対ないから、遠慮はしないで?」


 二人のその言葉と、アレンの「行ってみたい」という発言で、家族で街に行くことが決定。

 それから、なんと明日の朝には出なければならないということで、慌ただしく街に行く支度をしていた。


 ……そして、その夜。

 私は二階にある自室の窓から、ボンヤリと村を眺めていた。

 慌しさに多少の疲労感は感じつつも、外の街に行くことに存外興奮しているのか、中々眠気が来ない。

 ……本当は、街に出てみたいと強く思っていた。

 私ぐらいの年の子は、半数以上が村から出ている。

 それは、外の世界で働くため。

 村での生活は、良くも悪くも平穏。

 それ故に、刺激を求めて外の世界への憧れを抱く子は多かった。

 私もまた、外の世界への憧れを持っている。

 せっかく生まれ変わったのだから、この世界を見て回ってみたいと。

 けれども、家族から離れる気にはならなかった。

 ……怖い、から。

 大切に思えば思うほど、一分一秒と時が経つのが恐ろしい。

 だって、ずっと同じではいられないから。

 時が経てば経つほど、何らかの形で変わっていく。

 例えば、大きくなったアレンがやっぱり村の外に出て働きたいと言い出すかもしれない。

 お父さんとお母さんもいつかは、私を置いて逝く。

 今のこの光景を愛せば愛すほど、大切にすればするほど……変わることが、怖くなる。

 そして何より、失うことが怖い。

 だって次の瞬間にも、その『大切なのもの』がどうなるか分からないじゃないか。

 当たり前のように思えるほど側にいても、それが無くなる時はあっという間のことで。

 だからこそ、私は家族の元にいたいと強く願う。

 一分一秒でも、長く。

 共に笑って泣いて、そうして時を積み重ねてたいと。

 それは、依存にも近い執着。

 そう思いながらも、それでも……あんな絶望を味わいたくないと、私はそれを改める気にはならなかった。

 だから、私はこれから先もきっと村から出ることはない。

 それを思えば、今回はきっと良い機会なのだろう。


「……楽しみだなあ」


 見上げれば、満点の星空。

 ……綺麗。

 きっと、こんな星が綺麗なところは中々ない。

 それでも、新しい世界を前にどうしても胸が高鳴っていた。

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