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【澪亜】見習い聖女の憂鬱  作者: 澪亜【N-Star】
第三章 聖地巡礼と神官
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第三十八話 私と事後処理②

「現在、フェリシテ先生の足取りを追っているわ。事件の後、先生が忽然と姿を消したので……って、話が逸れたわね。組織による工作によってレベッカさんは陥れられたために情状酌量の余地があるということで、彼女の処遇は監視のみで引き続き生徒として学園に通ってもらうことになったわ」


 イザベル先生の言葉に、ホッと安堵する。

 レベッカ本人にとっては幸か不幸かは分からないけど……少なくとも、私にとっては幸せな知らせだ。

 これからも、一緒にいられるのだから。


「瘴気の影響は?」


「特に認められなかったわ。むしろフレイア様の神術の影響か、彼女の神力は底上げされたようね。流石フレイア様の神官ね、クレアさん」


「そうですか……」


 まさかあの時の術に、そんな効果があるとは知らなかった。

 そもそも、どんな術を使ったのかさえ記憶にない。

 というのも、あの時はいっぱいいっぱいすぎて、かなり記憶が曖昧なのだ。

 なので、先生の賞賛にも乾いた笑みを返すことしかできない。


「……そ、それより、レベッカはいつ頃謹慎が解けるのですか?」


 場の空気を変えるように、話題を変えた。


「来週から通常通り授業に出席できるわよ」


「ほ、本当ですか!? では、来週はなるべくレベッカと共にいます。きっと、彼女は未だ自責の念に駆られているでしょうから」


「そうしてくれると助かるわ。クレアさんとアビーさんはレベッカさんと仲が良いと聞いてるから、そうしてくれたら彼女も早く日常に戻れるでしょう」


 先生の言葉に、私は自信を持って頷く。


「……それにしても、フェリシテ先生ですか。フェリシテ先生の身柄が確保されるまでこれからも捜索していただくのでしょうが、学園内に他に組織の手の者がいないか調査はしないのですか?」


「当然、調べたわ。神官見習いを選出する時と同じように、神の力もお借りして。それでも、いないという結論になったの」


「ああ、神の力ですか。それなら、フェリシテ先生の捜索にも神の力を使えば容易に発見することができるのではないでしょうか? 学園内に瘴気が発生した以上、以前のようにフィルメロ教も知らぬ存ぜぬで非協力的ということはないでしょうし」


「既にそれはやったのだけど、それでも見つからないの。担当した神官によると、恐らく邪神の力を使って神力による捜索を妨害しているのだと」


「……そういうことなら、人海戦術より他はないということですね」


 それがどれだけ有効なのかは些か疑問だが。

 何せ、イザベル先生ほどの実力者が、単独とはいえ長い間調査しても全容を掴めなかったのだ。

 それほど、組織は情報の管理が徹底されているということだろう。


「……私からも、宜しい?」


 先生の問いに、私は首を縦に振った。


「あの場で聖女としての力を示した以上、もうクレアさんは後に引けない。既に、フィルメロ教本部も御三家も貴女の存在を知りました。……本当に、それで良かったの?」


 それは、私の先を案じる先生の問い。

 私が聖女になることを忌避していたことを知っていたからこそ、だろう。

 どこまでも私のことを気遣う先生に、思わず笑みがこぼれる。


「後悔はありません。あの場で何もしなければ、それこそ後悔してもしきれなかったでしょうから。正直なところ、聖女としてやっていけるのか……聖女となる覚悟があるのかと問われれば、私自身まだ心の整理はできていません」


「クレアさん……」


「これから先のことを考えると憂鬱になることもありますが……定まった道であろうとも、どのように進むかは私次第だと思っています。だから、私は私らしくこの道を進もうと思います」


 ヘレン様の言葉が、今になってよく思い浮かぶ。


『ただ一つの道しかなくとも、その道をどのように進むかは自分次第。……クレアさんが何故頑なに聖女となることを拒否するのかは、知りませんが……案外、自分の気づかぬところで自らを縛り付けてしまっているものですよ』


 確かに、私は私自身こうあるべきだという思いに囚われていたのかもしれない。

 たとえ神官見習いにならずとも、道が定められていなかったとしても、きっと私自身で道を狭めてしまっていただろう。

 私は自由気ままに振舞っていた気になっていただけで、全然自由ではなかった。


 私はこれから先、聖女として定まった道を進む。

 けれども、どう進むかは私次第。

 私が私らしくあれるか……多分、それだけで私が思っていた以上に世界は広いものなのだと感じられるだろう。


「それに、邪神との対峙は私も本望です。なので、先生。お気遣いは有り難いですが、私は逃げないのでご安心ください」


 邪神との対峙が怖くないといえば、嘘になる。

 けれど私は、前世からの因縁にケリをつけたい。

 私を、そして私の家族を亡き者にしたそれに勝利したその時……私は始めて、本当の意味で家族に謝ることができる気がするから。


「……そう。貴女がそこまで言うのであれば、私からこれ以上言うことはありません。クレアさん……否、聖女の道を進まれるクレア様を、私は全力で支援致しましょう。今後とも、是非ともよろしくお願い致します」


 先生はそう言って、頭を下げた。

 それは、神官にとって最も敬意を表す最上の礼。

 その仕草に畏れ多いと思いつつも、思わず笑みが溢れた。


「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 そうして、私も頭を下げた。

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