第三十七話 私と事後処理①
あの事件から、日々は慌ただしく過ぎて行った。
レベッカは先生やフィルメロ教の人たちからの事情聴取のために拘束されているようで、あれから一度も会えていない。
私も、あれから随分と環境が変わった。
嫌味の言葉や侮蔑のこもった視線を向けられることは、まずなくなった。
代わりに、まるで動物園の動物にでもなったかのように、常時遠巻きに見られている。
嫌な思いこそしないけれど、確実にストレスは溜まっていた。
「まさか、こうも環境が変わるとは……」
「そりゃ、そうだよ。まさか……まさかクレアがフレイア様の神官だったなんて! それも初代聖女様と同じく、完全な憑依ができるんだよ!?」
私のぼやきに、アビーが殊更反応をする。
「いや、でもさあ……。こうもあからさまだと、そう言いたくもなるよ」
「まあ……それはそうだね」
「それにしても、レベッカはいつ帰ってこられるんだろう?」
「とっくに尋問は終わったようだけどね。大方、処分が定まるまで監視の下で謹慎させられているんだろうね」
「……処分?」
「うん。瘴気を学園内に招き入れた上に、結界を破壊。前代未聞の事件だから、何かしらの処分は下ると思う。オマケに、あれだけ長いこと濃密な瘴気の中にいたからね。神力が変容して、神官になる資格が失われていてもおかしくない」
「神力って、瘴気でどうにかなるものなの?」
「さあ。でも、人は許容量を超える濃い瘴気によって魔物になる。なら、神官だって何らかの影響を受ける可能性があると思わない?」
……ああ、そうか。
アビーの言葉に、レベッカの言葉の真意を悟る。
あの、叶わないと諦めているような物言い。
それは、学園に残りたくとも残れないかもしれないと予測していたのだろう。
だからと言って、手をこまねいて待っている訳にはいかない。
望みがあるのであれば、最後まで足掻く。
そう、決めたから。
「……ちょっと、イザベル先生に確認してみる!」
「私じゃ無理だったけど、クレアなら先生から何かを聞き出せるかもね。いってらっしゃーい」
立ち上がった私に、ヒラヒラとアビーが手を振って見送ってくれた。
* * *
学園内を歩くと、殊更視線を感じる。
これが嫌で、事件の後はあまり人通りのあるところを通らないようにしていたのに。
慌てていたせいで、つい失念していた。
ふと、キャメロンさんと目線が合う。
キャメロンさんはピクリと震えると、すぐさま視線を外した。
……そのあからさまな反応に内心溜め息を吐くと、そそくさとその場から離れる。
「……あら、クレアさん」
先生の私室前に到着すると、そこにはケリー様がいた。
「ケリー様、ごきげんよう」
「……同じ三貴神同士、様付けは不要です」
ケリー様の言葉に、私は驚いて顔を上げる。
だって、その言葉の意味するところは……。
「クレアさん……無礼な言動の数々、大変失礼致しました」
まさかのケリー様の私を認めるような発言に、最早驚きを隠せない。
「……謝罪は不要です、ケリー様。ケリー様は私を貶めるためではなく、私の力不足を指摘してくださっただけですから」
ずっと、悪意ばかりを向けられていた。
そんな悪意に満ちた言葉が溢れる中で、彼女のそれは棘があるものの真っ直ぐだった。
だから、ケリー様に苦手意識はあるものの嫌いという訳ではない。
「そう言っていただけて何よりです。今後とも、是非よろしくお願い致します。……では、失礼致します」
そう言ってこの場を去っていくケリー様を見送った後、私はノックをして先生の部屋に入る。
「……イザベル先生、お忙しい中申し訳ありません。レベッカのことをお聞きしたいのですが」
「ちょうど予定は空いてるから、大丈夫よ」
先生の言葉に甘えて、私は椅子に腰を掛けた。
「……それで、先生。レベッカはどうなったのですか?」
「尋問の結果、どうやらレベッカさんは何者かに瘴気を植え付けられたようね。レベッカさんは詳しく分かっていないようだけど、どうやら邪神を崇める組織の仕業かと」
「ああ……イザベル先生が以前教えて下さった件の組織ですね。ですが、レベッカはこの学園の生徒ですし、外の人間との接触は難しいのでは?」
「……確定的ではないけれど、恐らく内部の者の仕業かと思われるわ」
「内部の者……!?」




