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【澪亜】見習い聖女の憂鬱  作者: 澪亜【N-Star】
第三章 聖地巡礼と神官
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第二十七話 私とヘレン様の告白

「ヘレン様! クレアさんが、フレイア様の神官とは一体どういうことですか!?」


 ケリー様が普段見たことのないような慌てふためいた様子で、ヘレン様に詰め寄る。

 周りに待機していた先生たちは、あまりの事態に顔を真っ青にさせていた。

 中には、倒れている先生すらいる。


「言葉の通りです。この宣託の場に入ることができたということは、彼女も“三貴神”――つまり、クレアさんこそがフレイア様の神官なのです」


 そう言いながら、ヘレン様はしゃがみ込んで私に手を差し伸べてくれた。


「さ、今は混乱しているでしょう。一先ず学園に戻り、明日、ゆっくり話しましょう」


 私は戸惑いつつ、ヘレン様の手を取る。

 瞬間、どっと疲れが出て体が重く感じられた。

 ケリー様とセラフィーナ様も同じくその場でぐらりと体制を崩すのを目にしつつ、私は意識を手放した。



 * * *



 気がつくと、見覚えのある天井が目に映る。

 私は暫く身動みじろぎ一つせずに、ボウっとしていた。


「……大丈夫ですか? クレアさん」


 扉の開く音がしたかと思えば、そこにいたのはイザベル先生だった。


「先生……」


「随分と、摩訶不思議なことになりましたね」


 その瞬間、急に頭が覚醒した。


「そうだ……っ! 聖地巡礼は……?」


「終わりましたよ。無事、終わりましたの。クレアさんの事情を知る関係者以外は、何事もなかったかのようにね」


 クラリと眩暈を感じつつ、私は起き上がる。


「……その事情を知る関係者というのは、一体どれ程?」


「あの宣託の場側近くで控えていた、限られた教師と神官のみです。それから、フィルメロ教の上層部のほんの一握りですね」


 混乱を避けるためだろうけれども、有難い。

 眠っている間に、全ての退路が塞がれているという状況に陥ってはいなかった。

 まだ、反論するチャンスは残っている。


「先生。ヘレン様はどちらにいらっしゃるのですか?」


「それを案内するために来たのよ。他の関係者が如何に問い詰めても、全くヘレン様は口を開かないの。本人が話を聞けないのに、当事者じゃない面々が先に話を聞くことはおかしいと。お陰で、こうして急かしに来させられた……という訳よ」


「それは……お手数をおかけしました」


 ぺこりと頭を一回下げて、そのまま先生の後を追うように進む。

 たどり着いた先には、数名の先生とケリー様、セラフィーナ様、そして――ヘレン様だけがいた。


「クレアさん、具合はどうですか?」


「問題有りません。少し、眩暈はしますが」


「それが、三貴神となった証。精神の狭間で神と会うことで宣託は果たされるらしいのだけど、会うとゴッソリと神力を消費してしまうらしいの」


 ……ちょっと待って。

 あの場で、私は確かにケリー様でもセラフィーナ様でもない女性と会っていた。

 記憶はないものの、初めて会ったとは思えない、妙に懐かしさを感じる人。

 けれどもその一方で、会ったら絶対に忘れないであろうと思える程に美しいその人に。


 まさか、その人がフレイア様だと言うの!?


 固まる私の考えを見透かしているかのように、ヘレン様はクスリと笑う。


「この学園に入学する前より、私がフレイア様の神官となれないことは確定していたことでした」


「一体、それはどうしてですか? ソレイユ家のご令嬢であり、全てにおいて優秀な成績を収めるヘレン様以外に、フレイア様の神官に相応しい方はおりません!」


「……ありがとう、ケリー。でも、貴女がどう思うとも……私がどれ程願おうとも、入学前には覆られないことになっていたの」


「一体何故……」


「まさか……他の神に宣託を受けていた、とか?」


 恐る恐るといった感じで、セラフィーナ様が問いかける。

 ヘレン様はその言葉に、笑みを浮かべて頷かれた。


「ええ、正解。私は既に入学前に他の神の宣託を受けていた……だから、フレイア様の神官となることはあり得ないことだったの」


「……ですが、確かヘレン様はこの学園に入学されたのは六歳。一体どう……」


「私に宣託をなさった神は、少々特殊な神でして。“フレイア様の為ならば、大抵のことを可能にしてしまう”のですよ。ですから、私が既に宣託されていることを誰にも気付かれずにここまで隠すことができたのです。……そういう訳で、家族も学園関係者も、勿論フィルメロ教も……誰も知りませんでした。その一方で、私は密かにフレイア様の本当の神官を探しておりました。クレアさんが怪しいとは思いつつも確信が持てず……ここに至るまで分からず終いだったことは恥ずかしい限りですが、でも、無事に貴女が襲名されたことを心より喜ばしく思います」


「そんな……何かの間違いですよ。だって、私は実技の成績、最底辺なんですよ? なのに、フレイア様の神官だなんて……絶対、あり得ないと思いませんか?」


「実技の成績なんて、関係ありませんわ。神が選ぶか、選ばぬか。ただ、それだけなのです。貴女がフレイア様の宣託を受けた……それ以上の、証明はございません」


「そんな、何かの間違いです……! だって、だって……!」


 間違いでなければ、私は更に深みに嵌ってしまう。

 ずぶずぶと、ずぶずぶと。

 そうして逃れられなくなってしまう。

 この、神官というしがらみから。


「貴女がフレイア様の神官となったことは、未だこの場にいる方々と学園長それからフィルメロ教の上層部しか知らぬことですが、それも長く隠し通せるものではございません。次の春の式典までに、貴女がフレイア様の神官として恥ずかしくないよう、知識と作法を身につけなければなりません」


「嫌ですっ……! 私は、フレイア様の神官にはなりませんから……!」


 そう叫ぶと、私はそのまま逃げ出すように部屋を出た。

 そして当てのないままに、走り続ける。


「クレアさん! 学園内で走るとは、何事ですか!」


 そのせいで、先生に捕まって小一時間捕まる羽目になったのだった。

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