第二十四話 出発
……さて、いよいよ聖地巡礼のため学園を出る日がやって来た。
楽しみにしていたかと聞かれれば、行事自体はそうでもない……というのが正直なところ。
でも、久し振りに学園の外に出ることができるということには、心が躍る。
せっかくの外の世界なのだ。自由行動は許されないけれども、存分に楽しもう。
「いよいよだね、クレア」
アビーも同じ気持ちなのか、興奮した様子で呟いていた。
レベッカは少しばかり顔色が悪いものの、目を合わせればニコリと微笑んでくれた。
「それでは、聖地に向かいます」
先導する教師に付き従って、学園の広い敷地に停められている船に乗り込んだ。
学園から聖地までは、空を飛ぶ船に乗って向かう。
聖地に向かう面々全員が船に乗り込むと、神官たちを中心に船に莫大な神力が込められる。
瞬間、フワリと重力から解き放たれて船が浮いた。
「空を飛ぶなんて初めてだー!」
アビーが目を輝かせて、船から身を乗り出すようにして下を覗き込む。
「学園があんなに小さい!」
楽しそうな彼女の声色に耳を傾けながら、私は逆に空を眺めていた。
雲ひとつない、蒼い空。
「……吸い込まれそう」
視界いっぱいに広がるそれを眺めていると、このまま溶け合って自身が消えてしまいそうな……そんな妙な不安と、どこへでも行けそうな開放感が胸を満たす。
「クレア、楽しんでる?」
トンと軽く肩に衝撃を感じて後ろを見れば、満面の笑みを浮かべたアビーがそこにいた。
「勿論、楽しんでるよ。こんな綺麗な景色、中々見れないもん。いつでもこの船が使えたら便利なのにね」
「それは、無理。この船は複数の神官が船を動かすために必要な神様の助力を発動させて、更にその他の神官たちが神力を継ぎ足すようにサポートして、やっと動かせるものだもん。聖地巡礼っていう一大行事がなければ、国に散らばっている神官をこんなに集めることなんてまず無理だしね」
「へえー。道理で、学園の人たちだけじゃなくて神官様たちもこの船に乗り込んでいるわけだ」
「そういうこと。余程聖地に近いところにいなければ、基本皆学園からの出発にしているのはそういう理由。それに、こんな船でもなければ警備上、学園の生徒たちを一気に外に出す事はできないからねえ」
「警備上、ね。まあ……それでこんな景色が見られるんだから、むしろ幸運かな? でも、家族にも見せてあげたいなあ」
アレンがここにいたら、アビー以上にはしゃいで大変なことになっていただろうけど。
でも、喜ぶ姿を思い浮かべたら自然と?が緩む。
「クレアは本当に家族が好きだねえ」
アビーは微笑みを浮かべつつ、甲板の手すりにもたれかかった。
「……あ、もうすぐ着くみたい」
ふと、景色を再び眺め始めていたアビーが呟く。
「え、もう? 早くない?」
「空は迂回が必要な遮蔽物も何もないからね。術で快適さを保っているけど、この船、本当に凄い速度が出ているし」
「気づかなかった……。神力って、こんな風にも使えるのね」
「まあ、中々こんな使い方することはないけどね。ホラ、どんどん高度が下がっている」
アビーの言う通り、ゆっくりと地上が近づいてくる。
高度の変化に違和感を覚えつつ、手すりに掴まる。
それからあまり時間がかからずに、地上に到着したのだった。




