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【澪亜】見習い聖女の憂鬱  作者: 澪亜【N-Star】
第二章 入学編
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第十五話 私の寮生活

 寮の自室に到着してすぐに、授業で使った荷物などを片付ける。

 この学園では生徒一人一人に、それなりに広い部屋が与えられていた。

 『広い』といっても、名家のお嬢様たちからすればそうでもないのかもしれないけれど、普通に私の実家の部屋よりは広い。

 荷物を片付けている途中にノック音がしたかと思えば、アビーとレベッカが入ってきた。


「お疲れ様、クレア。食事、一緒に行こう?」


「迎えに来てくれて、ありがとう」


 二人の申し出に一も二もなく頷きつつお礼を伝え、私たちは階段を上って食堂に向かった。

 少し遅めの時間帯故か、食堂にいる生徒たちの数は少ない。

 席に着くと、給仕の人が食事を席まで運んでくれる。

 ……至れり尽くせりだな、と最初の頃は随分と驚いたものだった。


「そういえば、クレア。過去の試験問題は見終わった?」


 試験問題とは、来月に控えている学科の試験のそれだ。

 試験の位置付けは日本の学校でいうところの、中間試験に近い。


「うん、大体見終わったよ。貸してくれてありがとう、アビー」


 まだ試験が始まるのは先のこととはいえ、私にとっては初めての試験。

 どんな問題が出るものなのか、早めに傾向を把握したいと相談したところ、アビーがどこかで入手した過去の試験問題を貸してくれた……という訳だ。


「いえいえー。どう? 感想は」


「あんまり引っ掛け問題とかはないんだね。授業のおさらいみたいだなって思ったよ」


「まあ、学科の試験だからね。特に今回は一年が始まってすぐの試験だから、範囲もそんなに広くないし」


「うん、そうみたいだね。……本当に助かったよ。それを知っているのと知らないのでは、随分違うからね。ありがとう、アビー」


「困った時はお互い様ってね。あと二週間もすれば周りも試験モードになるから、大分空気が変わると思うよ」


「意外……なんか、皆は余裕綽々に構えているものだと思ってた」


 私の感想に、レベッカが苦笑いを浮かべつつ口を開く。


「確かに進級試験の実技さえ基準を越えていれば、進級できてしまいますが……。だからといって、他の試験の手を抜いて良いと言う訳ではないですよ。最終評価は全ての試験を足した点数になりますし、卒業後の進路をより良くしたい方たちは特に真剣になりますよ」


 卒業後の私の希望進路を思えば、学科試験の成績を上げる必要はない。

 ……進級試験の実技で基準を越えることができるのであれば。

 進級試験の実技が合格点に満たない可能性が非常に高い以上、進級試験の座学や他の試験で点数を積み上げることでリカバリーするより他ない。


「まあ……高位の神様を憑依させることができれば、試験なんて関係なく一発で良い就職ができると思うけどねー」


「そういえば、アビーは将来どんな進路を希望しているの?」


「ん? 楽して稼げる仕事……と言いたいところだけど、実家の手前、国に仕える仕事を一応希望しているよ」.


「最難関! でも、アビーならいけるかもね。高位の神様を憑依させることができるし。それにしても大変だね、侯爵家のご令嬢は」


「本当にそう思ってる?」


 私の軽口に、アビーが疑いの眼差しを向けてきた。


「思っているよー。何のしがらみもない家に生まれて良かったと思うぐらいには」


 ……日本での自分を思えば、本当にそれを実感する。

 実家の神社の管理人として神職を継ぎ、親の決めた人と結婚して、次代に伝統とやしろを受け継ぐ……その道以外は、ないものとされていた。

 それに閉塞感を覚えて、常に息苦しさを感じてしまうほどに。

 今も神官という道は決められてしまってはいるものの、それでも神官という資格を取得した後の就職先は自由に選べるようなものだ。

 前よりは随分マシ、と言えるだろう。


 それに対してアビーは、就職先すら決められているようなもので……かつての私と似たようなもの。

 ついつい、かつての自分と重ね合わせて、同情してしまうほどに。


「……ま、良いか。ところでレベッカはどんな進路を希望しているの?」


「え? あ……私は……」


 アビーが話を振ると、レベッカは珍しく言葉に詰まっていた。

 けれども次の瞬間には、困ったような笑みを浮かべつつも、いつもの調子で言葉を紡いでいる。


「まだ、色々考えていて。決めかねているところなの」


「そっかー。まあ、レベッカなら選択肢いっぱいあるもんね。卒業まで時間あるし、ゆっくり悩むのも良いと思うよ」


 ……選択肢が一つしかない私には、縁のない悩みだ。

 そんなことを考えていたのを察したのか、アビーが笑い飛ばす。


「良いじゃん。クレアの場合、唯一の選択肢が唯一の希望する仕事なんだから。それはそれで羨ましいよ」


「ふふふ、そうだね」


 そんな会話をしつつ食事を食べ終え、私たちは解散した。

 私は自室に戻ると、机に向かう。


「……さて、頑張るか。」


 そうして、私は試験に向けて勉強を始めた。

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