第十四話 私と三貴神の邂逅
「はあ……」
重い溜息を吐きつつ、箒を左右に動かす。
結局、実技の試験で神力を暴走させかけた罰として、放課後実技演習場の掃除を課せられた。
……慣れているから、良いけれども。
私は手早く、作業を進める。
……集中していると、余計なことを考えずに済んで良い。
例えば、他の生徒の目とか。
……ダメだ、思い出してまた気落ちしてきた……と、私は深く溜息を吐いた、
キャメロンさんは私の失敗に溜飲が下がったようで、それはそれで良かったと思うけれども。
ふと、扉の方が騒がしくなった気がしてそちらを向くと、驚いたことに三貴神の面々が室内に入ってきた。
突然の事態に、私は一瞬思考が停止する。
アビーが羨ましがったように、三貴神の人たちとこんな近くで会うことは中々ない。
雲の上の人たちだから、私には関係ない……と思っていたけれども、まさかこうも短期間で、しかもこんな至近距離で会うことになろうとは。
「……あれ? この時間は、私たちが予約していた筈なんだけどなあ?」
軽い口調ながら、真っ先に訝しむような視線を向けてきたのはセラフィーナ様だ。
「も、申し訳ありません。先生より、この部屋の清掃を言いつかっていたもので……」
私は慌てて、頭を下げた。
「なんだー。てっきり、また“追っかけさん”の仕業かと。彼女たちの応援はありがたいけれど、やっぱり気が散っちゃうから実技演習場の室内まで追いかけてくるのは遠慮してほしいなと思ったんだ。ちょっと自意識過剰だったみたいだね……気を悪くしたなら、ごめん」
「い、いえ……。それでは、失礼致します」
「……貴女、クレア・ソールさん?」
そそくさと逃げるように室内から出て行こうとしたら、ケリー・リューニュ様から声をかけられた。
「は、はい……」
ただでさえ目をつけられているというのに、三貴神の方々と直接こうして会話をしたということが噂にでもなったら、益々居心地の悪いことになるから嫌だ……と、すぐさま出て行こうとしたのに、扉の側まで来たところでケリー様に呼び止められてしまった。
……彼女の視線に、私は益々萎縮してしまう。
「知っているの?」
セラフィーナ様が、ケリー様に問いかけた。
「ええ。先生がたがこの前仰っていたわ。神力のコントロールが全然なっていなくて、実技演習場をよく破壊する方だと」
先生……。
私は心の中で先生に文句を言いつつ、けれども何も言えずにただただ俯く。
「……でも、逆に言えばそれだけ大きな神力をお持ちになっている……ということよね?」
気まずい空気が流れる中、それまで黙っていたヘレン様がそう仰った。
「貴女には、可能性がありますわ。今は辛いかもしれませんが……是非、精進なさい」
「……あ、ありがとうございます!」
私はヘレン様の言葉に頭を下げると、やっと部屋から出ることができた。
訪れた平穏に、思わず安堵の息を漏らす。
……それにしても、ヘレン様はお優しい方だったな。
当然話したことなどなかったけれども、アビーとレベッカ以外で優しい言葉をかけてくれる人なんて他にいなかった。
だから、ヘレン様のその言葉に、心が温まった気がした。
「……頑張ろう」
そっと自らを励ますように呟くと、私は寮に戻った。




