第十三話 私と授業②
座学の授業が終わると、皆席を立って次の授業を受けるべく移動を始める。
というのも、次の授業は実技。
普通の教室ではなく、実技演習場で行われる。
ああ、憂鬱……。
先生が監督してくれているから神力が暴走して演習場を壊すことはないだろうけど、それでも皆の前で派手に失敗する様を想像すれば……それも致し方ないことだろう。
「クレアー! 元気ないぞ?」
後ろから衝撃を受けたと思ったら、アビーが私に抱きついていた。
「アビーは元気だね……」
「授業の度に毎回そんなに落ち込んでたら、身が持たないよ」
「それはそうだけどさー、やっぱり身構えちゃうんだよね」
「気持ちは分かるけど……クレア。『できない』と思い込んでいては、いつまでたってもできるようにはなりませんわ。神力はイメージも大事ですから」
「レベッカ……。うん、ありがとう」
「なんか、私とレベッカの扱いが違う気がする!」
「ちゃんとアビーにも感謝してるって!」
「本当ー?」
……それは、本心だ。
アビーが私に抱きついてきたのは、多分、絶妙なタイミングだった。
というのも、キャメロンさんが私を睨みながら近づいてきていたからだ。
彼女が行動する前に、アビーは動いてくれたのだろう。
彼女が何をしようと思ったのかは今となっては分からないけれども……愉快なことにならないことだけは容易に想像がつく。
というか、そういうのは既に経験済みだ。
呼び出されて集団に囲まれた状態で嫌味を言われるのは、一度や二度ではない。
アビーは、アルノワ侯爵家の娘。
本人は、この学園では大したことはないと言っていたけれども、それでも一瞬躊躇するほどには発言力を持っている。
レベッカの実家は代々神官を輩出している家らしく、やはりこの学園の中でも一目置かれている存在。
そして、アビーやレベッカはいつも周りの悪意から私を守ろうとしてくれていた。
……本当に、得難い友人だ。
「なら、クレア。今日の授業のノート見せてー! そして解説してー!」
「だめよ、アビー。クレアに頼るんじゃなくて、ちゃんと自分で予習なさい」
「良いよ」と言いかけたところで、レベッカから厳しい一言。
というか、アビーもそこそこ実技の点数を取っているから、座学に私のノートなんて必要ないだろうに。
「そんな……! 明日の授業、多分私が当たるんだよー。でも、今日の授業で寝ちゃって……」
「ならば尚更です。クレアも、アビーを甘やかしちゃダメよ?」
なるほど、そういうことか……と思ったところで、レベッカは更にピシャリと追い討ちをかけていた。
……何だかこの流れで「良いよ」とは言いづらい。
「レベッカ、厳しい……」
「むしろ、大切な友人だからこそよ」
「レベッカの愛は、重い……」
二人のやり取りに、私はつい笑ってしまった。
私のその反応に二人は一瞬目を丸くして……そして、優しげに微笑む。
「ねえ、クレア。クレアはこの学園に入学したばかりなのよ。でも、私たちも含めてここの生徒は皆、ずっと神力を扱う訓練をしてきたの。神力を行使するのは、慣れも必要。だから、焦らなくて良いのよ」
「レベッカ……」
「だから、クレアと私の扱いの差!」
少し感動したところで、それをぶち壊すようにアビーが叫んでいた。
「愛の示し方が違うだけよ」
レベッカは慣れたように、アビーに言葉を返す。
「その返し方、とてもアビーに影響されているよ」と、かつてのレベッカを思い出しつつ、そっと涙を流す。
勿論今のレベッカも好きだけど、始めて話した頃は本当に“深窓のお嬢様はかくあるべし”と言ったぐらいに楚々としたお淑やかなお嬢様だったのに。
……アルノワ侯爵家のご令嬢であるはずのアビーは、最初からこんな感じだったけど。
そんな会話をしている内に、実技演習場に到着した。
この前私が半壊させた部屋と違って、生徒皆が入れるほどに広い部屋に並ぶ。
「邪神は封印されましたが、今尚あらゆるところで邪神が発する瘴気によって、世界各地に魔物が発生しております。神官の務めの一つは、魔物を滅することです。皆さんの中にも、学園卒業後には魔物討伐の専門部隊に就く方もいらっしゃるでしょう。そうでない方も、いざ魔物が出現すれば『神官』という肩書き故に、誰もが皆さんを頼るでしょう。だからこそ、皆さんは日々この学園で研鑽を積まなければならないのです。是非、本日の授業も心して臨んでください」
いつもの先生の言葉。
まあ……この実技の成績じゃあ、私が魔物専門部隊に入ることは、まずないだろうけれども。
それでも、確かに学園を出た後、もしかしたら神官という肩書き故に、私に魔物の退治を願い出る人が出て来ないとは言い切れない。
街に出た時には、幸いにも火事場の馬鹿力で私が魔物を退治することは出来たけれども……あの時、もしそれも叶わず魔物が私の家族を襲ってきていて、その場に神官がいたとしたら……迷わず神官に頼っていただろう。
たとえ、今の私のように実技の力が振るわずとも……そんなことは構わずに。
そう考えると、神官という肩書きはとても重い。
ただその力があるだけで、人の期待は否が応でも高まるのだから。
そんなことを考えている間に、皆は順に先生の言われた課題をこなしていく。
今日の課題は、風の神の助力。
……私が最も苦手とするものだ。尤も、得意なものなどないけど。
とはいえ、助力を発動させようとする時が一番演習場を破壊させている気がする。それはもう、盛大に。
たまに先生が私の暴走を抑え込もうとして、それでも弾かれてしまって部屋を破壊させてしまうほどだ。
私の名前が呼ばれた瞬間、他の生徒たちは二、三歩下がる。
下がった生徒たちの中には、クスクスと何やら私を見ながら笑っている人たちまでいる始末。
……間違った反応ではないけれども、その反応に少しだけ落ち込んだ。
そんな中、アビーとレベッカだけは元いた位置にそのままいてくれている。
絶対失敗するだろうと言わんばかりの大多数の反応の中で、友達が私を信じてくれているのだと少しだけ気分が浮上した。
「……かしこみかしこみも申す」
助力をするに当たって祝詞……いわゆる呪文を言い切ったところで、体が熱くなる。
まるで熱を持ったように。
そしてそれに伴って、身体中に痛みを感じる。
……暴走する!
咄嗟に神力の行使を止めようとしたけれども、止められずに結局力が溢れ出てきた。
途端、室内に暴風が吹き荒れる。
それを止めるように、先生が祝詞を呟いた。
先生の力によって、室内は破壊されることなく暴走した神力が収束されていくことを感じる。
……また、失敗か。
そう落ち込むのと同時に、被害がなかったことに安堵の息を漏らす。
「クレアさん!」
暴走した力が完全に収束したタイミングで、先生の雷が落ちた。
「す、すいません……!」
私は、平謝りに謝ることしかできない。
クスクスと笑い声が室内を満たす中、私はひたすら謝り倒した。




