第十一話 私とアビーの興奮
「まあ……三貴神の方々にお会いしたのですか。それは幸運でしたわね」
先ほどの出来事……悪口やフェリシテ先生の言葉は端折って、ただ予約ができなかったことと入口での騒ぎを親友二人に伝えたところ、開口一番にレベッカが感嘆の声をあげた。
ちなみに三貴神は、三柱の貴い神そのものを指すだけではなく、彼女たちを降ろすことができる神官や神官見習いも指している。
……それほどに、彼女たちは生徒たちから尊敬の念を集めているということだ。
「うらやましーい! 良いなー良いなー、クレア!」
アビーはレベッカの横でプルプル震えていると思ったら、空に向かって叫び始めた。
……ここが周りに誰もいない中庭だから良かったけど、もし教室内だったら即座に先生が飛んできて注意していたことだろう。
アビーはその辺も計算して、今の行動をしているのだろうけど。
「そんなに羨ましがること? だって、チラリとしか見てないよ」
「羨ましがることだよ! 三貴神の方々は、通常のクラスじゃなくて彼女たち専用の教室があるんだ。だから滅多なことで顔を見ることはできないんだよ」
「へえ……」
「それに、彼女たちは代々三貴神の神官を輩出した家の出身だからね。国に対してかなりの発言力があるの。将来を考えたら、覚えを良くしておきたいと思うのは当然のことでしょう?」
「……代々高官を輩出しているアルノワ侯爵家のご令嬢が、何を言っているのだか」
「私の家とは格が違うよ、格が。ソレイユ家、リューニュ家、テラ家は御三家って呼ばれていてね。流石に立場は王族の方が上だけど、王族でもその御三家の当主の意見は無視できない……それほどに、強力な立場なんだよ」
「ふーん……。雲の上のことだから、よく分かんないけど。とにかく凄いんだね」
「まあ、この学園内にはそういった良家の子女がゴロゴロいるからね。私の家も、ここじゃあ本当に大したことないんだよ。むしろ代々神官を輩出している名家からすれば『政界の家の者が神力を持つなんて!』ってなる訳。ね、レベッカ」
アビーの言う通り、この学園には神官系の名家出身の生徒が数多くいる。
……といより、大半はそちらだ。
むしろ、私やアビーの経歴の方が異色だった。
「ここで私に話を振りますの? ……でも、そうですね。アビーの前ですから敢えて言いますが、彼女が入学した時は結構騒ぎになったのですよ。お母様が神官とはいえ、アルノワ侯爵家のご息女が第二教典にその名が載るような強力な神の神官として選ばれたのですから」
「なら、そもそも私みたいな平民の家の子なんてもっと珍しいんじゃ……」
「まあ……それはそうですわね。ただアビーの場合、その身に降ろすことができる神が強力というのもあって騒ぎになった訳ですから。絶対数は少ないですが、神官を代々輩出する家以外にも、平民の方や貴族の方からも神官になる方は勿論いらっしゃいますわ」
「へー……」
「それはともかく! 三貴神の方々はどんなご様子だった? お元気そう? 疲れたご様子はなかった?」
「さあ……いつもの様子を知っている訳じゃないから、何とも。ただ人の集まり具合を見て、人気なんだなあっと……」
「ああ、勿体ない。本当に勿体ない! 私がその場にいたら、すぐにご挨拶するのに……!それでお近づきになって――」
楽しい妄想になったのか、アビーはブツブツ呟きながら時折にやけていた。
……友達じゃなかったら、すぐに不審者として通報するレベルだ。
横を見ればレベッカは、のほほんと微笑ましげに笑いながらアビーを見守っている。
「……ねえ、レベッカ」
「何でしょう?」
レベッカに声をかければ、その表情を浮かべたままこちらに顔を向けてきた。
その表情が物語っている……今の彼女に何を言っても無駄だと。
「……何でもない」
レベッカと同じく熱が冷めるのを温かく見守ろうと、私は未だに独り言を続けているアビーを前に口を閉ざした。




