第十話 落ちこぼれの私
実技演習場に向かって、早歩きをする。
神官の嗜みとして、走り回るのははしたないと校則で禁止されているから、急いでいても早歩きだ。
実際に魔物と対峙した時、走り回れなかったら逃げられないけど、そのへんはどうするんだろうと思ったりもしたけど、取り敢えず学園内ではその校則を守った方が良いだろうと、深く考えないようにしている。
ただでさえ先生に目をつけられているから、これ以上悪い印象を与える訳にもいかないし。
実技演習場は、その名の通り実技を練習するための教室。
自主練室も完備されていて、人気のあるそこは完全予約制になっている。
「……見て。落ちこぼれがいる」
「こら、落ちこぼれなんて、はしたないわよ。不適格者、でしょう?」
歩いている途中、そんな囁きが耳に入った。
……チラリと視線を向ければ、彼女たちと目が合う。
やっぱり、私のこと……か。
最早言われ慣れた、それ。
「確かにそうよね。最下級の神の助力すらできないんだもの。一体、どうしてこの学園に入れたのかしらね?」
「神力があるからでしょう?」
「それも疑わしいわよねー」
クスクスと、彼女たちは笑う。
……彼女たちの言った通り、私は一番神官に協力的でそれ故に簡単に助力が叶うと言われている神の助力すら成功させることができない。
だから、落ちこぼれと言われても仕方のないことだ。
仕方のないことだけど……やっぱり、こうして悪意に晒されると落ち込む。
これ以上その場にいたくなくて、私は更に足を速めた。
「……すいません、予約をしたいのですが」
やっとのことで辿り着いた受付で、すぐに担当のフェリシテ先生に声をかける、
「クレアさん? ……申し訳ないけど、貴女また演習室を一つ壊したでしょう?あれで暫くあの部屋が使えなくなってしまったから、それが修復できるまで遠慮してちょうだい。……どうせまた、壊すでしょうし」
ジロリと睨まれながら、告げられた言葉。
……先ほどの陰口もあって、それ以上食い下がる勇気はなかった。
「分かりました。申し訳ございません」
頭を下げると、私は逃げるように受付から離れる。
丁度そのタイミングで、ホールの向こう側……入口の方が騒がしくなった。
視線を向ければ人が集まっていて、その中心には三人の生徒。
あれは……確か三貴神の次期神官。
騒ぎに巻き込まれないよう、隠れるように端に寄りながら彼女たちを眺める。
三貴神は、フィルメロ教の神の中でも最も尊いとされている三柱だ。
人の身でありながら神に序列をつけることは烏滸がましいと禁じられているが、三貴神だけは別。
圧倒的な力故に、その三柱だけは別格とされていた。
尤もさっき私に悪口を言っていた生徒のように、神の力に序列をつけている生徒は多いけれども。
力の強さはフィルメロ教の教典に載っている順とされていて、例えばその三貴神は幾つかある教典の第一典にその名が記載されている。
三貴神は、助力すら自身が認めた神官しか許さない。
代々、彼らが認めるのは一人だけ。
仮に新たな神官を見出すと、前任の神官すら三貴神を降ろせなくなる。
それほどに厳格な彼らの選別眼に適った神官見習いに、同じ神官見習いたちである生徒は憧れを抱いていて……それで彼女たちを見かけるとこうして集まる、という訳だ。
「ごめんね。急いでいるから、そこ、道を空けてくれないかな?」
そう言って笑顔を振りまくのは、セラフィーナ・テラ。
神官にしては短めの髪がよく似合う、ボーイッシュな印象を与える女性。
第三神、大地の神であるガイアを降ろすことができるという、神官見習い。
「皆さま、お静かに。ここは演習場……騒いで良い場所ではありませんことよ?」
厳しい視線を向けるのは、ケリー・リューニュ。
第二神、月の女神ルナリアをその身に降ろす神官見習い。
金糸のような美しい髪が波打つ様は、まさに月の神の神官といった姿だ。
「応援、ありがとう。共に頑張りましょうね」
最後に柔らかな笑みを向け更に場の熱気を上げているのは、ヘレン・ソレイユ。
第一神、太陽の神であるフレイアをその身に降ろす神官見習い。
シミ一つない白肌に整った顔立ちは、前世で言うところの芸能人も裸足で逃げ出すほどの美しさ……か。
一瞬、ヘレン様と目が合う。
けれども彼女は律儀に自身を取り囲む生徒一人一人に言葉をかけていて、あちこちに視線を向けているから気のせいだろう。
ぼんやりと彼女たちを見送り、騒ぎが収まるのを待ってから、私は演習場を離れた。




