第九話 私と友人
「アハハハ! クレア、これで何度目? 修練室を半壊させたのは」
「笑い事じゃないよ、アビー。もう最近じゃあ、先生が私のいる修練室の扉の前で待機しているんだから」
隣を歩く友人のアビー・アルノワは、先程話した私の失敗談に大爆笑していた。
……まあ、笑い話として受け止めてくれる方が私は気が楽だけど。
「……あら? でも、クレア。それなら今回、どうして先生は貴女の力の暴走を止められなかったの?」
「どうせクレアのことだから、気が散るって先生が目を離した隙に力を発動させたんでしょ? まったくクレアは……それだから先生たちに目をつけられるんだよ」
もう一人の友人であるレベッカ・メールの問いに、アビーがニマニマ笑みを浮かべながら答える。
当たっているだけに、何も言い返せない。
「まあ……。クレア、力が暴走したら貴女も危ないんだから、ちゃんと先生の言いつけを守らないと」
「だって、レベッカ……。気が散らない? 集中しなきゃって時に、ジッと監視されたら。先生、私が絶対失敗するって疑いにかかっているもの。そんな人が控えていて、集中する方が難しいと思うよ」
「そんな……先生はきっと、疑っているから貴女を見ているのではないと思うわよ? 貴女のことを心配して、見守っていらっしゃるのよ」
「モノは言いよう、考えようってね。あんまり気にしないで、サクッと力を使っちゃえば良いんだよ。クレアは力が入り過ぎてるの。ホラ、今だって。……全力でぶつかることも、完璧にこなそうとすることもクレアの良いところだけど、そう力み過ぎていたらできることもできなくなっちゃうよ」
「アビーは要領が良いからなあ……あんまり参考にならないや」
「なにおう! アビー様のありがたーいお言葉を、そんな無碍にして……後で後悔しても知らないからねー」
「アハハ、嘘。ごめんって」
村では同じ年の子がいなかったから、こうして軽口を叩き合えるのはとても楽しい。
この学園に入学して良かったなと思える、数少ないことだった。
「……でもさー、真面目な話、このままじゃ進級も危ういんじゃない?」
「うっ……」
アビーの的確すぎる言葉に、またもや言葉が詰まった。
……確かに、進級は危ういかもしれない。
この学園で学ぶのは、学科と実技。
学科はいわゆる座学で、一般教養や宗教学、それから作法等々。
実技は、実際に神力を扱っての治療や、神そのものをその身に降ろす憑依、そして神の力だけをその身に降ろす助力の修練。
ちなみに、助力ですら特定の一人の神官にしか許さないような神もいれば、助力だけは多くの神官に許す神もいる。
いずれにせよ、憑依だけは神の選んだ特定の神官にしかできないみたいだが。
……それはともかく、私の問題は実技だ。
さっきのように、何故か助力の練習をすると力が暴発するし、神力を使っての治療も同じ。
助力よりも難度が高い憑依にいたっては、あまりの私の成績の悪さに練習することを禁じられているほどだ。
そんな訳で、実技全般は赤点を取り続けている。
勿論、成績は学園でも底辺中の底辺。
初遭遇の魔物を倒すことができたのは、火事場の馬鹿力のようなものだったのだろうか。
「……でも、学科でカバーしているから大丈夫なはず! あとはアビーの言った通り、もう少し要領良く先生の心象を良くすればなんとか……」
「確かにクレア、学科の成績はピカイチだものね。よく、あんなに良い点取れるなと尊敬しているのよ。今まで学校、行っていなかったのでしょう?」
それは、今までの経験の賜物。
前世で学校に通っていたおかげで数学は余裕だし、国語は村で多くの本に囲まれていたおかげ。
そして作法は、前世に家で叩き込まれたそれが何故かとても役に立っている。
場所が変われば作法も変わるというのに、案外似通ったところがあるから不思議だ。
……まあ、何はともあれ得点源になっているから良いと、それについては深く考えていないけれども。
「村で本の虫だったからね。……何とか卒業さえできれば、後は細々と村の人たちの治療をしながら村の教会の管理人になるのが進路希望だから……何とかなると思う」
学園卒業後は、神官になる以外の道はない。
ところが、一口に『神官』といっても、役職は数多に渡る。
例えば、水の神の神官であれば治水業務に携わったりだとか、豊穣を司る神の神官であれば各地を回って農作物のできを良くしたり……そういった技能職として国家に雇われるのだ。
つまり、高給。
という訳で、人気は非常に高い。
けれども逆に、余程国にとって有益な力を持つ神に見初められているか、もしくは余程神力の扱いに長けていなければその狭き門を潜ることはできない……つまり、学園でも一握りのエリートでなければ、そういった職には就けないのだ。
次に人気なのは、騎士と組んで魔物退治を担う役職。
教会の管理をする職に就きたいという生徒はほぼいない。
私の実技の成績では、国を支える仕事に就くことなど、相当な努力を積み重ねても難しい。
けれども、教会の管理であれば卒業さえできれば何とかなる。
ただ、その卒業が私にとっては最難関。
この実技の成績だと、本当に卒業ができるのか……甚だ疑問だった。
「……やっぱりもう一度、実技演習場予約してくる!」
「その方が良いかもねー。で、次はちゃんと先生の監督下で修練すること。 過程じゃなくて結果を出すことが一番大切。だけど……だからって過程の努力している姿を見せないのは損。今のクレアは『出来ないのに、努力もせずに問題ばかり起こしている生徒』って見られちゃっても無理ないよ」
「うん……ありがとう、アビー」
「頑張りましょうね、クレア。私も及ばずながら協力するわ」
「レベッカもありがとう。それじゃ、行ってくる」
そして、私は二人と別れて再び実技演習場に戻った。




