プロローグ
パチパチと、遠くで火の粉が舞う音がする。
……痛い。
痛い、痛い、痛い……!
体を動かそうとすると、全身が熱く感じられるほどの鋭く重い痛みに襲われる。
「……っ」
それでも、力を振り絞って首を回し顔を上げた。
遠くにあるのは、暗闇を裂くような赤い炎。
その炎の爆ぜる方に近づこうと体を動かそうとしても、体が言うことを聞いてくれない。
もう少し……あと、もう少しなのに。
伸ばした震える手は、宙を切るばかりだった。
……ごめんなさい。
その一言が、言えなかった。
その一言を言いたくて、けれども声が出ない。
口を開いても、吐息のような呼吸音しか出てこなかった。
代わりに、涙ばかりが目から流れ落ちる。
『ごめんなさい』
そんな私の後悔を代弁するかのように、誰かが言ったその言葉が聞こえてきた。
……不思議な、声色。
鈴のような可愛らしい幼子のような、艶のある妙齢な女性のような声だと思うし、けれども同時に凛としていて妙に人を落ち着かせるような心地良さは、歳を重ねた女性のそれにも聞こえる。
ぼんやりと、女性の姿が目に映った。
……綺麗な、人。
今の自分の置かれた状況を忘れて、ついついぼんやりと魅入ってしまう程に、その女性は隔絶された美しさを持っていた。
『ごめんなさい』
何故、貴女が謝っているの?
何を、貴女は謝っているの?
誰に、貴女は謝っているの?
私こそが、その言葉を紡がなければならないというのに。
段々と、瞼が重くなってきていた。
……待って。お願い、もう少しだけ待って。
まだ言えていないの。
ごめんなさい、その一言を。
もう少しだけ、私に時間をちょうだい。
……そんな願いも虚しく、私の意識は途切れた。