トラウマ
ガッガガッガツッ‼︎
何度もナイフを振り下ろす。
その度にナイフを通して帰ってくる手ごたえは、まるで土の壁だ。
芋虫が大きくなっただけ、ナイフで簡単にダメージを与えられるだろうという考えが裏切られた形だ。
順風満帆の異世界サバイバルで気が緩んでいた。
ここが地球とは異なる異世界だということをまざまざと思い知らされた。
暴れる芋虫の背に必死にしがみつく。
暴れ馬でロデオをしている気分だ。
乗馬経験は無いが…。
手当たり次第に体当たりを繰り返し、背に乗る自分を振り落そうとする。
振り落とされたら一巻の終わりだろう。
見た目以上に俊敏な動きで落下から体勢を整える間に大顎で噛み付かれる。
こうなりゃ奥の手だ。
ナイフを戻し、拳銃を取り出す。
最初からこうすれば良かった。
銃口を頭につけ、引き金を————。
ガツンッ‼︎
激しい衝撃で仰け反る。
邂逅時に横倒しになった大木の下に空いた隙間を芋虫が通ったのだ。
ハリウッド映画でよくある、乗り物上での戦いで障害物にぶつかるアレである。
効果は絶大。
何とか落下は防いだものの、背に乗っていたのが引き廻し状態へ。
最悪なことに拳銃どころかナイフまで落とす事態だ。
ボケ要員か…orz
武器が無くなった。
只でさえ硬い相手にどうすればいいのか?
腕、というか触手の腕力まで落ちてきている。
落下は死だ。
あの大顎の餌食。
一度捕まったら離すことはないだろう。
あ、やばい、腕が攣る。
20代半ばから急激に襲ってきた体力の衰えがここでもくるのか⁉︎
触手がプルプルしてる‼︎
振り落とされる‼︎
何か武器になるものはないか⁉︎
大顎でギロチンとか嫌だ〜‼︎
死ぬならせめて楽に死にたい〜‼︎
生きたまま捕食とか絶対に———っ⁉︎
捕食?
ふとゲーム、FATEL LINEのイベントシーンを思い出す。
あれは多くのユーザーの心を折った高難易度イベント。
市街地へと進路をとる捕食者の大群を撃退するミッションのことである。
心を折ったと言っても、攻略不能の難易度とかそういうことではない。
無数に飛び交うイナゴ型の低級捕食者を倒していると作戦概要にない大型捕食者が出現。
部隊は分断され、孤立無援の戦闘になる。
一撃一撃が致命傷なのだが、慣れれば回避は難しいことではない。
問題は戦闘中に流れるバックグラウンドの音源だ。
大型捕食者の強襲で行動不能に陥ったASにイナゴ型の捕食者が群がる。
スピーカーから聴こえてくるのは削り取られる金属音とモブパイロットの助けを求める叫び声。
徐々に金属音は大きくなり、バキンッという大きな音と共に助けを求める声は生きたまま喰い散らかされる断末魔へと変わる。
しかも声優の名演技である。
普段はアニメ等で棒読みだなんだと酷評されている声優が、このアフレコ以降は別人みたいに演技力が上がったらしい。
なぜ、ここで覚醒したし…(゜ω゜)
更にはモブパイロットが美人だったのがより問題を大きくした。
難易度で心を折られたのではなく、演出で心を折られるユーザー続出であった。
話が大きく逸れたが、重要なのは自分と大差無い低級捕食者がASを破壊したことである。
つまり、自分も金属を噛み砕く程の力を持っていると可能性があるということだ。
一縷の望みを託し、巨大芋虫の背を見る。
コイツに噛み付かないといけないと思うと胃の中から酸っぱいものが出てきそうだ。
それでも生きるか死ぬか。
意を決して芋虫の背に噛み付いた。
あじい…_(:3 」∠)_