経験1
樹の伐採には知識がいる。
人の手首程の太さであれば素人でも問題はないかも知れないが、簡単そうに見えてとても危険である。
植物は光の当たる方へ成長し、重心が偏る。
倒木の前に枝を切り落とすことは、上部の重量を減らすことで重心の偏りを出来るだけなくし、倒れる際に周囲の物に接触しないようにする為だ。
森の中など、影響がない場合は無視しても構わないだろう。
倒す方向を決めたら《受け口》を作る。
受け口とは倒れる方向に鋭角の溝を掘ることで、大体1/4〜1/3ほどが妥当な大きさだ。
それが終わったら反対側から《追い口》、伐採である。
切り方だけでなく、ロープを上方に括り付けて引っ張ることで倒れる方向を誘導し安全性を上げるのも効果的だ。
本当はもっと色々あるのだが、掻い摘んでこんなところでいいだろうか?
つまり——————、あの芋虫は全く仕事がなっていない‼︎
ゆっくりと倒れてくる巨木を前に走馬灯のように現実逃避の一人脳内レクチャー。
そして、そこからの華麗なる緊急回避。
10点満点中、10点とは言わないが3カメくらい映しても良いのではないかというフォームの決まりだったと思う。
そこまではよかった。
そこまでは———————
ギチギチギチッギチギチッギチギチギチギチ。
目の前には今の自分と同じサイズの芋虫がいる。
見るからに戦闘態勢である。
四脚になってからの癖で咄嗟に前方へ動いてしまったのが原因だ。
回避時に後ろへ飛んでいれば、少なくとも撤退の隙はあったかも知れない。
いや、そもそもマッピングを増やそうと思わなければ、このルートを大きく外れて現在の状況に陥ることも…。
そんな《たられば》を考えていると芋虫が前屈みになった。
そう、まるでバネのように…バネ?
次の瞬間、勢いよく芋虫が跳んで来た。
伝説の生物ツチノコさん顔負けのジャンプだ。
それをゴキブリを見つけた女性さながらの悲鳴を上げつつもサイドローリングで回避する。
正直、でかい芋虫が飛び跳ねて来たらその場で失禁モノだと思う。
グッジョブ、回避した俺‼︎
それから数度、跳躍を回避。
どうやら逃してはくれないらしい。
極めて単調な動きではあるものの、獣の様な跳躍と油圧式カッター並の顎の力である。
こんなのがうじゃうじゃいるのだろうか?
異世界…怖い…(°_°)
一旦距離が空いた隙に触手で背負ったバッグに備え付けていたナイフを引き抜き、真っ正面から対峙する。
徐々に予備動作や間合いが頭に馴染んできた。
それでも不安はある。
ゲームでもナイフを使った近接格闘はしばらくご無沙汰であったし、何より自分も相手も人型ではない。
「一か八か、やるしかないか…」
覚悟を決める。
切っ先を相手に向けつつ、持ち手を退いてナイフを構える。
残りの手は前方へ突き出す。
片手で攻撃を捌き、ナイフで一撃を狙う構えだ。
こちらの戦う意思を感じ取ったのか、すかさず芋虫が突撃してきた。
跳躍に合わせ、相手の頭へと触手を伸ばす。
跳び箱の用量で危険な顎の攻撃を逸らし、背中へと回り込む。
そして、すかさずナイフを振り下ろした。
睡眠落石m9( ^ω^ )ドヤァ‼︎