第2節「座学(3)」
誤字脱字含めいろいろ手直ししました。(2019年4月10日11時04分)
追記(2019年4月17日11時31分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。
「これは、五属性全てが同じ位の現れてるね」
自分で変えたことを微塵も感じさせない極めて自然な様子で、ステイシーはエドマンドの魔力試験薬を見ながら言った。
「それってすごいのか?」
「うーん、なんとも言えないかなー」
全ての属性を使えるということは、もしかするとすごいことなのでは? と期待していたエドマンド予想とは裏腹に、ステイシーの反応はどこか歯切れが悪かった。
「まず、魔力属性と魔法について話をしようか」
そう言ってステイシーは、エドマンドの魔力試験薬から目を離し、黒板に向き直ると今までの内容を全て消し、新たに何かを書き始める。
書き終えステイシーが脇に避けたあとの黒板には、上から順に、単属性保持者、二属性保持者、三属性保持者、四属性保持者、五属性保持者と書かれていた。
「まず、単属性保持者についてね。私はこれに該当するの。これは一番わかりやすいタイプで、一つのことはものすごくできるけど、ほかは全く、っていうタイプがこれ。最初からその属性の魔法ならかなり強力なものまで使えるから、極めるのが比較的簡単で、できることもわかりやすい。だから冒険者としてどこのパーティに入ってもやりやすいんだけど、意外と数は少ないね」
ステイシーは黒板の単属性保持者の横に、単純・あまりいない、と書き足した。
「次に、二属性保持者、三属性保持者について。この二つに該当する人はとても多い上に、単属性保持者ほどじゃないにしろ、自分が持ってる属性の魔法なら最初からそれなりに扱える。そのおかげで最初からある程度戦えるし、一般には一番冒険者向きって言われてるかな」
ステイシー、二属性保持者と三属性保持者の横に、冒険者向き・多数派、と書き足した。
「次に、四属性保持者について。これは使える魔法の種類が多い代わりに、最初から使える魔法のレベルは低いのが特徴。でも、四属性使えるってことは、組み合わせ次第でなんとでもなるし、この後話す五属性保持者よりは魔法の習得は幾分楽みたいだね。絶対数は単属性保持者と同じくらいって言われてる」
ステイシーは、四属性保持者の横に、オールマイティ・あまりいない、と書き足した。
「さてお持ちかね、君該当する五属性保持者についてだね。このタイプは一言で言えば良くも悪くも大器晩成型って感じかな。全属性が使えることはかなり大きなメリットだからね。でも同時に、もしかするとここまで見てきて気がついているかもしれないけど、基本的に使える属性が増えるほど、最初から使える魔法のレベルは落ちる。だから、五つも属性があるこのタイプは、最初から使える魔法のレベルが最も低い。結果として、エドのような最弱が生まれる原因にもなる、ってわけ」
ステイシーは、五属性保持者の横に、大器晩成型・極少数、と書き足した。
「まあ、ざっとこんな感じだけど、質問はあるかな?」
「じゃあひとつだけ、どうしても属性が増えると最初から使える魔法のレベルが落ちるんだ?」
「なかなか深いところに突っ込んでくるんだね、君は。まあ私なら、大体の疑問には答えられるからいいけどね? 結論から言えば、魔力を魔法にするときの効率の問題だね」
「魔力を魔法にするときの効率?」
「そう、魔力を魔法にするときの効率。俗に魔法の上手さとか言われているものだね。例えばだけど、そうだなー」
ステイシーは虚空に手を入れると、何やらゴソゴソと中を探ってから、同じくらいって傷んだ二着の服を取り出した。
「修繕魔法も白属性魔法の一種で、特に服を直すものが最もレベルが低いものなんだけど、これを使って説明すると、っとあとアレがいるね」
再び虚空に手を入れたステイシーは、今度は小さな棒状のものを二本取り出した。
「これは魔力計ね。とりあえず一つはエドが持ってて」
エドマンドはステイシーに手渡されるまま、魔力計を受け取る。
「とりあえず、魔力計を握って、今の魔力量を確認してもらえるかな」
「わかった、えーと、三百四十七、くらいかな」
ステイシーが、エドマンドの報告を聞き、黒板に三百四十七、と書き記す。
「今からエドにもできそうな白属性魔法を教えるね。多分素質的にはできるはずだから、私が教える通りにやってみて」
「わかった」
「じゃあ、私の呪文を繰り返してね? 汝、我が魔力を用いて、その在りし日の姿に戻り給え、基礎衣服修繕」
「汝、我が魔力を用いて、その在りし日の姿に戻り給え、基礎衣服修繕」
ステイシーの呪文を繰り返したエドマンドの前の服がみるみるうちに新品同然へと変化していく。
しかし、感動する余裕がないほどの疲労を、エドマンドは感じていた。
「っと、大丈夫?」
ふらついたエドマンドを、ステイシーが支える。
「ありがとう。大丈夫だけど、すげー疲れたんだけど、これは一体何なんだ?」
「その答えは魔力計を見ればわかるよ」
「魔力計?」
言われるままに魔力計を見たエドマンドは、先程と比べ少ししか魔力が減っていないことをを示している目盛りを目にした。
「二百七十八ってことは、そんなに減ってない気がするけど、その割にはかなり疲れたんだけど」
「それは魔法が下手だからだよ」
そう言ってステイシーは、エドマンドの最初の魔力量を示した三百四十七から横に矢印を伸ばし、二百七十八書き足したのち、先程の三百四十七の下に四百七十八、と書き足した。
おそらく、あれがステイシーの今の魔力量と言うことだろう。
「見ててね?」
エドマンドと違い、特に呪文を唱えることもなくステイシーはワンドを振ると、ステイシーの前に置かれた服はエドマンドが魔法をかけた時同様みるみるうちに新品同然へと変化した。
「まあ、こんな感じかな? 魔力量は、っと……」
なんでもないことのよう魔法を行使し終えたステイシーは、魔力計を確認すると、ステイシーの最初の魔力量を表す四百七十八から横に矢印を伸ばし、四百七十七と書き足した。
「これが魔法の上手さの差だね。エドマンドと私じゃ、同じ魔法を使っても、これだけ消費魔力量に差が出るの。今回の場合だと、私が魔力計一目盛り分の魔力でできる魔法を、エドマンドは魔力計六十九目盛りの魔力が必要ってわけだね」
「そんなに違うのか」
「まあ、私が上手すぎるのと、君が下手すぎるって言うのもあるし、普通はここまで差はつかないんだけどね」
くるりと振り返り、先程の魔力量のメモの下に「基礎衣服修繕」、最小魔力消費量、平均魔力消費量、最大魔力消費量、と書き、ステイシーは再びこちらに体を向ける。
「さっきの基礎衣服修繕は、白属性魔法の基礎中の基礎だから、その消費魔力量は理論上の最大値と最小値と統計的な平均値が出てるんだよ。確か最小値は一、平均値が三十で、最大値が七十だったかな」
「じゃあ俺の六十九ってのは、最大値近くってことか?」
「まあ、そういうことだね。ほとんど全ての白属性魔法を理論上の最小値で使える私のレベルを目指す必要ないけど、せめて平均値くらいで発動できるようにならないと、実戦では役に立たないかな」
「どうしてだ? とりあえず発動はできるし、後いくつか攻撃系の魔法を覚えれば戦えるようになるんじゃないのか?」
「いや、無理だね。信じられないなら試しにもう一回基礎衣服修繕を使ってみるといいよ」
ステイシーは虚空に手を入れ、もう一枚ボロボロの服を取り出すと、エドマンドの前に広げた。
「……わかった」
完全に否定されたエドマンドは釈然としないものを感じながらも、言われた通りもう一度基礎衣服修繕を発動させる。
「汝、我が魔力を用いて、その在りし日の姿に戻り給え、基礎衣服修繕」
先程と同じ呪文を唱えたエドマンドだったが、今度は何も起こらない。
「何も起こらないな。俺呪文間違えたかな?」
こちらを見たエドマンドに、ステイシーは首を振って返答する。
「呪文はあってたよ。発動しないのは、君の魔力切れが原因」
「魔力切れって、あんなにあったのにか?」
先程魔力計で測った限りでは、この魔法はエドマンドの魔力の五分の一ほどあれば発動するはずだ。そして、一度しか発動していない以上、エドマンドの魔力は後五分の四は残っているはずである。
「確かに、君の魔力の総量的には、まだまだ残っているけど、君の白属性の魔力は、もう残っていないんだよ」
「つまり、白属性の魔力だけが無くなった、ってことか?」
「そういうこと。さっき魔力試験薬で見た限り、君の魔力は五属性にほぼ均等に割り振られているみたいだから、基礎魔法中の基礎魔法で全体の五分の一の魔力を使っちゃうなら、今の君は各属性の魔法を一回ずつしか使えないってことになる」
「だから、実戦では使えないって言ったのか」
「そういうことだね。まあ、気を落とすことじゃないよ、使える属性が多い人はみんなそんな感じだからね」
「もしかして、使える属性が増えると最初から使える魔法のレベルが落ちるってのは、これに関係してるのか?」
「なかなか鋭いね、エドは。その通りだよ。人によって魔力の総量も多少は変わるけど、それは大した差にはならない程度なの。その上で、使える属性が増えるってことは、一属性あたりの魔力量が減るってことになる。だから魔法が下手でただでさえ魔力消費量が多い最初のうちは、使える属性が多い人が、魔力消費量の多くなりがちな高レベルの魔法を使おうとしても発動できないの。逆に私みたいな単属性保持者だと、魔法が下手で魔力消費量が多くても、それなりのレベルの魔法を発動出来る」
「なるほどな。じゃあ俺は、魔法の練習をしてもっと魔法を上手く使えるようにならないといけないってわけか」
「それはそうだね、今のままじゃ戦えないだろうし」
「ちなみに魔法の練習ってどうやるんだ?」
先程初めて魔法を使ったエドマンドには、魔法が上達する方法など皆目見当もつかない。
「うーん、そうだねえ、どちらにせよ、まずは勉強かな? 魔法を効率よく発動する、つまり魔法が上達するためには、魔法が発動する仕組みを理解することが不可欠だしね」
「魔法が発動する仕組み、か」
「うんまあ、ご想像の通り難しいよ。でも知ってないと困ることだしね。でもまずは、さっきの続きを終わらせちゃおうか」
そう言ってステイシーは、ワンドを振り黒板の文字を消すと、再び世界地図を描いていった。
「さっきの続きって、ダンジョンについて、だっけか」
「そう、ダンジョンについて、だよ」
先程より広範囲が描かれているらしい世界地図を書き終え、ステイシーはこちらに向き直る。
「さて、それではエドマンド君、私が今までダンジョンについて話したことを簡潔に説明してください」
身長が低いためあまり様になっているとは言えないが、ステイシーは先生然とした調子でエドマンドに質問する。
どこの世界でも人にものを教える人というものは同じような口調になるのかもしれない。
「確か、ダンジョンは魔王城に行くために通らざるを得ないここを含めた四つと、魔王とは無関係なその他に分けられて、前者四つには全てにステイシーみたいな管理人がいるって話と、その管理人の具体的な仕事についてはまでは聞いたんだったか」
「そうだね、まあ大体正解かな。じゃあ次は、魔王とは無関係なダンジョンについて話していこう。これらのダンジョンには、原則として管理人がいなくて、難易度もいろいろあってね。中にはここより簡単なところもある」
「ここより簡単ってのは、どういうやつが入るんだ?」
ここ「幼子の遊び場」でさえ、冒険者ではなくとも多少腕に自身のある成人男性ならクリアできるのだ。
ここより簡単なら、それはもう観光目的くらいにしか入る人はいないのではないだろうか。
「確かに、ここより簡単なところに入る目的は、冒険とかでは無いね。例えばその一つの「エルフの森」に入る目的は、エルフに会って魔法薬を買ったり、怪我を治してもらうこととかだし」
「「エルフの森」?」
相変わらずどこかで聞いたその響きに、エドマンドは考え込む。
(どこで聞いた? いや、どこで見た? あの文字の並びを見たときは、確か読めなかったような気がするが、いつだ?)
「そうだから、その手のダンジョンは――、ってエド? ねえ、エドってば! おーい、エドマンドくーん?」
ステイシーが何事かいっている気がするが、エドマンドには聞こえていない。
(どこだ? でも文字を見たってことは)
「あの時か!」
そう言ってエドマンドは勢い良く立ち上がった。
読んでいただきありがとうございます。
座学のパートの3回目でした。
今回で座学はおしまいです。
次回からは白雪姫(杖)を探しに行きます。
明日も読んで頂けると嬉しいです。
それでは。
追記(2019年4月10日11時04分)
誤字脱字含めいろいろ手直ししました。
適当な確認のまま投稿してしま、すみませんでした。
追記(2019年4月17日11時31分)
ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。
内容は変えておりません。