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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
6/49

第2節「座学(2)」

誤字脱字含めいろいろ手直ししました。(2109年4月10日10時53分)


追記(2019年4月17日11時07分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

「ステイシー? どこへ行くんだ?」


 昼食も朝食同様に、このダンジョンの壁の中にあるステイシーの家? で食べるものだと思っていたエドマンドの予想に反し、ステイシーは外への出口に向かって歩き出す。


「作ってもいいんだけど、それだと籠もりきりになっちゃうからね。今日のお昼は外で食べようと思って」


 エドマンドが付いて来ていることを確認しつつ、ステイシーが告げる。


「そういうことか、でも俺はお金とかほとんどないぞ?」


「知ってるよ。私はお金に困ってないから、今日ところはおごってあげる」


「おおっ!」


「ふふっ、感謝しなよ?」


「ああ、もちろん」


 程なくして二人はダンジョンの外に出て野原を抜け、街へと到着する。


「おおっ!」


 ゲームで見るのとはまるで違うリアリティーの街並みに、エドマンドは思わず感嘆の声を漏らす。


 その時不意に横合いから声がかかった。


「おっ、ステイシーちゃんじゃねーか! 今日はどうした、エドマンドなんかと二人で」


「こんにちは、八百屋さん。実はね私、彼の師匠になったんだよ」


「はははっ、こいつは傑作だ。エドマンド、お前ついにこんな小さな女の子の弟子になっちまったのか」


「うるせー、それにステイシーはめちゃく、んぐっ、んーんー」


 ステイシーの強さを語ろうとしたエドマンドは、ステイシーに口を塞がれる。


「は、ははは、それじゃあ八百屋さん、また今度ねー」


 そのまま路地裏へと引きずり込まれたエドマンドは、そこでようやくステイシーから開放される。


「なんだよ、いきなり」


「エドには言っなかったけど、私が強いってことは秘密なの。ここでは普通の女の子で通してるんだから」


「そんなこと知らなかったし……」


 しかし、そのような嘘が通じるということは、おそらく人物の上のレベルは、エドマンドにしか見えていないということだろう。


 それによると、エドマンドがレベル1、八百屋のおじさんがレベル8、ステイシーがレベル87だそうだ。


 ダンジョン内にいる時は、レベル1で当然のエドマンドしか比較対象がなかったため、ステイシーがどれほど強いかわからなかった。しかし、成人男性がレベル8ということからすると、ステイシーの強さは尋常なものではないのだろう。


「まあ、言ってなかった私も悪かったよね、ごめんごめん。でもとにかく、私が強いってことは隠しておきたいの。だから話を合わせてくれないかな?」


「わかった。でもいつか理由を話してくれよ?」


「それはもちろん、然るべき時が来たら話すつもりだから安心して」


「じゃあいいよ、それより昼飯行くんだろ?」


「そうだね、行こうか」


 そう言うとステイシーは路地裏を出て歩き出す。


「ところで、ステイシーはどうしてお金なんか持ってるんだ? まさか強奪したわけでもないだろう?」


「そりゃそうだよ、きれいな手段で手に入れたきれいなお金だよ?」


「でも、基本ダンジョンにいるわけだろ? どうやってお金稼ぐんだ?」


「えーっとね、じゃあちょっとここで待っててくれるかな?」


「? 別にいいけど……」


「じゃあ、ちょっと待っててね、すぐ戻って来るからー」


 ステイシーは走り去り、程なくして紙袋を抱えて帰って来た。


「はいこれ」


 ステイシーが袋から取り出したそれは、肉まんのようなものだった。


「これはね、ステイシーまんって言ってね、私がレシピを考えた料理なの。まあとにかく食べてみてよ」


「じゃあ、遠慮なく。いただきます」


 大きく頬張ると、口の中に肉汁が広がりとてもとてもジューシーで美味しかった。


「美味いな。これをステイシーが考えたのか?」


「そうだよ、すごいでしょ?」


「すごいな、ホントに」


 朝食も美味しかったし、ステイシーは本当に料理が得意なのだろう。


「もう一個食べる?」


「ああ、食べる」


 自分もステイシーまんを食べているステイシーから、新しい1個を受け取り、再び大きく頬張った。



「それで、ステイシーはさっきのまんじゅうを売ってお金を稼いでるってことでいいのか?」


 結局あの後、二人合わせて十個近いステイシーまんを平らげたエドマンドとステイシーは、再びステイシーが少し前を歩く形で、二人並んで街を歩いていた。


「うーん、まあ、間違ってはいないんだけど、完全な正解とも言えないかな」


「他にもなにか売ってるのか?」


「そうだね、まずそもそもとして、エドは魔力試験薬、って知ってる?」


 そう言うとステイシーは、踵を返しどこかに向かって歩き出す。


「魔力試験薬?」


 話が見えてこないエドマンドは、とりあえずステイシーに付いていくことにした。


「やっぱり知らないよね。魔力試験薬っていうのは、その人の魔力タイプを確かめる薬なんだけどね、このアイテムは、作った魔法使いの力量によって、その質が大きく変わってくるの」


 エドマンドが付いてきていることを確認したステイシーは、歩きながらエドマンドの質問に答える。


「質が変わるどうなるんだ?」


「質によって、測定できる魔力の大きさと、測定できる魔力の数が変わるの。質が高ければ高いほど、大きな魔力を測定できる上に、複数種の魔力を測定できる、ってわけ」


「なるほどな、それで、その魔力試験薬がどうしたんだ?」


「それを私が作って売ってるんだよ。ほらあそこ」


 ステイシーが指し示した先には、瓶に入った透明な液体が、頑丈そうなガラスケースに入って並んでいた。


 一見しただけではただの水にしか見えないそれは、しかしながら到底水などにはつかないであろうほど高額な値段が記されていた。


「金貨十枚!? 嘘だろ……」


 こちらに来て日の浅いエドマンドでは正確なことはわからないが、先程から街を見てわかる限りでは、普通の定食で銅貨三枚。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚ということのようだ。


 つまり、ステイシーの作った魔力試験薬は、単純計算で銅貨千枚分の価値であり、定食にして三百三十三食分と言うことで……。日本での定食一食の値段を仮に五百円とすると、ステイシーの魔力試験薬は日本円にして十六万六千五百円相当ということになる。


「私が作った魔力試験薬は、私以下の魔力までなら図れるし、その人が持つ全ての魔力確認できるの」


「要するに、すごく高品質ってことか」


 どうやら、品質ゆえのあの価格、というわけらしい。


「そういうこと。だから一個一個が小さめの宝石とかと同じような値段で売れるの」


 えっへんと、自慢げに胸を張るステイシーは、どこか誇らしげだ。


「はあ、だからお金には困ってない、と」


 一つ作れば十六万円以上の儲けが出るなら、確かにお金に困っていないというのは本当なのだろう。


「その通り。それじゃあ、そろそろ戻って授業の続きをしようか」


「そうだな、お腹もいっぱいになったし」


「あ、でもちょっと待ってね」


 そう言うとステイシーは、トコトコと走って例の魔力試験薬が売っている店に入っていった。


 どうやら、店の店主と何事か話しているらしい。


 程なくして、ステイシー二本の魔力試験薬を持って戻ってきた。


「おまたせ~。これもらってきたよ」


「もらってきたって……そんな簡単にくれるものなのか?」


「そりゃあもちろん、だってあそこは私のお店だし」


 ステイシー曰く、あの店に売っている物はすべてステイシーが作っているもので、あの店を経営しているのもステイシーということらしい。


「それで、どうして今それが必要なんだ?」


「簡単なことだよ。エドの魔力を調べようと思ってね」


 そう言うとステイシーは、二本持っていた魔力試験薬の片方をエドマンドに手渡す。


「それが君ので、これが私の。今すぐ使えたらいいんだけど、流石にこんな往来で使うわけにもいかないから、一旦帰ろうか」


 ステイシーに連れられる形で、二人は昼食前までいたダンジョン内の一室に戻ってきた。


「それで、どうしてあそこじゃ使えなかったんだ? 爆発でもするのか?」


「まさか、私の魔力試験薬は並の魔力量じゃ爆発したりしないよ。問題は私がお手本を見せなきゃいけないことにあるんだけど……。まあ、これは見てもらったほうが早いだろうし、とりあえずこれを通してこっちを見ててね」


 エドマンドはステイシーに言われるまま、小学生の時に使った遮光板によく似た黒いガラスを通してステイシーの方を見る。


「いくよ?」


 変化は急激に訪れた。


 言葉とともに、素早く縦に三回、横に三回、再び縦に三回振られたステイシーの魔力試験薬の瓶は、元々瓶の半分くらいまでしかなかった液体は瓶をなみなみと満たし、その上、気が付いた時には極光を放っていた。


「エド、目は大丈夫?」


「ああ、このガラスのおかげで大丈夫だ」


「なら良かった。もう少しで光が収まるはずだから、ちょっとだけ待っててね」


 ステイシーの言葉通り、魔力試験薬の光は程なくして収まった。


「真っ白な光だったな」


「でしょう? 普通はあんなに光らないんだけど、私は魔力が強すぎるから、ああなっちゃうんだよね。どうして通りで使えなかったか、わかってもらえたかな?」


「ああ、納得だ」


 あんな光が突然現れれば、パニックが起きてもおかしくはない。


 ステイシーの判断は妥当なものだろう。


「それで、これはどういうことを示しているんだ?」


 エドマンドは、全体が真っ白に変わり、体積が倍近くなった魔力試験薬を指しながら尋ねた。


「体積が魔力の大きさで、色が魔力の属性だね。エドは、魔力の主要五属性ってわかるかな?」


「いいや、全くだ」


 そんなことはチュートリアルでも語られていないため、エドマンドは本当に全くの無知だ。


「魔法には、赤属性、青属性、緑属性、白属性、黒属性の五つがあるの」


 ステイシーは、黒板に赤属性、青属性、緑属性、白属性、黒属性と順に書いていく。


「それで、赤属性は一般に炎に関する魔法、青属性は一般に水に関する魔法、緑属性は一般に風や草木に関する魔法、白属性は一般に回復関係の魔法、黒属性は一般に呪いに関する魔法が該当するの」


 今度は、赤属性、青属性、緑属性、白属性、黒属性それぞれの下に、炎、水、風と草木、回復、呪いと書いていく。


「まあ、はるか昔に高名な魔法使いが魔力試験薬の原型になるものを作るときに分類したものだから、厳密には魔法そのものがこうやって分かれるわけじゃないんだけどね」


「ということは、ステイシーは白属性の魔力を持ってる、ってことか」


「そうなるね。さらに言えば、魔力試験薬が瓶を満たした状態は、最高クラスの魔力の大きさだってこと」


「なるほどな。それで、俺もこれを使ってみればいいのか?」


「そうだね、使い方は縦に三回、横に三回、縦に三回振る、ね」


「了解、じゃあいくぞ」


 エドマンドは縦に三回、横に三回、縦に三回振ってみる。


 たちまち液体の量が瓶の四分の三辺りまで上昇したが、なぜか色は変化しなかった。


「うん? なんで色が変わらないんだ?」


(そんな、まさか、”無色”!? そんなはず……)


 なぜ色が変わらないのかわからず首を傾げるエドマンドの隣で、ステイシーは一人戦慄していた。


(無色属性。この属性を持つ人はほとんどいないはずなのに……)


 無色属性は、第六の属性である。


 該当者は稀に存在し、世界に一人しかいない、などというほど珍しいものでもない。


 しかし多くの場合、無色属性を持つものは、極端に魔力が少なく、代わりに極めて身体能力が高いのだ。


 そのため、高名な冒険者の中にも、無色属性者はそれなりにおり、一様に格闘術や剣術の達人たちである。


 しかし、エドマンドの場合は……


(間違いない、あの反応は有魔力無色属性保持者だ)


 有魔力無色属性保持者は、世界広しといえど、ステイシーが知る限りエドマンドの他には二人しかいない。


 主要五属性を全てと、無色属性が使える唯一の存在である。


(とはいえ、今の彼にそれを言ったところでどうしようもないし、とにかくここはごまかしておこう)


 ステイシーは、魔力試験薬に干渉し、その色を赤、青、緑、白、黒が同じ位になるようにの幅変化させた。


「おお! やっと変わったか」


 ステイシーが干渉したとは露程も知らず、エドマンドは変化した魔力試験薬をステイシーに見せに来たのだった。

読んでいただきありがとうございます。

座学パートの2回目です。

自分でタイトルつけておいてなんですが、全然座学じゃない気が……。

ステイシーが一方的に話すだけでは、全く面白くないことは明白なのでこんな感じになってますが、こうすると今度は分量の割に説明できることが少なくなってしまいますね。加減が難しいです。悩みどころですね……。

それでは今回は、このへんで。

明日も読んで頂けると嬉しいです。


追記(2109年4月10日10時53分)

誤字脱字含めいろいろ手直ししました。

適当な確認のまま投稿してしまい、すみませんでした。


追記(2019年4月17日11時07分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

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