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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
4/49

第1節「プロローグ(3)」

誤字脱字含めいろいろ手直ししました。(2019年4月9日21時44分)


追記(2019年4月17日10時45分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

「そう、だからさっきの意識の間を縫う技術は、魔獣に対して使うなら魔獣に捕捉される前に使って、一回攻撃することしかできない。一回攻撃しちゃうと魔獣から敵として認識される。そうすると五感の全てで認識されて、意識の間を縫う難易度が跳ね上がっちゃう。人間なら視覚と聴覚がこちらに向いていない一瞬をつくだけだけど、魔獣はそこに嗅覚と野生の勘とも第六感とも呼ばれる感覚も加えて、全ての感覚がこちらに向いていない一瞬をつく必要があるからね」


「じゃあ、その技術の習得しても、無敵じゃないのか」


「だからそう言ったでしょ。それで次は魔人についてね」


「魔人?」


 再び出てきた初めて聞く単語に、満人はもし現実世界に戻れたら、もう少しちゃんとゲームをプレイしよう、という割とどうでもいい決心をした。


「そう、魔人。魔人っていうのは、魔力によって強化された人間のこと」


「具体的には何ができるんだ?」


「そうだねー、私がその魔人だから見せてあげる。どうせ口で言ったって信じてくれないだろうし」


 ステイシーは椅子から立ち上がると、トテトテと走り満人から距離をとる。


「ポンコツ冒険者君、私はここから動かないから君はそこから両手で一本の剣を持って、全力で助走をつけて私を刺し貫いてごらん」


 振り返って手を振りながら、ステイシーはとんでもないことを言った。


「いやいやいや、そんなことしたらステイシーが死んじゃうだろ?」


「いいからいいから、ほれ、いっちょぶすっといっちゃいなよー」


 困惑する満人とは対照的に、極めて軽い調子のステイシー。満人は、正直何を考えているのかわからなかった。


「死んでも知らないぞ?」


「だから大丈夫だって、まったく君はじれったいなー」


 仕方がないので満人は覚悟を決める。それに、本当に死んでしまうならステイシーは避けるはずだ。躱す意志がステイシーにあれば、満人がどんなに頑張っても当てることはできないだろう。それだけの実力差があることはさっき確認済みだ。


 いつもの両手剣の片方を両手で構え、満人は声を上げて駆け出す。肉を貫く感覚が手に伝わって来ると同時に、恐怖で閉じてしまっていたまぶたを開ける。


「大丈夫だって言ったのにまったく君は……。私を殺してしまうことを恐れて私に剣が届く瞬間目を瞑ったでしょ?」


 そこにはステイシーの顔が間近に迫っていた。顔を歪めることすらなく、呆れた様子で満人を見つめている。


「!?」


 思わず視線を下げるが、確かに満人の剣はステイシーを貫いていた。


「これで私が人間じゃないって信じてくれたかな?」


 ステイシーが満人から離れ、その体から剣が抜ける。抜けた瞬間傷口から血が流れるが、傷はみるみるふさがりほんの数秒で元通りになる。


「あちゃー、私は無事でも服がひどいことになっちゃった」


 満人が刺したお腹のあたりの服が破け、露出の多い服装になっていた。しかし、今の満人にそれを気にしている余裕はない。


「本当にステイシーは魔人なのか……」


 破けた服を見つめ落ち込んでいたステイシーは、顔を上げると満人をジト目で見てくる。


「そうだよ、やっと信じてくれたね。君が疑り深いせいで、私のお気に入りがめちゃくちゃだよ。どうしてくれるの、もー」


「ご、ごめん……」


 どうやら今着ている金糸で縁取られた純白のローブはお気に入りだったらしく、ステイシーは頬を膨らまして怒っている。完全に自業自得だと思うが、それを言うと本当にへそを曲げてしまいそうなので黙っておくことにした。


「まあ、私が言い出したことだし、服が治らないことを忘れてたのも私だし、よくよく考えたら君は悪くないよね。こっちこそごめんね、八つ当たりしちゃって」


「いやそれはいいけど、新しい服に着替えなくていいのか?」


「それなら大丈夫、えいっ」


 ステイシーは自分の上方に手を伸ばし、虚空に手を突っ込むと何かを引きずり落とす。


「じゃーん、これが私の更衣室アーンド衣装部屋でーす!」


 轟音とともに着地したそれは、簡素な作りの小屋だった。


「魔法で小屋を出すとかもうなんでもありだな……」


「そうかな? それじゃあ着替えてくるね」


 ステイシーは小屋に入ると中からゴソゴソと音がする。程なくして、ステイシーが小屋から首だけだした。


「ねえねえ、何かリクエストってあるかな? こんな服着てほしいー、とか」


「うーん、正直なんでもいいだけど……」


「そう言わずに、何かない? かれこれ二世紀くらい、さっきの服を魔法できれいにして着続けてたから決められないの、お願いなんでもいいから言ってみて」


「二世紀ってステイシー今何歳だよ……」


(年下だと思ってたら、遥かに年上だったとは……)


「そうだなー、ステイシーは可愛いから何着ても似合うと思うけど、強いて言うなら人形が着てるようなひらひら多い服が似合うんじゃないか?」


「うーん、何かそこはかとなく子供扱いされてる気がするけど……。しょうがない、自分じゃ決められないしそれでいいや」


 ステイシーの首が中に引っ込み、再びゴソゴソと音がし始める。今度はそれなりに時間が立ってから、ステイシーが中から出てきた。


「どう、かな?」


 フリルで装飾された純白のワンピースドレスに身を包んだステイシーは、本人の白い髪、白磁の如き肌とあいまってとても透明感があり、さながら妖精のようであった。


「ああ、似合ってる、と思う。なんだ、その可愛いぞ?」


「そう? でもなんで疑問形なのかな? 素直に『フリルで装飾された純白のワンピースドレスに身を包んだステイシーは、本人の白い髪、白磁の如き肌とあいまってとても透明感があり、さながら妖精のようであった』って言ってくれればいいのに」


「んなっ!?」


 思ったが口に出せなかったことを一字一句違わず言い当てられ、満人は絶句する。


「そうかそうかー、妖精の如き可愛さかー。ありがとね、ポンコツ冒険者君?」


 ステイシーは腰ほどまである純白の髪を左右に揺らしながら、満人の周りを上機嫌でくるくるとまわっている。


「あーそうだよ! 妖精のみたいで可愛いよ! これで満足か!」


 幸か不幸か、非リア充であった満人は、女の子を褒めることの恥ずかしさを初めて知ることになった。やけになって叫ぶ満人は、正直恥ずかしすぎて死にそうだった。


「ふふ、素直が一番だよ? 私に隠し事なんてできないんだから、ね?」


「それは辛いな」


 とはいえ、今の今まで満人がこの世界の人間ではないことを触れてこないところをみるに、いつでも心を読んでいるわけではないないのだろうが、満人は念の為ステイシーの前ではあまり向こうの世界のことを考えないようにすることにした。


「簡単だよ、隠し事しなきゃいいだけなんだから」


「そうだな、考えてみればもう特に隠しておきたいことも無いし、関係ないかもな」


「私には正規の冒険者じゃないことも、初級ダンジョンで三百回負けたことも知られちゃってるしねー」

「その通りだ」


「それで、なんでステイシーが着替えることになったんだっけ?」


「私が人間じゃないことを君が疑って、それを証明するために君が私を刺したからだよ?」


「そうだったそうだった、それで魔人ってのは何なんだ?」


「魔力によって強化された人間っていうのはさっき言ったと思うけど、その結果として私みたいにみんな基本的に不老不死で、それ以外はそれぞれかなー? 私は魔力量が常人の数十倍あるし、他の人だとすごく力が強かったり、すごく速く動けたり、まあいろいろだね」


「……もしかして上位のダンジョンにはそんなのがいっぱいいるのか?」


 もしそうならお手上げな満人は、恐る恐る尋ねる。


「まさかー、だって魔力で人間を強化できるのは魔王さんだけだよ? そんなにいっぱいいるわけないよ」


「そ、そうか、それは良かった?」


 満人は何かが引っかかった。


「ステイシーは魔王と会ったことがあるのか?」


 そう、人間を魔人に変えられるのが魔王だけなら、魔人であるステイシーは魔王に会ったことがなければならないのだ。


「もちろん会ったことあるよ? 直属の上司だしね」


 ステイシーはなんでもないことのように自分が魔王側だと言う。確かに、ステイシーは魔人なのだから魔王側であって何もおかしなところはない。しかし、満人もとい、最終的には魔王討伐を目指す冒険者の一人であるエドマンドに冒険指南をするなどというものだから、てっきり魔王とは敵対関係なのかと思っていたのだ。


「じゃあ、どうして冒険者の俺を指導してくれるんだ?」


「うーん、なんというか、こっちにもいろいろあってね? まあ、ポンコツ冒険者君が損しないことだけは私が保証するから、信じてくれるとうれしいな」


 ステイシーは寂しげな笑顔でそう言った。何やら複雑な事情があるのだろうが、おそらく聞かないほうが良いのだろう。


「わかった、どうせここで断ってもまたこのダンジョンで負け続けるだけだ。ならこの際ステイシーが魔王側だろうとなんだろうと関係ない。これからよろしく頼むぜ、師匠」


「うん! よろしくねポンコツ冒険者君」


 満人が差し出した手を勢い良く掴んだステイシーに先程の寂しげな雰囲気は無く、彼女らしい溌剌とした笑顔浮かべていた。



 ステイシーが寝たことを確認した満人は、一人寝床を離れ、タンジョンの外に出てきていた。


「ふう……」


 現代日本で生活していた満人には馴染みのない、混じりけのない闇の中で、満人は一つ息をつく。


(どうやらステイシーは気がつなかったようだけど、用心するに越したことはない、か)


 ステイシーが完全に寝ていることを確認した満人だったが、念の為周囲を見渡し、人の気配が無いことを確認することにした。


(うん、まあ、見えないんだけどね)


 結局暗すぎて何もわかりはしなかったが、ともかく人の目はないと仮定し、満人は虚空へと手を伸ばす。


 なにもないはずの一点を押すように満人が指を動かすと眼の前には『リバース・デーモン』のそれと酷似したメニュー画面が表示された。


(やっぱりそっくり、というか、たぶんそれそのものなんだろうなあ)


 昼間、ステイシーが言っていた魔人等々については全く知らなかったものの、それ以外の設定が『リバース・デーモン』のものと一致していたことから、満人はこの世界を『リバース・デーモン』の世界であると断定していた。


(本当に、何が起きているのやら)


 最初こそ驚いたものの、今となっては満人の心は落ち着いている。もしかすると、現実の世界で大して充実した人生を送っていた記憶がないからかもしれない。


(まあ、なるようにしかならないよな。とにかく、今は情報収集だ)


 手始めに、歯車のアイコンを押してみる。このアイコンからは、各種設定とゲーム終了ができたはずだ。


(こういうのはちゃんと見ない派だから、初めてしっかり見るけど、いろいろあるんだな)


 とりあえず、何か役に立つものがないか探していると、「モブのステータス表示」という項目を発見した。


 どうやら、モブについても他のプレイヤーに表示されるのと同じステータスを表示する機能らしい。


 これがもし使えるなら、ステイシーのステータスを見ることができるかもしれないと考えた満人は、とりあえずオンにする。


(他のものは何に使うのわからないし、細かい設定はその都度調整するとして、次は持ち物か)


 最初の画面に戻った満人は、バックのアイコンを押す。


 持ち物の画面は、紙のようなアイコンで埋め尽くされていた。


(何だこれ?)


 眺めていても仕方ないので、満人が一番上のアイコンを押してみると、手の中に丸められた何かが現れる。


(羊皮紙って、やつか? 実物を見るのは初めてだな)


 触ったこともない質感のそれは、満人の知識から判断する限り、やはり紙というよりは布に近い。


 そして、とにかく広げて見てみようとした段階に至ってようやく満人は、自分が暗闇の中にいる事に気がついた。


(読めないじゃん…)


 仕方なく満人は、寝床へと戻っていったのだった。

読んでいただきありがとうございます。

一応、今回でプロローグは終わりになります。

次回からは、主人公が転生した世界についての話です。

重ねてになりますが、今回も読んで頂きありがとうございました。

明日も読んで頂けると嬉しいです。

それでは。


追記(2019年4月9日21時44分)

誤字脱字含め、いろいろ手直ししました。

適当な確認のまま上げてしまい、すみませんでした。


追記(2019年4月17日10時45分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

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