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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
3/49

第1節「プロローグ(2)」

誤字脱字含めいろいろ手直ししました。(2019年4月9日21時21)


追記(2019年4月17日10時38分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

「それで、どうして俺は負けるんだ?」


 機嫌を直した満人は、早速師匠となったステイシーに聞いてみる。


「ズバリ、弱いからだね!」


 まったく、こいつはまた俺の心を折るつもりか、と満人が思ってしまう程、包み隠さず伝えるステイシー。しかし、今の彼女は笑顔ではなく、真剣な表情だ。


「いい、負けることに弱い以外の理由はないんだよ。負けてる以上、エドは弱い」


「じゃあどうしろってんだよ」


「簡単なことだよ、倒された魔物よりもっと弱い魔物を倒すか、誰かに稽古をつけて貰えばいいんだよ。とはいえあそこより弱い魔物が出る場所はないから、誰かに稽古をつけてもらうしかないだろうね」


「誰に?」


「うーん、私?」


 自分を指差し小首を傾げるステイシーに稽古をつけられるほどの格闘技術があるとは思えない。


「とりあえず、他に頼むあてもないならステイシーでいい」


「でいいって……確かに私は魔法使いだから、格闘は苦手だけどさー」


 適任ではないとはいえ、仮にも師匠に対して、”でいい”とはあまりにもひどかったかもしれない。


「悪い悪い。ステイシー、俺に格闘の稽古をつけてくれないか?」


「うん、私なんかで良ければ。それじゃあいくよ?」


 ステイシーはワンドを構え、満人は自分の両手剣を構える。


(おお! なんでかわからんが、この両手剣の使い方がわかるな)


「ああ、いつでもこい」


 何故か使い方がわかったことで、こんなか弱い女の子に負けるわけがないと思っている満人は、稽古をつけられる側にも関わらず、ステイシーに先制攻撃を譲る。


「いや、普通君から攻撃してくるんじゃ……まあ、こいって言うなら行くけど……えいっ」


 満人の視界から消えたステイシーは、可愛い掛け声とともに背後からワンドを振り下ろす。


「ぐはっ!」


 そして満人の意識はそこで途切れた。



「――。――ーい! おーいってば! エドー? 生きてるー?」


「……ここは」


 頭の下には覚えのある柔らかいものがあった。


「あ、起きた。ここは、本日二回目となる私の膝の上だね。美少女の膝枕だよ? もっと喜んでいいんだよ?」


 満人の顔を覗き込むステイシーは反応が薄いことに不満げだ。


「そんなに言われると、素直に喜びにくいけど……っと、心配してくれてたみたいだし、その、ありがとうな」


 満人は勢いをつけて起き上がる。


「うー、微妙な反応だー。どういたしましてー」


 もっと動揺して欲しかったらしいステイシーは、唇を尖らせる。


「そんなことより、お前十分格闘も強いじゃねーかよ、俺を騙してたのか?」


「そんなことよりって! 私の美少女としてプライドをかけた膝枕をスルーしたことが、そんなこと!? もういいよ、エドは私の事可愛くないと思ってるんだね……」


「いや、そんなことはないが……」


 今の見た目はエドマンドのため、確か十五歳なのだが、中身であるところの満人は二十歳なのである。


 どう見ても十代半ば、日本で言えばせいぜい中学生といった容姿のステイシーにときめいてくのは、ロリコンと呼ばれる人たちだけだろう。


「それで、私が格闘でも強いって話だっけ?」


「そうだ、一瞬で見失ったぞ?」


 先ほど一瞬で背後を取られたことを思い出す。


「うーん、それはエドが弱すぎるだけじゃないかなー?」


「嘘つけ、あんなに速く動けるんだからステイシーが強いんだろう?」


「そもそも私そんなに速く動けないし。なんなら確認してみる?」


「どうやって?」


「そうだな、かけっこでいいんじゃない?」


「かけっこ、ねえ?」


 先ほどの動きを見る限り、満人に勝ち目は無いように思える。


「それじゃあ、私がワンド離して倒れた瞬間にスタートね。ゴールはあっちの壁。それじゃあいくよー?」


 ステイシーがワンドを離す。カランという音合図に、二人は駆け出す。ゴールまでの距離は百メートルといったところだろうか。


「よし! ゴールだ」


 満人がゴールし、約三秒が経過する。


「ゴール!」


 結果として、満人から四秒ほど遅れてステイシーはゴールする。


「本当に遅いな。まるで普通の女の子みたいじゃないか」


「ね? 私の、運動、能力は、普通の、女の、子、ぐらい、なんだよ?」


 息が上がって途絶え途絶えに話していることから見て、手を抜いていたということも無いようだ。


 一旦、ステイシーの息が整うのを待つ。


「じゃあどうして俺はさっきステイシーを見失ったんだ」


「それはね、たぶん――」


 再びステイシーが視界から消える。


「こういうこと、かな? ふーっ」

「うおっ!」


 背後に回り満人の背に抱きついたステイシーは、耳もとでささやき息を吹きかける。


「はははっ、いいリアクションだね」


「お前なー」


 ステイシーを引き剥がそうと伸ばした手が空を切り、正面から抱きしめられる。


「ふふ、遅いよー?」


「わぷっ」


 ステイシーの胸に顔を埋める形となり、流石に動揺する。幸い、すぐに満人は開放された。


「今のは? まさか魔法か?」


「違う違う。今のは経験の差ってやつかな? エドの意識の間をついて視界から消えたり、体から離れたりしたんだよ」


「魔法とかじゃないのか」


「違うよー? 魔法を使ったら、もっと唐突で不条理な感じだからね」


「唐突で不条理な感じ?」


「そうだよ、じゃあねー、はいっ」


 ステイシーは両腕を満人にむけて広げる。


「どうしたんだ?」


「もー、察しが悪いなー。ハグだよ、ハグ。美少女とのハグだよ? 断ったりしないよね?」


 聞いておきながら、断られることなどないという表情だ。


「それじゃあ、ありがたく」


 満人はステイシーを正面から抱きしめる。ステイシーの髪からは石鹸の良い香りがした。


「うんうん、素直でよろしい。それじゃあまずは、さっきと同じことをするから、しっかり抱きしめておくんだよ?」


 ステイシーのサファイアブルーにきらめく瞳に見つけられ、流石の満人も動揺を隠せない。


(俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない)


 満人は、頭の中で何度も言い聞かせることでなんとか平静を保った。


「わ、わかった」


 少し力を込めると、よりステイシーの体温が感じられ、満人は鼓動が早くなる。


「うんしょ、うんしょ。うん、無理だね」


「無理?」


「そう、無理なんだよ。さっきも言ったけど、あれは意識の間を縫っているだけだから、身体的に拘束している相手に対しては効かないの」


「触れられているだけで使えなくなるのか?」


 それならあまり有効な技術ではない気がするのだが。


「まあ、手を掴んでる程度だと成功しちゃうこともあるから、わざわざ抱きしめてもらったんだけどね」


「なんだ、大したことないんだな」


「ふーん、そういうこと言っちゃうんだー? さっきその大した事ないものに翻弄されてた人がいた気がするんだけど、誰だっけー?」


「ぐっ……悪かったよ」


 それを言われると頭が痛い。


「わかればよろしい」


「でもそれじゃあ、この技術はいつ役立つんだ?」


「確かにこの技術は人間相手に使うときはかなりの実力差が無いと成功しないから、大した事技術じゃないかもしれない。でも、魔獣相手になら、逆にこちらがかなり弱くない限り使うことができるの」


「おお! それじゃあ無敵じゃねーか!」


(そのスキルがゲームの方にもあったら、あんなに死ぬこともなかっただろうに)


 歓喜する満人に、ステイシーは頭を抱える。


「だから君は最弱なんだね……」


 ステイシーはやれやれと左右に首を振る。


「わかってるが、どうして急にそんなこと言われなきゃならないんだ?」


「いい最弱君、君は魔獣がなんだか知ってる?」


「そんなもん常識だろ? ダンジョンに出る敵のことじゃないのか?」


 流石にその程度のことはチュートリアルで説明されていたので迷いなく答える。


「そうだね、それはダンジョンに入ったことがない一般人や子供の認識だね」


「どういうことだよ?」


(運営さん、どういうことですかね?)


「最弱君、君は冒険者として当然理解しているべき知識がない。さては君、正規の冒険者じゃないね?」


「……」


(そういえば、そんな設定もあった気がするな)


 ステイシーの質問に「そういえばそんな設定もあった気がする」などというわけにもいかない満人は、答えることができなかった。


「沈黙は是なり、だよ?」


「……そうだよ、俺は正規の冒険者じゃない。えーと、そうだ、お金。養成所に行く金が無かったからな」


 正直身に覚えがないことで責められるのも気分が悪いのだが、ここまできて怪しまれるわけにもいかないので、どうにか取り繕う。


「やっぱりね、これで納得がいったよ。初級のダンジョンで三百回もやられるなんておかしいと思ってたんだ」


「じゃあ、俺はもうダンジョンに入っちゃいけないのか?」


 満人は、おそるそ恐る恐る尋ねる。ダンジョンの管理者である彼女ならば、満人がダンジョンに入れないようにすることも可能だろう。


 とにかく、現実世界に帰る方法を探すつもりでいた満人的には、それはそれで問題ないのだが、一応エドマンド的には問題があるだろうということで聞いてみる。


「へ? どうして?」


 満人の質問に、ステイシーは呆けた顔で首を傾げる。


「いや、だってダンジョンに入るには養成所でもらえる許可証が必要なはずだろ? ここは初級ダンジョンで、特にチェックされることも無いけど……」


 ゲーム通りなら、主人公は許可書無しでダンジョン入り、これをクリアする。それによって以降のダンジョンに入れる許可書を手に入れる。という流れだったはずだ。もちろん満人はクリアしていないので、ネット掲示板で見た情報だなのだが。


「なんだ、そんなことか。それなら問題ないよ? だってそれは人間の決めた決まりでしょ?」


「そうだけど……? ステイシーはダンジョンを管理してるんじゃないのか?」


「うん、そうだよ? 何度もそういってるじゃん」


「だったら、違法侵入の冒険者は止めないといけないんじゃないのか?」


 満人の質問に、ステイシーはしばらく黙って考え込む。


「……もしかして君は、私が養成所を管轄してるのと同じ組織の人間だと思っているのかな?」


「違うのか?」


「どれだけポンコツなの、君は……」


「最弱の次は、ポンコツって……いや事実なんだろうけど」


(こんなことなら、さっさとアイテム使って強くなっとけばよかった……)


 満人は、たかがβテスト、と真面目にプレイせず、縛りプレイなどをしていた自分の行いを、今更ながらに後悔する。


「ああ、本当に君はポンコツだね。あのね、そもそも私ほどの実力者を人間の組織が初級ダンジョンの管理者なんかに任命するわけ無いでしょう?」


「確かに」


「そうだよね。でも、そんなことから推理しなくても普通の冒険者ならわかるはずなんだけどね?」


 ステイシーの口調から哀れみを通り越し、諦めが感じられる。どうやら満人はそれほど重大なことを見逃しているらしい。


「本当に何も気が付かない? 抱きしめたのに?」


「本当にわからん。ステイシーに関係することなのか?」


「そうかー、ポンコツ冒険者のエドマンドにはわからないかー」


「もうポンコツでもなんでもいいから教えてくれ」


「しょうがないなー。じゃあ教えてあげるよ。私は人間じゃないの、オーケー?」


「はい?」


 ステイシーが何を言っているのか、満人は理解できない。


「はい? じゃないよ……だから私は人間じゃないの」


「冗談だろ? だってどう見たってただの女の子じゃないか」


「本当に無知だね君は。まあ、養成所行ってないんじゃこんなもんなのかな?」


 そこでステイシーが指をならすと、二人のいる空間が振動し、二人のすぐ後ろの床から椅子がせり出してくる。


「たぶん長くなるから座って話そう?」


「わかった」


 二人は腰掛けると再び向かい合う。


「順を追って説明するね? まず、魔獣についてだけど、正確な定義は魔力によって強化された動物や、複数の動物を魔法で合成したキメラのことなんだよ。ここまでは大丈夫?」


「なるほど、あれは動物の成れの果てなのか」


 もしかすると、ロード画面に表示される情報など何かしらの形で知らされていたのかもしれないが、そこまでしっかりやっていてわけでもない満人は、この情報も知らなかった。

読んでいただきありがとうございます。

特に書くこともないので前書きはやめました。

だからといって後書きに書くことならあるかというとそんなこともないんですが……。

もしかしたら次回から後書きもなくなるかもしれません。

明日も読んで頂けると幸いです。


追記(2019年4月9日21時21分)

誤字脱字が多かったので直しました。


追記(2019年4月17日10時38分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

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