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白き聖女の下剋上  作者: 上村 俊貴
白雪姫(この章からが本編です)
2/49

第1節「プロローグ(1)」

 誤字脱字含め、少し手直ししました。(2019年4月9日21時05分)


追記(2019年4月17日10時30分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

「ふう……」


 休憩に入った満人は、ロッカーからスマホを取り出し、ため息とともに休憩室の椅子に腰掛ける。


(特にすることないし、これでいいか)


 程なくして満人のスマホの画面には、「リバース・デーモン(β)」と表示された。


 ロードが終わると、満人が操作するプレイヤーキャラのエドマンドが映し出される。


『今日こそ!』


 初級ダンジョン『幼子の遊び場』の入り口に立った少年は、十回負けた頃から変わらぬセリフとともにダンジョンの入り口を見つめ、気合を入れる。


(何回目だよ、まったく……)


『おーいエド!今日は何体目の魔物にやられて帰ってくんだー?』


『おいおい、そんなかわいそうなこと聞いてやんなよ、ククッ、どうせ今日も一体目だよなー? なー、エド?』


 ダンジョンの入り口にある酒場で真っ昼間から飲んでいる他の冒険者たちがどっと笑う。


『うるせー! 今日こそはこのダンジョンを攻略するんだよ! 今に見てろよ……』


 それを聞いて、酒場の冒険者たちが再び盛り上がる。


『おいおい聞いたか? 今日こそは攻略だってよー? 誰か今回が何回目の挑戦か数えてるやつはいねーか?』


『おおっ、ダンジョンに入るのは今日で記念すべき三百回目だ! 今日こそは攻略する宣言も今日で三百回目くらいだな』


 店主が帳簿を取り出し、客の質問に答えていた。店主までぐるになって、完全に酒の肴である。


 エドマンドはその様子にげんなりし、気合が削がれてしまったがダンジョンに三百回らしいの挑戦を開始した。


『まったく、何だってんだよおっさんたち。もっと若人の挑戦を応援してくれたっていいじゃねーか……』


 ぶつぶつと文句を言いながら、どんどんと進んでいくエドマンド。


 と、まあここまでが毎度の流れ。


 もう慣れたもので最初の魔物が出現する地点まで迷うことなく突き進む。


(この先なんだよなあ……。 二百九十九回も負けるとか絶対ゲームバランスおかしいと思うんだがね)


 そして問題の地点、店主のカウントによるとエドマンドが二百九十九回死んだ地点に到着した。


『出たな、魔獣!』


 小さなイノシシのような魔獣が飛び出してくる。初級ダンジョンの最も入り口に出てくるだけあって、先ほどの酒場の店主が食料として倒しにくるほどに弱い魔獣だ。


 直線的な攻撃しかしてこない上に、攻撃を受けても即死するようなことはない。そんな魔獣なので、エドマンドも当然のように……、


『ぐはっ……』


当然のように負けたのだった。


(だよね、うん、なんとなく今日も負ける気がしてた。やっぱり初回配布の強化アイテムとか使うこと前提なんだろうな)


 満人は今ままで、チュートリアルのクリア報酬でもらえる強化アイテムなどが入ったプレゼントボックスは開けずに放置している。


 いわゆる縛りプレイというやつだ。


 メニュー画面を呼び出し、プレゼント画面を表示した段階で、少し思案する。


(開けるべきか、開けざるべきか)


 実際、このままクリアすることはほぼ不可能だろう。


 しかし、ここで開けてしまえば、今まで開けずにやってきた意味がない。


(いや、いい加減開けるか)


 三百回やって勝てそうなことすらなかったのだから、もう勝てる訳がないと判断した満人は、渋々プレゼントボックスを開けることにした。


(…………)


 そして画面が固まった。


 どうやら、アイテムはストレージに移動したようだが、その演出の後から画面が遷移しなくなってしまったのだ。


(まあ、β版だからね……)


 満人は、放置して待つことにした。


(本当に長いな。再起動するか?)


 ゲームの再起動をしようか考え始めたところで、急激な睡魔が満人を襲う。


(あ、やばい、これ寝落ちするや……つ……)


 そうして、スマホをつけたまま満人は寝落ちした。



 エドマンドがやられ、意識を失ってからしばらくがたった頃何もない壁に穴が空いて一人の少女が現れる。


「おーい、少年? エドマンドくーん?」


 毎度のように呼びかけるが、全く反応がない。いつもどおり気を失っている様だ。


「何か適当に木の枝でも拾ってきて?」


 少女が魔物に呼びかけると、魔物が駆け出し木の枝を拾って帰ってくる。


「よしよし、いい子だね」


 少女は魔物から受け取った木の枝でエドマンドの頬をつつく。


「つんつん、つんつんつん」


 しかしいつもどおりエドマンドは目を覚まさない。少女は諦めたのか木の枝を放り、虚空に手を入れてワンドを取り出す。


「本当に君もこりないよねー。もうかれこれ三百回目だよ?毎日毎日懲りずにやってきては、ここでやられるの繰り返し。君の体、結構重いんだよ?」


 誰に言うでもなく文句を言ってからエドマンドへワンドを向け、その体を浮遊させる。


「まあ、魔法使うから重さはあまり関係ないんだけどね」


 少女はエドマンドを連れて、再び空いた壁の穴から中へと消えていった。



「んっ、ここは?」


 バイト先の休憩室で寝落ちしたはずの満人は、ありえない体勢で目を覚ました。


 そもそも座って寝ていたはずなのに、目が覚めると横になっていた満人の頭の下には、柔らかい感触のものがあったのだ。


 明らかなる異常事態に、満人は恐る恐る目を開く。


 目と鼻の先に少女の顔があった。


「うわっ!」


 驚いて顔を上げる満人を華麗に躱し、立ち上がった少女は満人を見返す。


「ひどいなーもう。私みたいな美少女の顔を見てうわっ! なんてー。膝枕までしてあげてたっていうのに……」


 立ち上がった少女は、自称するだけあって可愛らしい顔立ちをしていた。ぱっちりとしたサファイアブルーの瞳に輝く白銀の髪を腰のあたりまで伸ばした銀髪蒼眼の少女は、美少女と形容するのがふさわしい。


「き、君は?」


 正確な年の頃は分からないが、背格好から見て十二、三才ぐらいだろうか?


「私はステイシー、ステイシー=マレット。これからよろしくね、エドマンド君」


「どうして俺の名前を……」


(エドマンド? どうして俺のプレイヤーネームを?)


 とっさの判断で話を合わせた満人だが、その実、頭の中はパニック一歩手前である。


 眼前の少女は、少なくとも満人の記憶には無いのだが、どこかで会ったことがあるのだろうか? それになぜ満人のことをエドマンドと呼ぶのだろうか?


「そりゃ、自分の管理するダンジョンで三百回もやられたら名前くらい覚えるってー」


「ダンジョンを管理? ステイシーが?」


(いや、そもそもダンジョンってなんだよ!? そんなゲームじゃあるまいし)


 どうにか表面上は取り繕いながらも、頭の中は順調に混乱していっている満人の状態など知る由もないステイシーは、かまわず続ける。


「そうだよ、ここは私が管理するダンジョン。ていうか君、いきなり呼び捨てかい?」


 ステイシーはわざとらしく頬を膨らます。


「え、あっ、ごめん」


 自分の置かれている状況を理解することに必死な満人からすれば、極めてどうでも良かったが、何もわからない状況で、彼女を怒らせるわけにはいかない。


 満人が謝ると一転して、少女はいたずらに笑う。


「いや、別にいいんだけどね? その代わり、私もエドって呼ばせてもらうし」


 どうやらからかわれていただけらしい。


「それで、ステイシーは何者なんだ?」


「うーん、なんて言えば伝わるのかな〜?」


 可愛らしく顎に手を当て、小首を傾げるステイシーは、何か思い出したようにポンと手をうつ。


「そうだそうだ、こんな時のためのマニュアルだよね! ほいっ!」


 気の抜ける掛け声とともに、ステイシーは虚空に手を突っ込み、ゴソゴソとやって一巻きの羊皮紙を取り出す。


 年下の少女が、明らかな超常現象を行使した現実に、満人は頭を抱えたい気持ちをこらえるのに苦労した。


 薄々気がついてはいたが、どうやらここは、先ほどまで満人がいた世界とは別物らしい。


「えーと、『私たちはダンジョンの管理者です。基本的に冒険者の前に出ることはありませんが、気を失った冒険者を入り口まで運ぶ際や、自分が管理するダンジョンで三百回敗れた者の前に現れ冒険指南をする際に限り表に姿を表します』だそうです!」


「え、あ、うん。つまり何だ?」


 明らかな異世界に迷い込んだことに呆然としていた満人は、ステイシーの説明をまともに聞いていなかった。


「もうっ、自分で読んで!」


 満人は投げてよこされた羊皮紙にさっと目を通す。


(読めないな)


 目を通そうと下羊皮紙には、見たことのない文字が書き込まれていた。


(ん? 何だこれ?)


 とりあえず読んだふりだけしてごまかそうとしていた満人は、視界の端に見慣れたアイコンのようなものを見つける。


(これは、『リバース・デーモン』のメニューアイコン?)


 そう、それは、満人が寝る直前までプレイしていた『リバース・デーモン』のメニューアイコンそっくりだったのだ。


 とりあえず、押してみる。


「うわっ!」


 突然目に前に展開された各種アイコンに、満人は思わず声が出てしまう。


「どうしたの? 突然」


 声の方に視線を向けると、ステイシーが怪訝な視線をこちらに向けていた。


「いや、なんでもない、なんでもない」


(もしかして、ここは『リバース・デーモン』の世界なのか?)


 ここが『リバース・デーモン』の世界かどうか確認したかったが、これ以上ステイシーに怪しまれるのも得策ではないだろう。


 ひとまずこの世界は『リバース・デーモン』の世界であると仮定し、考えることをやめた満人は、ログの画面を開くと先ほどステイシーが読み上げてくれた部分を探すことにした。


 ログは幸い日本語で、間接的にだがマニュアルとやらの内容を理解することができたので、おそらく、メニュー関係の部分は日本語なのだろう。 


「なるほど、今回は俺がこのダンジョンで三百回倒されたからステイシーが俺の前に姿を表したと」


「そういうことだね、今日から私が君の師匠ってこと」


「師匠?」


「そう、冒険指南として、私が君の師匠になるの。安心して、ダンジョンの管理も君以外誰もやられないから、君にさえついておけば他には特にやることもないし」


 どうやら今まで満人がいたために、ステイシーは毎日仕事があったらしい。なんだか申し訳なかった。


(まあ、縛りプレイのせいなんだけどな。そういえば、最後にストレージに移動したはずのアイテムはどうなってるんだろうか?)


 件のチュートリアルクリア報酬アイテムのことは気になったが、またステイシーに怪しまれても困るので、確認は後回しにし、今までの話の中で気になったことを質問する。


「でも、どのダンジョンで三百回倒されても管理者が師匠になってくれるのか? それなら上級ダンジョンの管理者は何人いても足りなくないか?」


「管理するダンジョンのレベルで冒険指南の内容も変わるの。上級なら少し姿を見せて、的確なアドバイスをしたり、パーティの問題点と改善方法を教えたりするくらい。でもここは初級ダンジョンだから、ここで三百回も倒される人に対しては管理者が一緒に冒険することになってるの。だから私が君の師匠になるって言ったんだよ」


「なるほど、俺みたいな最弱にはアドバイス程度では生ぬるいと」


「ストレートに表現すればその通りだね」


 ステイシーは、何故かサムズアップと満面の笑みでバッサリと切り捨てる。


 不思議なことに、今までゲームの中の出来事でしかなかったことが、自分の体験のように鮮明に想起された。


「自分で言ってて死にたくなってきた……」


「ごめんごめん、でも君が最弱なのは揺るぎない事実だし……何せこのダンジョンで酒場の店主でもクリアできるんだよ?」


 なぜ追い打ちをかけるのか。満人は体育座りでいじけてしまう。


「もういいよ俺なんて……」


「ああー! ごめんってば、ね? ほんと悪かったよ。大丈夫! 私が指導すれば魔王討伐も夢じゃないよ、きっと!」


 なんとか満人を慰めるステイシー。満人が機嫌を直したのは、一時間以上たってからだった。


 実はこの時満人は、こんな美少女に慰められるなら、拗ねるのも悪くないかもしれない、などと考えていたことをステイシーは知らない。

読んでいただきありがとうございます。

ヒロイン登場(あ、ついでに主人公も登場)しましたね。

作品説明でも書きましたが、この物語の主人公は異世界転生にあたり、いわゆるチート能力はなにも手に入れていません。

じゃあ異世界転生させる意味ないんじゃ……

と思ったかもいるかもしれませんが、一応意味はあります(ネタバレになるのでこれ以上は言いませんが)。

こんなところで今回は失礼します。

明日も読んで頂けると幸いです。


追記

誤字脱字等ございましたらご指摘頂けると幸いです。こちらでも確認はしているつもりですが、やはり自分で書いた文章ということで見落としがあると思いますので、お手数ですがご協力頂けると助かります。


追記(2019年4月9日21時05分)

 誤字脱字含めいろいろ直しました。

 適当な確認のまま投稿してしまっていた事を謝罪いたします。申し訳ありませんでした。


追記(2019年4月17日10時30分)

ツイッター等で読みにくい、というご指摘をいただきましたので、一行おきに変更しました。

内容は変えておりません。

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