2-3.Cランク適正試験
かつての人狩り、クロアと
王都の魔術師、ラトリー。
二人は位置につき、組織の職員の一人が笛の合図を出す役として出てきた。
「これより、クロア・ローザリンデ殿のCランク適正試験を行います!
笛の音が鳴ると同時に試験開始です!
ルールの確認ですが、互いに持つ木の棒を相手に当てた方の勝利となります!
互いに敬意を払い、騎士道精神に沿って挑んで下さい!」
クロアの考えは一つ。
相手は自分の実力を知らない。
であればそこに付け入るのが良いだろう。
一戦目は「スピード」。
あとは魔術が如何なるものかを実際に、この目で確かめる必要がある。
…まぁそれは、後々でも構わないが。
だからこそ、笛の音だけに集中していた。
「スピード」は一発勝負。
そして―――
「では始めます! よーい…」
ピィィィィィ!!
瞬間、反応!
クロアは即座に懐から銃を取り出し!撃つ!
ダ ダ ダァン!
ラトリーの右腕と両足を狙って一発ずつ!
これで動きを止めて…
やれ…ば…
「…っは、あははは…
まさかいきなり発砲してくるなんて…
久しぶりに気骨のある奴に会えたわ…
おもしろいわね、あなた」
ラトリーは無傷。
弾丸は…ラトリーの前で、中に浮いている。
「ラトリー…これが魔術かっ…!」
「そんなあんたには折角だから、私の事を教えてあげるわ。
私は"時"の魔術師、なのよ。
その通り、時間を操ることが出来るの。
それだけ聞けば十分凄さが分かると思うのだけれど…」
「ああ…良く分かったよ… 過去の私に、是非とも教えておいて欲しいな」
「残念だけど、戻れはしないの。
結果が同じなら、戻る必要も無いでしょう?」
「なら、やり方を変えよう」
クロアは一気に駆け出し、ラトリーとの距離を詰める!
これにはラトリーも苦笑だ。
「話聞いてたかしら? もしくはそれも…計算?」
「その通り、さ」
クロアはかなり緩い軌道で、木の棒を投げた。
向かう先はラトリーの頭上。
いよいよラトリーは彼女の真意が分からなくなり
緩く向かってくる木の棒を、呆然と見てしまった。
見てしまった。
ダ ダァン!
ラトリーの左足に激痛が走る!
あまりの痛みに思わず膝を着いた!
そして同時に撃ち抜かれたのは…木の棒!
降り注ぐ木片、鋭い痛み。
利口な思考でどうのた打ち回るか、クロアは見ていた。
…しかしそれでも魔術は偉大だ。
ラトリーの僅か頭上、宙に木片は降り積もった。
木片には目も暮れず、ただ怒りに燃える目は地面を見ていた。
「…この勝負は、私の負け、かな」
クロアはそう言い、審判に自身の敗北を促した。
撃ち抜いたかと思えば降参する、突拍子な行動に
審判もたじろいでしまったが、無事
「勝者、ラトリー・フェデルス!」
ラトリーの勝利が宣告されたところで、クロアは彼女に近づいた。
ラトリーは怒り心頭だ。
「よくもやってくれたわね、あんた!」
「安心しろ、傷ならジルエールが治せるし、アンタは勝利した。
…でも悔しいよなぁ。"試合に勝って勝負に負ける"っていうのが
この状況にピッタリ過ぎて」
「何ですって!」
逆上する彼女を尻目に、クロアは彼女の耳元に近づきそっと囁いた。
「…再戦を所望しろ。
お前が真の勝利を掴むには、それしか無い…
王都の魔術師が、そんな格好で良ければ構わないが…」
この言葉を流す程の寛容さは、既に失っていた。
「いいじゃない…殺す! 殺してやるわ、クロア!
アンタは私の全力で殺してやる!」
「そうかい…
そういえば、今私は近づいたが、動きが止まる訳では無いんだな」
クロアはジルエールに促し、ラトリーの傷を治した。
意外にもラトリーは傷を治せることに少し驚いていた。
「アンタ、もしかして高位の魔術師なの?」
「いや…良く分かんない」
「何よそれ」
治療が終わり、戻るジルエールにクロアは耳打ちした。
それを聞いたジルエールは少し戸惑っていたが
頷くと元の場所へと戻った。
そしてクロアとラトリー、互いは何を言うまでも無く
自分の立ち位置に立った。
「…ちょっと、アンタ。
その木の棒どこから出してきたのよ」
「さっき撃ち抜いたのは、適当に拾ったものだからな。
私の狙いは始めから、お前の下らない自尊心を砕く為だ。
もっとも、砕けたのは足の骨だけだったな」
「あっそ」
静かな怒りを感じるラトリーに、周囲も黙り込んでいた。
そんな中でも審判は粛々と進める。
「ではこれより!クロア・ローザリンデ殿の再戦を…」
「さっさと始めなさい!」
「ハイ! では、よーい…」
二人の間で空気が張り詰める。
あまりに息苦しい空間に周囲も息を呑む。
そして、笛は―――
ピィィィィィ!!
鳴った!