2-2.傭兵になろう
クロアとジルエールは傭兵登録をする為、趣味の悪い建物を探しに行こうと―――
「あった…」
屋根はピンク、壁面は白塗りの小さな城…?
確かに目立つ。
とりあえず入ってみよう。
「ごめんくださーい」
二人が中に入ると
「…はぁい?何の用?」
と気だるい声が返ってきた。
受付には女が一人。
ワインレッドの巻髪に、聖職者らしいローブ。
多くの装飾品を身に付けているが、あまりに主張が強過ぎる。
「スティルヤードに傭兵登録したいのだが」
「あんた達この町の人間? だったら登録したって無駄よ。
こんな退屈なとこに居たって、何にも起こんないんだからぁー」
明らかに態度の悪い女だ。
「…お前はこの街の人間じゃないのか?」
「そうよ、私はあの王都の人間、ラトリー・フェデルスよ!
なのになんでこんな僻地の担当なんかになるのよ…」
「大変だねぇ…
って、とにかく、傭兵登録したいの!
この先旅にも出るんだから!」
「ふ~ん… まぁ別に良いけど」
クロアは必要事項を記入し、傭兵登録を済ませた。
「お前はいいのか? ジルエール」
「私戦いとかそういうタイプじゃないからね。
まぁ、お姫様を守るのは、従者の役目だからね!」
「ふーん…」
「じゃあ、クロア・ローザリンデね。
あんたはFランクからスタートだから。
まぁ、この町にいる限りランクアップは無理でしょうけど。
…それと、さっき旅に出るとか言ってたわね。
何処までいくつもり? 草原辺りにピクニック?」
「…"ユクトシア"までだ」
それを聞いたラトリーは大きな声で笑い出した。
「ユクトシア?! あっははは! 冗談やめてよ!
あんた達みたいなのが入れる訳ないでしょう?
あそこは魔術の総本山で、並大抵の人間が行きたくて行ける場所じゃないのよ?
それに―――
あそこはランクA以上の人間しか入れないのよ?」
「ランクを上げるのには、そんなに時間がかかるのか?」
「優秀な人間でも最低10年はかかるわね」
10年?! そんな時間費やしている暇は無い!
かくなるうえは…
「ランクを上げるためには何が必要なんだ? 今は時間が惜しい」
「こつこつ依頼を達成して貢献度を上げるか
飛び級がお望みならランク適正試験に合格するしかないわね。
まぁ適正試験で上がれるようなやつ、普通はいない…」
ドン!
クロアは急に机を叩き出し、語気を強めて言った。
「適正試験を受けさせろ。
Aだ。Aランクの試験だ」
「ば、ばっかじゃないの?!
いきなりAランクの試験なんかやったって、無理に決まって…」
「うるさい!
受けられるのか、受けられないのか、はっきり言え!」
「うるっさいわね、ったく。
…ここじゃCランクまでの適正試験しか出来ないわよ。
それ以上はもっと、都市部に行かないと無理」
「ならCランクでいい、受けさせろ」
「…へぇ、随分と自信ありそうじゃない?
いいわ、なら受けさせてあげる。Cランク適正試験。
その内容は…
私と勝負よ。
Cランク適正試験官である、私と」
「お前もCランク止まりかよ。笑わせる」
―――
…
―――クロアとジルエールはラトリーに促され外に出た。
するとラトリーは大声を上げる。
「これから新たな傭兵のCランク適正試験を行う!
部外者は離れてなさい!」
「こいつ…」
明らかだ。奴は大衆を呼び寄せようとしている。
私の敗北する姿を晒すため、なのだろう。
もしくは、何かの合図か?
「さて、クロア。勝負とは言ったけどルールは簡単。
互いにこの木の棒を持ち、この棒を相手の体に先に当てた方が勝ち。
ねぇ、簡単でしょう?」
ごっこ遊びか何か?
随分この世界の傭兵は、気が抜けているな。
「いいだろう、他にルールは?」
「無いわ。何でもあり。
この棒をただ相手の体に当てれば勝ち。それだけよ」
「分かり易くて助かる」
「ええ、おかげでバカ共が簡単に挑むようになったわ」
そう言うとラトリーは離れた地面に線を二本引いた。
「ここが最初の立ち位置で、笛の音と同時に試験開始。
私に勝てれば即、Cランクよ」
「で、ここから始めて棒を当てた方が勝ちって訳だな」
「ええ、そうよ。
もう説明はいいかしら?」
「ああ。
…アンタ、ポケットから何か出てるぞ」
「? 何も入ってないわよ…うん、入ってない」
「見間違いか」
「そんな状態で大丈夫?
何なら手加減してやってもいいけれど。
うふふ…」
不敵な笑みを浮かべるラトリー。
その表情に一切の反応を示さないクロア。
そんな二人をまじまじと見つめるジルエール。
―――ジルエールは内心分かっていた。
恐らくクロアに勝ち目は無いだろうということを。
クロアは外の世界から来た。
そして話を聞くにクロアは、魔術を使う事が出来ない。
魔力を感じ取ることすら出来ないのだ。
魔術が存在する世界で、それを生み出す能力が無いのは致命的であったが、
ジルエールは何もいう事が出来なかった。
何故と問われれば難しい。
もしかしたら勝つ要因があるから、かもしれない。
もしくは自分がこの世界に喚びよせた責任故に言いにくかったのかもしれない。
だから今は、ただ祈ることしか出来なかった。
「さぁ、位置につきなさい、クロア」
噂が噂を呼んだのか、気が付くと周囲はかなりの人数の町人が集まっていた。
魔術は底が見えない―――法則を超えた何でもありの技。
「…勝てるか…?」
まずは一手を見なければ、何も分からない…