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月の落ちる都から  作者: 秋豊
第一章 「城主と従者 ~冷たい灰の谷 イクステンキュア」
5/10

1-4.最後の城

 半ば無理やりに状況を飲み込んだ私、クロアは

元の世界へ帰るための方法を探しに世界探訪の旅へ出る事と……

え、ジルエールお前も着いてくるの


「もちろん!

 私も城の外に出たことないからさ、色んな場所に行ってみたいな!」

「まて、城の外に出たことないってことは―――」

「あー、城のことならエルドラに任せてあるから。

 ねっエルドラ、いいよね!

 ダメって言われても行くけど!」


先ほど回復の類の魔術を施されたエルドラは、もう元気なようだ。

なんて世界だ…

しかし、肉体が戻るのはまぁ分かるとして、

何故衣服も戻っている……?


「構いませんよ、私は。

 当分帰って頂かなくとも問題御座いませんよ」

「ひどーい!何その言い草!行こ、クロア!」

「いやそうじゃなくて、城の外のことは何も知らないのか?

 ある程度見当の付きそうな場所とか……」


「ないよ」

「……」


なんということか、箱入り、ひいては城入りの娘というのは

こうまで常識を裏切ってくれるのか。

そこへエルドラが助け船を出してくれた。


「魔術創始の都と呼ばれる国、"ユクトシア"を目指してみては如何でしょうか。

 あそこは魔術の研究も進んでいるといいますし」


「それは期待出来そうだ。

 ……なぁエルドラ、お前が来てくれた方が良いような気がするんだが?」

「大丈夫だって!

 私がいた方が何かと便利だよ? 魔術も一杯覚えてるし、頼りになるって!

 それにほら、ガールズトークとか、ねっ?」

「じゃあ一個話してみてくれ、ガールズトーク」

「えっ?」


ジルエールは少しの間小難しい顔をした後

「……寒い日って、あのー、ベッドから出たくないよね」


これがこの世界のガールズトークなのか、

常識を超えた存在を前に、私は判断が出来なかった。


「……とりあえずその"ユクトシア"という国を目指そう。

 地図は…無いよな」

「地図はありませんが、城を出て南東の方角、

 谷を越えていけば"メルヴィーユ"という国に辿るはずです。

 そこで情報を収集するのがよいかと。

 何分この国は閉鎖空間のようなもので、人も寄りませんから」

「人も寄らないのにどうやって生活を?」

「食物図鑑がありますから、その点は心配無用です。

 ああ、食物図鑑とは名の通り様々な食べ物が記された図鑑で、

 そこから材料を取り出して調理するのです」

「……? 取り出す? それも魔術の成せる業なのか」

「ええ、理解が早くて助かります」


 いや理解……うん、まぁいい。直に慣れよう。


「……じゃあ準備をして早速"メルヴィーユ"を目指すこととするか」

一応の目的が決まったクロアだったが、常識外の存在が水を差した。


「あー……それなんだけどね。実は門が開かないんだよね、これが」

「他に外に出れる場所は?」

「ありません!」

「ふざけるな! 何で…何でそんな大事なことを早く言わない!

 大体"魔術"があるんだから何とか出来るだろうが! というか何とかしろ!」

「クロア様、御安心下さい。書庫から外へ抜ける隠し通路が御座います」

「やっぱりお前が救いだ、エルドラ。是非共に旅をして欲しい」

「私が行くのーー!!」

―――……




 三人は城の書庫へと移動し、エルドラが書庫の仕掛けを動かし始めた。

本棚の本を次々と入れ替えていくと、何と本棚はパズルの様に動き出し、

明らかに人為的に作られた通路が現れた。

ジルエールは思いもよらず大はしゃぎだ。


「すげぇーー!

 ……それにしてもいつ通路があるなんて分かったの?

 それと何で教えてくれなかったの?」

「私も気付いたのはふとした時でした。

 この書庫の本は全て重さが違うのです。そして本棚毎に決まった重量が掛かると

 こうして動き出すようです。

 仕掛けとしては、いまいちな気はしますが」

「これだけの数……よく気が付いたものだな」

「時間は有り余っておりましたので。

 それと……ジルエール様にお教えしなかったのは、

 外に出れると知れば帰ってこなくなるだろう、と思いまして」

「そんなに私わんぱくだった? いやまぁ強くは否定出来ないけど……」

「そうでしたよ。思えば……」


それからジルエールとエルドラは、この城で過ごした日々を

再度確認するように思い出しては、あんなこともあったね、と

談笑した。



―――二人があらかた話し尽くした後、空気に僅か、間が出来た。

……まぁそうだろう。


「……ジルエール、一度だけ聞く。

 この通路を行けばお前は城を離れ、全く知らない領域へ踏み入れる事になる。

 それは私も同じではあるが……

 覚悟は出来ているな?」

「……うん」


手が震えていた。瞳は潤んでいた。

仕方が無い、と私はジルエールの手を取り、最後にエルドラに別れだけ言った。


「いつか戻って来たときには、土産話でもさせてくれ」

「……その際は是非、正門も開けていただけると助かります」

「ふふ……エルドラの癖に生意気だなぁ……

 ねぇ、エルドラ」

「はい、何で御座いましょう」


「…必ず…戻ってくるから」

「……承知致しました」



―――二人は見送られながら、暗い通路を進んでいった。

手は離さないよう強く握り、互いを見失わないよう、色んな他愛無い話をした。

徐々に光は大きくなり、それに比例するように、速度と鼓動は駆けて行った。

そして彼女たちは遂に―――




冷たい灰に、最初の足跡を刻んだのだ。


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