1-3.城主と従者
クロアは現状を考えた。
(こいつが目標と関わりのある人間という確証がない……
辻褄を合わせるとしても、かなり無理がありそうだ……
これは非常にまずいかもしれない…)
―――人狩りは殺しの許可すら得るものの、
それはあくまで、世に害を成す者だけが対象だ。
それが無関係の、それも善良な市民だとしたら、人狩りと言えど処刑は免れない。
過去に何度も教えられてきたことだ。
にも関わらず、一時の感情で…
(仕方ない、とにかく死体は速やかに処理し、所在も行方不明という体で…)
この思考に至るまで30秒程費やしたか、その間クロアは目を瞑っていた。
落ち着いていたといえ、息は上がり興奮状態にあったクロアにとって、
この30秒間はあまりに無防備だった。
足音にも気付かないとは。
「―――っ!」
目を開けた時、目の前には恐ろしい光景があった。
人が歩いている。
しかも血に塗れ、体のいくつかはまだ、欠損しているような……
「……あぁ…エルドラ……私のせいで…こんな……ことに…」
(間違いない、ついさっき死体と成り果てた筈の人間が、何故?!)
クロアは常軌を逸した光景に恐れを感じたが、それを隠し歩み寄る。
「お悔やみのところ申し訳ないが、お前には様々聞きたいことがある。
……尋問と思ってくれていい」
悟られないよう語気を強めて言うが、距離は取る。
襲い掛かってきた時には、迎撃するまでだ。
しかし、今までのように通用するのか?
すでに常識で証明出来ない現象を、目の当たりにしているのに?
そんな緊張とは裏腹に、ジルエールは静かに問いかけてきた。
「あなたはどうして……急に襲いかかったのですか?」
「私は"人狩り"だ。目標を追ってきたのはいいが、目前で光に目をやられてな。
その際に、その……まぁ、取り違えたという訳だ、命を」
最後の言葉は余計だったか。
ジルエールは、尚も静かに語りかける。
「"人狩り"……そうですか、あなたの世界では、それが役目だったのですね」
「それだ!お前は先程も似たようなことを言っていた!違う世界?だとか!
それにお前のその体は何なんだ?再生、と言っていいのかしらないが、
何故死んでいない?」
「一つずつ説明させて下さい……
今あなたは混乱してしまっているようですから……
……お腹は空いていませんか?簡単に食事を取りながらにしましょう。」
クロアは少しムっとしたが、とりあえず話を聞くことにした。
―――食事をしながら、ジルエールから自身の境遇や
この世界について知っていることについて聞いた。
自分はどうやら、元いた世界からこの違う世界へ召喚されたらしい。
そしてここは冷たい灰の降る谷、イクステンキュア。
彼女はジルエールといい、不死と細胞の何かの呪いをかけられているらしい。
また、この城に住む以前の記憶が無いのだとか。
最後に問題なのは、この世界には"魔力"や"魔術"が存在しており、
ジルエールの呪いも、私の境遇もその類であるという。
そうなると、今までの自分の常識は全て通用しなくなってしまう。
特に戦闘においてだ。
……後はジルエールの口調が途中から砕けて、
砕け過ぎてきたのが気になったくらいか。
その他にも色々聞いたが、まぁ追々理解すればいいだろう。
「…ここまで簡単に説明したけど、何か質問とかある?」
「整理してからまた聞くことにする。
それと…私が聞くのもなんだが、お前は平気なのか?
その、従者を殺されてしまって」
「大丈夫だよ。魂が離れていなければ、蘇生出来るし」
(その死生観がこの世界では普通なのか?
相当危ない世界だ…)
「それと、私のことはジルエールって呼んでよ。
せっかく出会えたんだからさ!」
「そうか、じゃあジルエール、私を元の世界へ戻してくれ」
「あっ、それは出来ないよ。だって召喚魔術は一過性のものだから。
出来ても全然知らない世界に飛んじゃうかもよ?」
「……何なんだお前のとこの魔術ってのは?
何でも出来る便利なやつじゃないのか?」
「いやだって、私も退屈しのぎで喚んだだけだし……
一人くらいいいかなぁ~、って軽い気持ちだったし……」
「じゃあ私は元の世界へ帰ることは出来ないのか?」
「そうとも限らないよ。この世界には凄い数の魔術があって、
今でも新しい魔術が編み出されたり、逆に忘れられていく魔術もあるから、
もしかすると、目的の世界に帰る魔術もあるかもしれない」
「……それはかなり時間を労するんじゃないか?
最悪それを探している最中に死ぬ可能性も……」
「大丈夫だって! 私それなりに魔術の扱いは上手いからさ!
それじゃあ…
クロアを元の世界へ戻すため、世界探訪の旅に出よう!
おー!
」
「は?」
クロアは静かにキレた。