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月の落ちる都から  作者: 秋豊
第一章 「城主と従者 ~冷たい灰の谷 イクステンキュア」
3/10

1-2.人の気も知らないで

 眩い光の中から現れた者は血に塗れ、

その足元には、首を切られ血を流すエルドラがいた。


ジルエールは突然の異様な光景を目の当たりにし、ただ震えていた。

喚ばれた者は辺りを見回し、ジルエールに問いかける。


「……違う、こいつではない! ここは何処だ!? 奴は何処にいった!」


ジルエールはそれに素直に答えてしまった。


「っこ、ここはイクステンキュア、そこの廃城で、

 わ、私がぞうしゅ(城主)のジルエールだ、…です。

 その、あの、貴方がここに来たのは―――」


すると喚ばれた者は


「イクス……何? 廃城? そんな事はどうでもいい!

 奴は……クソ野郎は!」


ここから二人の問答が続く。


「あ、あの、その、探している方は存じないのですが、

 恐らく、あなただけがこっちに召喚されて、

 恐らくその、探している方は、ここにはいない、です」

「いない? どういうことだ? それとお前は誰だ?

 ……どこまで知っている?」

「私はジルエール、私の従者があなたを呼び寄せてしまった為に

 あなたが本来の世界とは違う、この世界に召喚されてしまった、という事です。

 なので、あなたの探している方はこっちの世界にはいない、でしょう」

「この世界だの召喚だのと、さっきから何を言って……そうか」


 (―――まずい。今の納得は絶対に誤解されている……!)


 瞬間、喚ばれた者はジルエールへと距離を詰める!

ジルエールは、何とか誤解を解こうと言葉を投げかけるが、もはや届かない。

慌てふためくジルエールを尻目に、喚ばれた者は凄まじい速度で詰め寄る!


 ―――彼女、喚ばれた者の名はクロア。

元の世界にいた頃は「人狩り」として、街にはびこる害悪達を殺し尽くしていた。

決して光は当てられず、常に暗い影に潜み手を汚してきた。

それが自分に与えられた役割だと信じて。

だからこそ、これも仕事であり、今までも、これからも、そうするのだろう。


   ズゥブシャァァ!


 クロアは距離を詰めると飛び掛り、自前の直剣でジルエールの心臓を貫き、

辺り一面は噴出す血ばかりで濃い赤に染まった。


「もういい、私の手で探し出す。

 クソ共が……いい気になるなよ……」


剣を引き抜き、倒れるジルエールには目もくれず立ち去ろうとした。

―――その時


「……がぁっ! はぁ……あぁ、待って…くださ……い」


(確かに心臓を貫いた! 感触は間違いない!

 なのに……なのに!―――)


流石のクロアもこの事態には動揺していた。


「……どういうことだ……?お前……生きているのか?」

「私は死なない……死ねないのです……そういう呪いを…かけられているのです」


 ジルエールの言葉に間違いは無かった。現にこうして生きているのだから、

全く持って正しい事を言ったのだ。

 しかし、正しく伝わらなかったのが問題だった。


 クロアはこの発言を、仕留め損ねた自分へ対する嘲笑と捉えてしまった!


実際、魔力の存在も境遇も理解出来ておらず、

あまつさえ憎い相手を追っている身で、その言葉を飲み込むのも難儀なものだが。


クロアは激昂し、再度ジルエールへ突っ込んでいった!

ジルエールも不死とはいえ、心臓に負ったダメージは大きく、

立ち上がるだけで精一杯だった。

クロアはそんな彼女を勢いで押し倒し、マウントポジションを取れば―――



「おおおおおおあああああああああっっっ!!!」



怒りに身を任せ、剣をひたすらに突き刺していった。


「お前らっ…みたいな!…クソ…ゴミクズ!…がっ!…この、私に!…

 楯突く…こと…自体が!…んぅ…クソ!クソ!クソ!…この…ゴミ!…野郎がっ!」

二度三度では済まない、何度も何度も何度も何度も…




―――声は枯れ、握力も尽き、やがて怒りが虚しさに変わった頃、

ようやくクロアは冷静を取り戻した。


「……はぁっ、はぁっ…流石に…やり過ぎたか……まぁいい」


 ジルエールの肉体は元の形が分からなくなる程になっていた。

覚束ない足元で立ち上がったクロアは、少しふらつきながら歩いた後、

小さな腰掛に座り状況を考えた。


「……やっぱりまずいかもしれない」


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