1-1.退屈な城主
冷たい灰の静かに降る谷。
そこに残された廃城に住む主は、今日もただ過ぎる時間に退屈していた。
そんな時はいつも、従者に難題を与えては、奮闘する姿を見て悦に浸るのだ。
「あぁー、相変わらず暇……書庫の本もあらかた読み倒しちゃったし……
そうだ、エルドラー!エルドラー!」
すると渋々とした表情で従者は現れた。
「はいはい、私は相変わらず忙しいで御座いますよ、ジルエール様」
「エルドラ、何かおもしろいもの出して! もしくは何か本貰ってきて!」
この廃城に住む主、ジルエールと従者エルドラは、
数年前からこの城に住んでいる。それ以前については記憶が無い。
住むというよりは囚われの身のようなもので、
正門の扉は灰が降り積もり、窓は全て埋められてしまっていた。
始めこそ外へ出ようと尽力したが、この地に降る灰のおかげで
魔力は僅かしか生まれず、遂に諦めることとなり、
それ以降、外に出るという発想もなくなってしまった。
しかし、いかに囚われとはいえ、娯楽は欲しいもので、
エルドラはジルエールの戯れに付き合う事にした。
「お暇、ですからね。
ではここで恥ずかしながら、ジルエール様のご要望にお応えして……
私が先日、書庫の魔導書から見出した<魔術>を、披露させて頂きましょう」
「お? いいねぇ。いつもは乗り気じゃないのに」
「ええ、正直なところ、意に介しませんが……
まぁいいでしょう。では特とご覧下さい。これが……
―――<世界中の片鱗>!」
エルドラが精神を集中させたかと思えばどうだろう、
辺り一面に魔力のうねりが生まれ、
それは次第に加速し、肥大し、空間が捻じ曲がっていく!
「すごい……すごいぞ、エルドラ!やれば出来るじゃないか!」
「はぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
気合の入った雄叫びを上げると、うねりは一点に集中し
そこから眩い光が溢れたかと思えば…
ズシャアァア!!
ジルエールには鈍い音が聞こえ、光が収まるとそこには、
―――1人の、喚ばれた者が、血に塗れた姿で立っていた。