5話「戦争」
この世界には多くの生物がいる。だが、人間のように文明を持った者はいない。
それは間違いだ。
人類が気が付かないだけで、人間と同等、あるいはそれ以上の力を持った生物がいる。
人類が足を踏み入れたことのない秘境の地にそれは暮らしていた。
エルフ・ドワーフ・リザードマン・ドラゴン、その他にもたくさんの種族がそこにいた。
みな、ファンタジーの世界でしかいない、伝説上の生物達だ。
だが、伝説と言われた生物達は実在しており、人間の届かぬ所で生きていたのだ。
その他種族の暮らす世界で皆をまとめ上げていたのが、『精霊族』であった。
『精霊族』には、それぞれ火・水・木・風・土の属性があり、属性の頂点に立つ者達を最上位精霊と呼んだ。
ある日、最上位精霊達が集まり、400年ぶりの『全属性精霊会議』が行われた。それは、これから他種族の存亡に関わることであった。
他種族達は人類の発展に伴い、自然の減少によって住みかを失いつつあった。
このままでは我々が滅ぶと考えた『精霊族』達は、二つの提案を出した。
人類に戦いを仕掛け、かつての栄光を取り戻そうと考える『過激派』。
人類と共に生きて行こうと考える『共存派』。
『過激派』には最上位火精霊、最上位水精霊が賛同した。
『共存派』は最上位木精霊と最上位土精霊がついた。
最上位風精霊はどちらにもつかず、『中立派』として立ち回っていた。
『過激派』の意見は、かつて我々の祖先が創った自然を自分の利益のためにしか使わない人類を抹殺し、新たな世界を創り出すことであった。
『共存派』は、人類の技術には我々にないものがあり、自分達の技術を会わせることで、人類と他種族の双方が発展すると考えていた。
双方の派閥の意見が平行する中、それは起こった。
会議に一人の人間が迷い込んできたのだ。
本来、この場所にはいくつもの魔法がかけられており、人間に見つからないどころか、侵入することすら出来ない。
しかし、運がいいのか悪いのか、この人間は偶然にも魔法の隙間をくぐり抜けて、この場所へ来てしまったのだ。
『過激派』は記憶を無くさせてこの場所から逃がすかこの場で抹殺しようと言うが、それを最上位木精霊の一人がある提案を出して止めたのだ。
それはこの迷い込んだ人間を、人類と精霊族を繋ぐメッセンジャーにすることであった。
『共存派』の彼は人類と接触することを考えたのだ。
当然、『過激派』からは反対された。危険が高い。何をされるかわからない。
だが、彼は提案を下げる気はなかった。この先どちらにしろ、人類とは接触することになると、考えられたからだ。
その後、3日後また会議を開くことになり、その提案は持ち越された。
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迷い込んだ人間は立花 新と名乗った。
新は見たことのない景色と他種族達に驚いたものの、1日経てばすぐになれた。
周りのエルフやドワーフ、ドラゴンまでもが、新を歓迎した。他の者達も彼のことで興味津々のようで、新の1日目は他種族達との歓迎会で大いに賑わった。
3日後、新は自らメッセンジャーになりたいと志願してきた。
彼曰く、人類と多種族が共に生きる世界を作りたいと、ここに来てから思うようになっていた。
『過激派』も少し落ち着き、ダメ元でもやってみようということになった。
そして、新と最上位精霊の代表の一人と共に人間界へと向かった。
最初の人類と精霊族の接触は、新の住む日本であった。
当然ながら最初は全然信じてもらえなかった。だが、魔法と精霊族の特徴を見せることで、やっと信じてもらえた。
このことは、最高機密とされ、一般人に知られることはなかったが、新と最上位木精霊は確かな一歩を感じていた。
その後、各国のトップにこの接触は知らされ、他種族との交流について話されるようになった。勿論、限られた人間のみに情報は共有された。
交渉は2ヶ月続き、そしてやっと交流の準備が整ったとの連絡が入った。
そして選ばれた50名を人間界へ行かせる日がやってきた。
人類側に連絡はしなかったが、護衛として最上位木精霊の一人もついていた。
全ては順調に進んでいた。裏切られるその時までは・・・
他種族達を出迎えたのは、完全武装した人間達であった。
人類側は最初から交流する気などなかった。更なる力を求めた日本の上層部は、他種族の持つ能力と魔法に目を付けた。
他種族に武器は持たせておらず、捕獲は容易いと考えていた。
裏切られたと理解した最上位木精霊は武装兵と戦闘になった。しかし、全て致命傷は避けて攻撃し、武装兵を無力化していった。
だが、一人の武装兵が麻酔弾を実弾に変え、最上位木精霊に向けて撃ったのだ。
けれど、放たれた弾丸は吸い込まれるように最上位木精霊に向かうも当たることはなかった。
新が身を呈して彼と他種族を守ったからだ。
新はその場で息を引き取った。
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50名の他種族と最上位木精霊はなんとか逃げ切れた。
しかし、他種族達には人間への不信感と恐怖がはっきりと刻まれた。
人間を信じていた最上位木精霊にとって、これ以上の裏切りはなかった。
『共存派』は一転し、最上位木精霊達は『過激派』に賛同するようになり、人間は同族であろうと殺す野蛮な種族として、全属性精霊達は人類抹殺作戦を開始した。
後にこの人類と他種族の戦争は『人類他種族大戦』と呼ばれた。
人類歴史2150年、各国の主要都市を最上位精霊達は襲撃した。
襲撃先は軍事施設であったにもかかわらず、一般人にも多くの被害が出た。
そのため上層部が秘匿していた他種族の存在が一般人に上層部のした事と共に知れ渡ったのである。
人類側は持てる科学を結集し、他種族と全面対決することを決めた。
対する他種族側は最上位木精霊達をリーダー中立とした全精霊で結成された『精霊連合』を各地に送った。
人類側の兵は各国合わせおよそ370000000人に対して、精霊連合側はおよそ50000の兵力だった。
圧倒的な兵力と科学で人類側の勝利は確実だと思われた。
しかし、戦局は圧倒的に精霊連合側が有利であった。
精霊達の使う魔法が人類の科学を圧倒し、その差はみるみると開いていった。
人類側の被害が増す中、精霊側の被害は最小限であり、数で勝る人類の勝利は程遠いものへと変わっていった。
各国が敗れる中、残った人間は未だ前線を保っている日本に集まりつつあった。
戦場は日本本土のネオ東京へと移った。戦闘はさらに激しさを増していく。
日本国防軍と精霊連合の血で血を洗う戦いが各地で繰り返された。
さらに、『共存派』の一部が反乱を起こし、国防軍と精霊連合の双方に戦いを仕掛け、戦闘は泥沼と化した。
両者の戦闘を止めたのは、大地の怒りであった。
この星には『龍脈』と呼ばれる不思議なエネルギーの流れがある。普段は見ることはできないが、潮の満ち引きのように力が変化する。本来は傷付いた体を癒す効果がある。
しかし、その日は違った。
突如、龍脈から莫大なエネルギーが溢れ出たのだ。つまりは暴走であった。
暴走したエネルギーは、国防軍と精霊連合の戦闘の最前線を呑み込んだ。本来の癒しの効果ではなく、触れた者の命を吸い取っていくという真逆の効果が発動し、最前線の人間達も精霊達の命を奪っていった。
さらに龍脈の暴走は大地にも影響を与えた。もう、かつての世界地図が変わってしまったほど、大陸の形がおかしくなった。
その後、暴走は治まり龍脈は本来の姿へと戻っていった。
だが、国防軍側の兵はほぼ全滅。精霊連合側は全滅まではいかなかったものの甚大な被害をおった。
その後、残った兵で宇宙エレベーターの『セントラル・タワー』を制圧。精霊連合側の勝利で幕を下ろした。
その後、最上位水精霊の記憶操作によって、人類全てから核に関する全ての記憶と情報を消去した。
しかし、残った人類側は残った科学を結集させ、新たな国家を設立した。精霊達は傷付いた者達が多く、もはや建国を止める力も残っていなかった。
しかし、龍脈の暴走が与えた影響はまだあった。
戦争が終わった一週間後、精霊達の中で異変が起こった。
精霊達の本来の力が失われつつあったのだ。中でも一際酷かったのは、最前線で戦っていた男性の最上位木精霊達であった。
美しい緑の髪の色が落ちて、真っ白になった。そして、全ての男性の最上位木精霊達は最上位精霊としての力を失い、絶滅してしまった。
さらに、精霊族に治まらず人間と他種族にも影響を与えた。
奇形な者が産まれたり、魔法を全く使えない者が出てきたのだ。人間側には魔法の使える者が現れ始めた。
この現象は後に『龍脈病』と言われ、今もなお、呪いのように人間と他種族を苦しめ続けている。
そしてもう一つ、龍脈の暴走は化け物を生み出した。
龍脈の暴走によって亡くなった精霊と人間の兵士と機械が化け物になって蘇ったのだ。
知能を持たないただの化け物、機械に生命が宿り、人のように動き出した。
これらは『魔物』と呼ばれ、大量発生したが、最上位火精霊と最上位水精霊によって駆除され、今は治まったけども、この森などに潜んでいる。
それから、最前線であったネオ東京は自然に覆われた。
龍脈のエネルギーが安定したことにより、自然の力が増幅しネオ東京を木々が包み込み、短期間でこの大森林を作り出したのだ。
現在は、五つに別れた新大陸をそれぞれの精霊族が主体となって他種族達の国を建て、平和に暮らしているものの、人間と精霊と他種族の溝は深いまま、すでに4年が経った。