8話「日常」
あれから三日たった。
この生活にもずいぶん慣れた。むしろ、人間の時よりも規則正しい生活が送れている。
午前5時、起床し胴着に着替える。この胴着も、例の場所から拝借した。幻龍を持ち洞窟を出て素振りを始める。
二日酔いの次の日から朝の日課にしている。200回した後、リトビの作る朝食を頂き、いつもの修行場へ向かう。
午前8時、いつもの修行場に着きリトビとの修行が始まる。
初日とは違ってリトビの『限無覇道流拳法』の修行にをしている。
相変わらず、試合型の修行であるが、全く攻撃は当たらない。
だが、
「二日で儂に人差し指を使わせるとは、なかなか筋がいいようじゃの~リーフ。」
リトビは余裕そうに言うものの、リーフは全く実感が湧かない。ただ、リトビのかつての一番弟子はマスターするのに約3年かかったらしい。それに比べるとリーフは断然覚えがいいのだが、本人はわかっていない。
リトビの『限無覇道流拳法』は、人間の多数の武術を取り入れた、リトビのオリジナルの武術である。勿論、人間にも扱えるが、他種族の身体能力に合わせた武術であるため非常に難しい。技の中には他種族の特性を生かした物も多々ある。
ちなみに、一番弟子は人間でありながら全ての技をマスターしており、今はどうしているのかわかっていない。国外追放されたリトビは確認することもできない。
だが、リトビは「あやつなら大丈夫じゃろ。」と信じている。
そのまま修行を続け、攻撃を繰り出すものの、指で防がれる、避けられるだけで、当たることなく、リトビの試合は終わる。
その後は、座禅、滝行などの精神を鍛える修行を行い。昼食と共にグランと交代になる。
午後12時、グランと軽い昼食を頂く。持ってくるのは決まっておむすびとたくあんである。米は離れた所に田んぼを作っており、たくあんは洞窟の奥で保管しているものだ。
リーフは食事中に気になっていることがある。
グランはいつも鎧を着たままで、素顔を一度も見たことがないのだ。
そもそも、グランのことをリーフはあまり知らない。種族、素顔、ここにいる理由、聞いてもグランははっきり答えることが少ないからだ。
現在、グランの情報はこんなところである。
・武器を作る。
・鎧を常時纏っている。
・大抵の武器を扱える。
・酒好き。
だから、昼食はグランの情報を知る良い時間であった。
「そういえば、グランは料理しないのか?」
リーフは何気ない質問をぶつける。だが、その質問にグランの雰囲気が変わる。とても申し訳ない感じに。
「・・・ああ、作った事はある。けどな、それでリトビが死にかけてから、俺は料理を止めた。」
何気なく聞いたらすごい空気が重くなった。
道理でグランは調理場に近づかず、リトビは近づけさせなかった訳だ。
グランのプロフィールに『料理作り壊滅的』の情報が、新たに加われた。
そのまま、午後の修行が開始される。
午後2時、リトビとは違いグランの修行は多様の武器の扱い方である。
グランはあらゆる武器を作ることが出来る。デザインから材料まで全て自分で行わないと気が済まない性格から、武器の研究を続けている内に付いた二つ名が『鍛錬神』と言われていたとリトビから聞いた。もっとも、戦闘の際に巨大なハンマーを使って戦う姿から、そのあだ名が付いたとの説が有名であるらしい。
本当にそんな存在が何故このような所に住んでいるのだろうか。いまだに謎のままだ。
今回はハルバードであった。
リーフの背丈よりも15センチほど長く、質量も重い。けれど、振れない訳ではない。
グランは扱い方を丁寧に教える。その武器に合った動き方、特性、使う際の癖を的確に指摘し、アドバイスをする。
お蔭で短時間でマスターする事が出来た。この調子ならここにある武器全てを完璧に扱うことが出来だろうとグランは予想している。
その後、さらに磨きをかけて修行は終わった。
午後4時、この時間はフリーになる。
夕食まで時間があるため、リーフはある場所へ向かう。
そこは、リーフの作った自主トレ場である。ここでリーフは時間を潰す。
メニューとしては、主に筋トレと触手の強化を重点的にしている。
触手は木精霊族の身体能力に比例し、強くなれる。
それを知ったリーフは、早速実践し始めたのだ。
手首と足首、背中と腰にそれぞれグランに作ってもらった重しを着ける。
この重しは、オリハルコンで出来ており、かなりの重量となっている。自身の体重も合わせると、総重量200キログラム近くになる。
ファンタジーかゲームでしか聞いた事のなかった金属などが、現実に存在する事に最初は驚いたが、今は気にせず活用している。
よくよく考えれば、世界が大きく変わってしまい、今までの常識なぞ通用するはずなどないと考えると、自然と驚く事を忘れていった。
そして、自主トレを始める。
腕立て伏せ、体感、懸垂、技の型、素振り、足を縛り宙吊り状態で腹筋、それぞれを触手も交えながらこなしていく。
最終的にその日の体力を全て使い果たして、二人の所へ帰路に着く。
洞窟に着き、奥の空間へと向かう。
チョロチョロと、水の流れる音がする空間にたどり着いたリーフは、蝋燭に火を着ける。周りが明るく照らされる。
洞窟の天井から水が流れ出ている。
グランが洞窟を掘り進める際に、水脈に当たり涌き出てきたのだ。大変澄んだ水であるため、普段から飲水として利用しているなくてはならない場所だ。
リーフは、持っていた布を湿らせ、体を拭く。
残念ながら、ここでは風呂に入る事などできる訳がない。
元日本人として、風呂に浸かりたいと思う気持ちを抑えて、汗と汚れを拭く。
その後、三人揃って晩飯を頂きながら、この世界について、更に二人に聞く。今回は、今自分たちのいる大陸について話してくれた。
大きな五つに別れた大陸は、それぞれの精霊が統治する事になった。
この大陸は木精霊族の支配している『プラン』。ただし、男の最上位木精霊は絶滅したため、現在頂点に立つのは上位木精霊である。
『プラン』は大きな都市が五つある。北の『シリス』、南の『ヴェール』、西の、『トレン』、東の『スレセ』、そして中央の『オーバード』、それぞれの上位木精霊が統治している。
中央都『オーバード』には、『神聖樹』と言われる巨大な木が生えており、その下で他種族達は暮らしている。
『オーバード』の周りは神聖樹の根で囲まれており、それが壁の役割は果たしているため、防衛面でも万全である。
食事が終わり、食器を片付け寝巻きに着替え、リーフは部屋に行く。グランがリーフの来た翌日に、洞窟の一部を掘り進め作ってくれた部屋である。
部屋で少しゆっくりすると、毛布にくるまる。
ふと、考える。
小林 陸道であることを完全に捨てた訳ではないが、自分は新たな人生を謳歌している。完全に陸道の記憶がなくなった時、自分はどうなるのか。
いくら考えても、答えはその時にならなければわからない。
・・・止めよう、このままでは寝れない。明日も修行だ、早く寝てしっかり体力を回復させなければ。
リーフの意識は、深く沈んでゆく。
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まだ、戦場の匂いが漂う森の中を駆ける。
振り返れば、無数の足音が迫って来る。このままでは、じきに追いつかれる。
しかし、捕まるわけにはいかない。
後ろに向けて、マシンガンを撃ちまくる。いくつかが追跡者に当たるが、まだ迫って来る。
引きちぎれた腕の痛みを庇いながらまた駆け出す。
彼は一体誰なのだろうか?




