千葉〜四国の旅物語
旅は素晴らしい。電車、飛行機、車など交通手段は様々だ。今回は愛車のアルファロメオスパイダーヴェローチェで四国へと行く旅を計画した。
日本の皆様にアルファ115を見てもらいたい、そう〈見せつけ行為の旅〉を決行したのである。
自由気ままに、優雅な旅を、そしてアルファ115を知ってもらうための旅を…。
ただひたすら海岸線を走り、行ったことのない四国へと向かったのである。
[前編]
私たちの旅の日程は8日間ほど。9月終わりから10月初めにかけて旅をしようと、今年に入ってから着々と予定をたてていた。
行き先は・・・どこにする?
旅の事を考えていると、ワクワクする。あそこに行ってみたいなぁ、あ!やっぱ今回はここがいい。などと100均で買った地図をみながら、私は一人で興奮状態に陥っている。
旅はいつも夫婦2人旅。たまーにわたし1人旅もあるが、やはりなんだか申し訳ない気持ちになる。旅好きで行動派のダンナをおいていくには…
さて、行先はどこにしよう? 2015年に入って1月、日々旅先のことばかり考えていた。10月初めなら北海道はどうかな~、いやいや、やっぱ南国沖縄だよなぁ。うーん、離島・・・そうだ!小笠原諸島はどう!?
一週間以上ある旅行だと、どうしても遠くの地へと行きたくなる。そりゃそうだよね~、なかなか行けないとこへ行くのが、長期の旅の目的なんですから。
でも今回の旅計画には、海外に行こうとはまったく考えていなかった。
日本を巡る旅、海岸沿いを走行する旅。そう!わたし達の愛車アルファロメオスパイダーヴェローチェで旅をする。これが今回の旅の目的なのである!アルファ115で走って、走って、走りまくる。日本の皆様に見せつけ行為をしに行く。これがわたし達夫婦の旅目的であーる。
で、行先は・・・。なんだかんだ考えてはいるが、結局はなっから決まっている。前々から絶対に行きたいと思っていた。
「では、四国に決まりー!」
〜荷物は少なめ、服も2日分〜
ツーシート、オープンカー。やはりカッコイイ。
ほんとに・・・カッコイイ。・・・カッコイイ・・・
わたし達はドライブが好き。休日ともなれば殆ど家にはいない、かも。とにかく何かに束縛されない日は「よーし、いつ死ぬかわからない!生きてるうちに楽しもう! さ〜て、どこいく?」ダンナの一声が元気よく響きわたる。 私もアウトドア派。夫婦の意見は一致団結。
「よっしゃー!仕方ない、そこまで言うなら行くっきゃないワケね」
子供のいない中高年夫婦の日常会話。なんていったらよいのか・・・。
今までも随分とあっちこっちドライブに行った。行った先が魅力的だと「泊まっちゃう?」なんて、かる〜いノリでその町の宿探しが始まる。泊まる準備なんかできてないし、服も下着ももちろんない。でも、これがオモシロイとこ。
突然の一泊旅が始まるなんてコトは、ザラかしら。
愛車アルファ115で行動するようになってからは、なるべくモノをのせないようにしている。のせないというより、のらない。
ツーシートなもんで仕方ない。トランクも高さがない。
あれやこれや乗用車と同じに考えてもよくないのはわかっている。オープンカーとはシンプルに乗りこなす!やはりこれだ。
みなさまからカッコイイ〜の歓喜の声があがれば、それで十分だ。
さて、旅の出発が迫ってきた9月後半。ルートは100均の地図でさんざん確認した。アルファ115も点検にだし、無事我が家にかえってきた。愛車で流す曲もUSB2つ分ある。結構な曲の量だ。
あとは・・・身につけるもの。服やら洗面用具やら、肝心な身支度がまだである。
出発2日前にカバンを用意。入れるものは服、下着、日常品、旅先の本、あとはカメラと・・・。
カバンの大きさはふつうサイズ。2泊分くらい入れられる程度の大きさ。これをわたしとダンナで各1袋ずつ用意した。8日間の旅にしては小さくないかい?いえいえ、これで十分なのです。
「おれパンツと服、2着くらいでいいかな。夜洗えばいいしさっ。かーちゃんは女性だから、もうちょっと持っていくでしょ?」
ダンナはわたしを<かーちゃん>と呼ぶ。恥ずかしい・・・。
「ん?アタシも2着くらいしか持ってかないよ。荷物は少ないほうがいいでしょ」
「・・・・・・」
ダンナのキョトンとした顔、いつ見てもおもしろい。最近わたしは旅行だからといってオシャレをしようとは思わない。汗をかいたら洗えばいい、化粧道具もまゆずみがあれば問題なし。化粧水などもほとんど使わない。でも、リップクリームだけは必要ね。
何年か前までは装飾品をジャラジャラつけたり、慣れないヒール履いたりして、いかにも<旅行者よ>みたいな格好していたかも。歳をとると考えって変わるものなのね。
ラフで気どらない、が一番。楽なほうがいいです。
「アルファには必要最低限の荷物しかのせないから、持っていくものはできるだけ少なくね」
そこまで狭い車ではないが、あまり負担をかけたくない。ダンナはいつも荷物が少ないので、非常に助かる。もちろんわたしも女性のわりには、持ち物があまりないほうだと思う。
ただ、今回の旅には、一つかさばるモノを持っていかなくてはならない。それはノートパソコンだ。
この旅では宿を一斉予約していない。行き当たりバッタリの旅なので、その日に泊まれる安い宿を、その日に決めようと思っている。それにはパソコンが必要なのだ。
携帯電話はもちろんある。いままでも宿探しは携帯でおこなってきてはいるが、いますけれども、やはりな~んか探しづらい。画面も小っちゃいし。そこで今回は大画面のパソコンを持っていき、ビジネスマンっぽく、都会人っぽく振舞っちゃおうって決めました。アルファ115のトランクの上で、パソコンを広げてカタカタカタと。イメージって楽しぃ。
とまあ、パソコン、身軽なカバンが2個。以上、これだけ。
アルファ115のトランクに載せるにはこれだけで十分である。旅をしていれば、要らなくともどこかでモノが増えていくもの。そのときのために、少しはスペースを空けておきたい。
私たちも何気に旅慣れしているほうかもしれない。旅支度に時間はかけないし、旅だからといってなにかを新調することもない。
ただ、気持ちだけは、抑えることは難しい。
「いよいよ明日出発だーっ!四国ぐるっとドライブ旅〜。かーちゃんは今晩仕事だから仕方ない、おれ一人でさみしく前夜祭やってるよー、ヒャ〜ホーイ!酒ッコ、酒ッコー」
まぁなんでも一人で楽しめる性格は素晴らしい。ダンナは秋田県出身なので、単語の語尾に〈ッコ〉をよくつける。飯ッコ、童子ッコ、娘ッコなかんじで。聞いてると結構おもしろい。かわいい言葉の表現だとわたしは思う。
「あまり飲み過ぎないでよ〜。静岡まではアタシ寝てるからねー」
さりげない会話の中に、自分のお願いをうめこむわたし。
「じゃ、楽しんで。明日ね。いってきまーす」
一晩働けば、いよいよ念願の四国が待っている。旅は明日から。愛車アルファ115で爽快にドライブできる、自由気ままで泊まる場所も気ままに探す。行きたいトコへどこまでもー。
あー楽しみだ!
〈1日目〉
明日から天気は下り坂…。
わたしは昨夜仕事でも、疲れはまったく感じない。ダンナもいつもよりお酒をセーブしたようだ。感心、感心。
荷物オッケー、旅本オッケー、100均地図オッケー。
おっと、明日と明後日近畿地方は雨らしいので、傘を2本用意してと。
「では、参りますか!かーちゃんは寝てなはれや〜」
ダンナの軽快な声で幕があがった。
アルファ115が低音をうならせた。
「出発進行ー!」
午前10時、千葉県から四国の旅路へのファンファーレが響きわたる。
ブォンブォンブォ〜ン…プス。
「……」
「やっちまった…やっちまった市」
「…う〜ん、じつに良い出だしだ。では行こーではないか、みっちゃん!」
流石!うちのダンナのみっちゃん。出だしエンスト。サイコーではないか。
愛車アルファ115がマニュアルだということを実感させてくれたのだ。そして千葉県人しかわからないオヤジギャグ。いいねー、出だし好調、ハハハ〜。
それでは気をとりなおし、ホントに出発ー!
ルートはまず、首都高から東名へむかう。できれば下道で海岸線を突っ走りたかったのだが、そこまですると時間がたりない。
紀伊半島や四国で海岸沿いを楽しむためには、どこかを削るしかない。そこで考えたのは、静岡県浜松あたりまで高速をつかうことにする。そこから先は下道で海岸沿いを走行。
アルファ115のエンジン音、心地よいーー。
曲は流れていないようだ。
なーるほど、BGMはいらないってわけか、にくいね〜みっちゃん。
やっぱりわたしは寝てしまっていた。朝7時頃帰ってきたので仕方ないか。
助手席でモゾモゾ起きだしたわたし。そうだ!オープンカーだ、と急に脳ミソが働きだした。そう、わたしは、疲れていると上を向いて口をあーんてあけながら、どこでも寝てしまうのだ。
以前も三浦半島をドライブしているときも、やはり疲れがあったせいか、口をあんぐり開けてガーガーガーガー寝てしまって、赤っ恥をかいたのだ。だからみっちゃんに、そんなときは起こしてと言ってあるのだか、疲れてるときは仕方ないよ、一時の恥なだけなんだから。と笑ってスルーされてしまう。
いいダンナだぁ〜、と我ながら思う反面、オープンカーなんだから起こせっつーの!と思う気持ちもある。…わたしの寝かたに問題があるだけなのだが。
ただ今回は、一安心だった。出発のときからひと雨ありそうな空模様だったので、フォロを被せていたのだ。
目が覚めたあたりは、神奈川県。首都高速は思ったよりすいていたらしい。わたしは1時間半ほどの睡眠をとらせてもらった。
「ぬぬっ!起きたな〜。猛獣が起きちまったらエンジン音が聞こえんよぅ〜、まだ寝てろっつーんだよぅ」
確かにわたしはよく喋る。喋りすぎてよく声がかすれる。
だけど、みっちゃんだってよく喋るじゃないのよ!といつものように声にだして反撃はしなかった。
「いやー快適だね~。運転手君、ご苦労さん」
旅の力ってすごい。人の心を穏やかにさせてくれる効果が絶大だ。
さて、そろそろ休憩を。ということで、東名高速の足柄SAに寄ることにした。
パーキングに車をとめ、低いシートからよっこらせと腰をあげる。目の前に並ぶ各店舗から、こちらをガン見する凄まじい視線が突き刺さる。オープンカーに乗りたてのころなら恥ずかしくてたまらなかったが、今は違う。この感じ、この優越感、皆さまの視線の先にはアルファ115が見えているに間違いない。
みっちゃんと目が合う。そして、ニンマリ。お互いに金持ち気分を味わえる瞬間だ。いいね〜。
アルファ115は乗っている側からしたら、狭いや小さいなどは特にかんじない。が、やはり他の車と並べてみると、車高がないせいかコンパクトに見えてしまう。後ろからみたときが一番思う、以外にチッチャ!と。
足柄SAの各店舗をぐるっと見渡し、コーヒー片手に愛車へと戻った。まだ神奈川県、SAは大好きなのだが、ここで時間を費やしてしまったらもったいない。先へ進もう。
なんだか天気はもちそうな気配。雲は多いがどんよりとはしていない。となればフォロを被せておくなんてモッタイナイ。
運転席側のフックをバチン、そして助手席側のフックもバチン。手動でフォロを開けていく。
でました!やはりこれがアルファ115の真の姿だ。自由で陽気なイタリアンを思わせてくれるこのフォルム。情熱的なワインレッドが、フォロをあげた瞬間輝きを増した。サイコーだ。
動きだしたアルファ115、それを追う無数の視線がたまらない。
運転手はハットを被りグラサンをつけて、まるでアマルフィの海岸線を優雅に走行しているセレブかと思わせるようなスタイルのみっちゃんが、気持ちよさ気にハンドルを握っていた。
「次の休憩までオレが運転してやるぞー。寝てろ〜」
気分高揚、ドライブ曲はレゲエに決まり。
心地よい南国ミュージックを聴きながら、東名高速をひたすら走る。
アルファ115を抜かしていく車の窓から、こちらを覗き込むかのように見ている人たち。それも、なんだ!この車はっ?! といわんばかりの形相で。それもそうだよな〜、アルファ115なんてなかなかお目にかかれないもんねー。あー楽しぃ。
右手には日本を代表する富士の山がみえてきた。旅の無事をお願いする。しっかし、な〜んで富士山や高貴なものをみると、人は手を合わせてしまうのだろう?……不思議だなぁ。
静岡県を軽快に走行中。両側には静岡を代表する茶畑が無数に広がっている。一定の高さを保ったプロペラがあちらこちらに設置されていて、茶畑が育つ良い環境作りに役立っているんだよ、とみっちゃんが教えてくれた。なーるほど、カラスよけのデカイ風車かと思ったわたし。
茶畑が発する心地よい空気を吸いながら、静岡を横断していくアルファ115。曇りがちの天候だったが、ここにきてなんだか晴れ間が見えてきた。
そろそろ休憩をとらなくては、愛車とみっちゃんが疲れてしまう。まだ大丈夫だ、とみっちゃんは言っているが、かれこれ結構走っていたのでそうはいかない。
100均の地図を開き次のSAを探す。100円のワリに細かく情報が載っていて、大変便利な日本地図である。
愛知県に入る手前に、うなぎで有名な浜松がある。うなぎか〜、先ほど寄った足柄SAでかる〜くランチをとったが、胃袋はまだ余裕だ。浜名湖も初めてだし、せっかくなので浜名湖SAを次の休憩場所に決めた。
「よーし!ウナギでも食うかーっ、もち浜名湖産のをなっ。ガッツリいこーぜぃ」
空も晴れ間が広がり、日差しがでると陽光が顔に突き刺さる。屋根がないと結構肌にダメージを受けてしまうのだが、そんなことは気にしない。オープンカーとは、上から何かが降ってこない限り、フォロを開けオープンで乗るのが醍醐味なのである。屋根と枠のない世界って、なんて素晴らしいのだろうー。
目の前に広がる湖。ここは淡水に海水が混じり合う汽水湖で有名な浜名湖だ。日の光が水面に反射して、キラキラ輝いている。う〜む、なんとも美しい景色だ。まるで私たちの旅の始まりを祝福してくれているようだ。なんて、いっつもいいほうにモノゴトを解釈してしまうわたし。
「いやー、いいね〜この風景。おテントさんもでてきたし、ここまで快適にこれたし、いいんじゃないのぉ〜。バシッとウナギ食って鰻登りといきますかっ!ほれっ、中入るぞかーちゃん」
みっちゃんのポジティブは、誰よりも上回っている。サイコーだ。
浜名湖SAでももちろん注目を浴びた。私たちではない、アルファ115である。トラックの運ちゃん、営業で外回り中であろうスーツマンたち、ちびっこ連れのご家族、などなど・・・。
いや~芸能人の気持ちがわかるなぁ、注目されるのって疲れちゃう。あ、でもこの旅の趣旨は、見せつけ旅であった。様々な人たちにアルファ115を見てもらおうの旅であった。シッケイ、シッケイ、である。
お店の中をぐるっと見回る。さすが、うなぎの地域。あのサクッとおいしい、パイ菓子の中の王道であるうなぎパイがズラリと並んでいる。旅のお供に、お酒の肴に。やっぱ買うしかないっしょ!ミニサイズがあったので一袋購入。ホントはいろんな味のパイが食べたいところだが、この段階で大量購入するわけにはいかない。荷物が増えてしまうのはまだNGだ。
フードコートのうな丼が旨そう、いやいや、外にもお店が出ているし隣にレストランもある。ひとまず目で楽しむことにしよう。平日でも観光バスの旅人たちでそこそこ賑やかである。年配の集団が増えてきた。
うなぎ、うなぎ。頭の中はどうしてもうなぎを食べなくてはいけない衝動にかられていた。フードコートにする?でもレストランにする?そんなことを悩んでいたら、悩み過ぎてもうどうでもよくなってしまった。静岡ならいつでも来れる、そうだ千葉県だって坂東太郎、利根川沿いがうなぎで有名ではないか。
「・・・・・・また今度にしようか?かーちゃんが良ければオレはいいよん」
うむ。仕方ない。浜松のうなぎ、ぜひ食べたかったが先を急がなきゃならないのも事実。今回は諦めようということになり、愛車に向かって歩きだした。途中外の店舗に並んでいた海鮮はんぺんとやらが目につき、チーズ入りほたてはんぺんを買ってみた。俵型に串を刺し、バーベキュー感覚でバクっとほおばる。ボリュームあり、うーんうまい。みっちゃんと分け合ってあっという間に完食。浜松の食を少しだけ堪能できた。
アルファ115を遠くからガン見している男性をよそに、低音を響かせて走りだした。浜名湖SAを出て次のICで下りることにする。次は、三ケ日ICである。ここからは下道で攻めていく。
高速を優雅に走行してきたので、信号機にあたるとオイオイと突っ込みたくなる。浜名湖SAからはわたしの運転にチェンジ。アルファ115を初めて乗った時は、久々マニュアルにエンストこきまくったが、今ではお手の物。俊敏なアクセルワークでシフトチェンジ。坂道だろうが渋滞だろうが、ハンクラでチョチョイのちょい。やっぱいいねー左ハンドルマニュアルは。
三ケ日ICを下りて、浜名湖沿いを海岸にむかって走行。ほのぼのした雰囲気で、気持ちのよい道である。ナビを確認。そろそろ海が近づいてきた。左手に遠州灘を眺めながら、渥美半島の伊良湖港までいくルートを考えていた。
「海ー海ー海だー!遠州灘ってどないなんだろう。はょみたいのー」
みっちゃんは大学が京都だったためか、よく関西弁をしゃべる。いや、博多弁に広島弁、秋田出身だからもちろん秋田弁も。ようは言葉の遊びが好きなんだ、と思う。いいことだー。
またまたナビを確認。そろそろ海が・・・チラッとみえ、またチラッとみえ・・・。まじ?ガッツリ海岸沿いを走れるのかと思いきや・・・。ふつうじゃん!ガックリしてしまった。
まあ天気も良く快適に走行できたので、いいか。でもこれだったら三河湾沿いを走ればよかった・・・と、旅始まってのネガティブをだしてしまった。これはいけない。なにがあろうとポジティブで!この心を忘れてはいけない。行き当たりばったりのロングドライブ、なにかあるのが当たり前。楽しく行こうぜぃ!
わたしの案でルートは決まる。渥美半島まっしぐら。今向かっているのは、伊良湖港。そう、ここでフェリーに乗ることに決めた。本日のフェリーはあと2本で終了。できれば次の16時何分かの鳥羽行きに乗りたい。渥美半島表浜街道をワインレッドのアルファ115が激走している。
「間に合うかな~。いや、大丈夫だ。余裕で間に合うな。急げー!かーちゃんっ」
これこれ、どっちだよ~みっちゃーん。わたしのハンドル裁きに磨きがかかる。
おっと、伊良湖岬かな、見えてきた。なんか雰囲気の良さげなホテルも見えてきた。あの先だな、港は。渥美半島にもわたしの大好き道の駅があった、気がする。急いでたため定かではないが、あった気がする。その地域の特産物をみるのが好きなわたし。あー無念、暗くなっても次の便にすればよかったかなぁ、あー寄りたかった、残念。
とはいえ10分前にフェリー乗り場に到着。まわりにお土産屋や水族館?らしき楽しそうな建物があった。またまた、あー次の便にしたい、ここみたーい。止まらない衝動が始まった。が、フェリーが優先。次の目的地、三重県に渡らなくてはならない。そして本日のお宿も探さなくてはいけない。みっちゃんがとっとと受付を済ませてきた。
ほらいくど、と今度は秋田弁でわたしをせかす。フェリーの作業員の方たちが、やはりこっちをガン見していた。係員に誘導されながら、ゆっくり中へと進む。中にいる作業員も同じくこちらを見ている。さすがアルファ115、目立つねー。
渥美半島横断はややせわしくなってしまったが、明るいうちに無事伊勢湾フェリーに乗ることができた。高速下りてから、あっという間の出来事であった。はぁー、いいねーこのドキドキ感。
フェリーはゆっくりと動きだした。三重県鳥羽まで55分の船旅。
とりあえず船内を中から外へ探索して、居心地のよい見晴らしのよい場所を探しだし、そこを我々のポジションにする。船の左舷側に見える太平洋もよいが、ここはやはり右舷側、伊勢湾を眺めるに決まっているではないか。時刻は16時40分過ぎ。ちょうど西日が下降してくるころである。夕暮れ時の伊勢湾、湾はオレンジ色に染まりとても神秘的だ。小さな島が水面に浮かんでいるように見える。全体を包み込む夕日と、穏やかな水面、そして自然が創り出した小さな島々。行き交う漁船の残していく船跡。自然が生みだした絵画である。それも人生に一度だけの、その日にしか見れない光景なのだ。日々一緒であって、一緒ではない。光景とはそういうものだ、とわたしは思う。
みっちゃんと温かいコーヒーを飲みながら、右舷側甲板の手すり越しに身を委ね、伊勢湾を眺めつつ談笑する。私たちはよく会話をする。そして声もデカイ。側を横切る60歳前後の女性が、こちらをチラリと見てからくすっと笑みを浮かべて過ぎ去った。あまりにゲラゲラ笑っていたので、こいつら大丈夫か?と思われたかしら。いや、逆だ。楽しそうで仲睦まじくてストレスなさそうね、と思われたに違いない。そういうコトにしよう。
伊勢湾のオレンジ色が、次第に暗色の色へと変化していく時間がくる。時間にすると午後5時前かな〜……あっ!大変なことに気づいた。今宵の宿をまだ決めていないではないか。一瞬焦ったがすぐに平常を取り戻したわたし。そう、焦っても意味がない。この旅はゆったりまったり自由気ままな車の旅。宿がとれなきゃ車で寝ればいい。私たちは一度だけ不運なことがあり、一度だけアルファ115のツーシートで夜を明かしたことがあるのだ。酒を飲み、弁当を食べ、お腹を満たし終えたら仕方ないから眠りにつこうと。東北地方の5月あたま。夜はまだまだ冷えこんだ…。ツーシートの車で寝るもんじゃない。目覚めが悪く身体中ガチコチだった。もちろんアルファ115は大好き、大好きだが車中泊となると…考えてしまう。
ふと、そんな思い出をみっちゃんと話していた。いや〜参ったよねーなんて会話しながら、甲板から階段を下り船倉の車が置いてある場所へと向かった。何気に小走りで。
私たちの持っているガラホではなんだか検索しづらい。よりによって夫婦でガラホだ。これはわたしがいけない。みっちゃんが会社の携帯を変えるとき、わたしが携帯とスマホがドッキングしたガラホゆーのが充電も持つし指で操作も出来るしおもしろいんじゃない、わたしも使ってるしぃ。なんて進めてしまったからあとの祭りだ。決して悪くはないのだか…うーん。
そんなこんなで今回の旅にはノートPCを持ってきたのである。びっくりするほどかさばるが、画面もデカく非常に便利だ。
アルファ115のトランクの上にバスタオルを敷きPCを置く。ガラホのデザリング機能でPCのネットをつなげる。さーて本日の宿探しだ。寄港地鳥羽にするか、明日巡る伊勢神宮周辺にするか。それとも…。
「夜は肉だね。こっち来たら天下の松阪牛食べなきゃお話しにならんでしょーよ。肉肉肉肉松阪牛〜」
それもそうだ。産地で食べるコトに感動がある。旅の初日を締めくくるのは、松坂市に決定。
私たちはただ寝るだけでいいので、安い料金の宿で十分だ。ただ、安い中にも多少なりともこだわりがある。ウォッシュレット付きトイレや、出来ればツインベッド、くらいだが。まぁ当日探すのでこれに該当しなければ仕方ない、が。
ということで松坂駅近辺のビジネスホテルに決まった。空きがあるもんだ。都合もよく、私たちの〈こだわり〉を満たしてくれるホテルであり、料金もリーズナブル。いいね〜。
ここでPCのお仕事は終了。サクサクっと宿を決め、PCをまたアルファ115のトランクにしまう。また明日よろしくね、と軽くタッチしておこう。
みっちゃんとも両手でハイタッチ。これで今夜の寝床は確保できた、ひと安心だ。
船倉から軽い足取りで階段を登って、先ほど私たちが陣取っていた甲板へとむかう。さほど人がいるわけではないので、どこにいようが景色が楽しめる。あら?船内のソファで寛いでいる人のほうが圧倒的に多いではないか。みんな慣れてるのか、興味がないのか。こんなによい風景を見ないなんて、あーモッタイナイ。慣れっていいように思えるが、なにか人の情熱を減退させる魔物のように思えてならない。甲板につくなりそんなことを考えてしまった。オレンジ色に輝く夕日が次第に姿を消していく。あ!魚が跳ねた…いやあれは鳥だったか…まぁどっちでもいいや。
鳥羽の領域に入ったのか、周りに答志島、菅島が見えてきた。右斜め前方には、かの有名なミキモト真珠島がある。ここにはパールクラウンという真珠とダイアでできた王冠があるばかりでなく、創業者御木本氏の精神を象徴するものとして知られている真珠の地球儀、また島内には海女さんが実演までしてくれるコーナーまでもがあるのだ。
無事鳥羽港に到着、紀伊半島に上陸した。
1時間ほどアルファ115を休ませることができて良かった。アルファ115も船を楽しんでくれたかな。
フェリー乗り場を出ると、すぐ左手に鳥羽水族館がある。わたしは水族館マニア、というほどではないが水族館が大好きだ。そしてこの鳥羽水族館には、前々からぜひ訪れてみたいとすごく思っていたのだ。
左に鳥羽水族館、右にミキモト真珠島。時間は17時45分。残念だ・・・。
たぶん明日も来ることは出来そうにない。明日はお伊勢さん巡りが待っているし、その後は四国に向けて距離をかせがなくてはならない。この旅の目的は、アルファ115を見せつける旅なのだ。はぁ~またね、と声に出して手を振って、今宵の宿のある松阪市へと向かった。
時間帯がちょうど皆様のお仕事が終わったころなので、道はやや混雑している。その中を千葉ナンバーのワインレッドのオープンカー、アルファ115が優雅に走行している。こちらをチラチラ見ている運転手や歩行者、信号で止まればお店のガラス越しで食事を楽しんでいるお客たちが、やはりこちらを凝視している。もしもーし会話が止まってますよー、と心の中でお客に問いかけてみた。皆様、そんなに見てくれて、ありがとー!無数に輝くヘッドライトの中を、気持ちいい夜風にあたりながら、アルファ115は可憐に走行してくれた。
鳥羽港から松阪駅周辺まで1時間ちょっとで着くことができた。帰宅ラッシュの時間にしては、なかなか早く着くことができた、かな。
シティホテルにチェックインを済ます。部屋へと入ってベッドに腰をおろし、三重県松阪市に着いたんだという実感が、徐々に湧いてきた。ホテルに入る前に、近くのコンビニでサワーを2本買っておいた。私たち夫婦恒例の、宿についたら持ち込みウェルカムドリンクで、無事到着したことを祝杯するのである。
カンパ〜イ! ゴクゴクっと旅の疲れを癒すいいのどごしだ。
ホテルにある街のグルメマップをみながら、今夜の夕食場所を探すことにする。やっぱ松阪牛ステーキをガッツリいかなきゃでしょ〜、話しはすぐに一致した。鉄板焼きの有名な店がこのホテルの近くにあるようだ。営業時間はまだ大丈夫、平日だし電話予約はしなくても大丈夫かな〜。よし!とりあえず向かってみよう、日本の名肉、松阪牛を堪能しに。
店はホテルから歩いて10分くらいの場所にあるらしい。そろそろかな、おや?駐車場は以外にも空きが多い。ん?なんだか店も暗い…。
休みであった。定休日だ。なーぜわたしは肝心な休みの日を調べなかったんだ。あーしくじったーっ。頭の中は松阪牛の豪快なステーキのことしか考えていなかった。別の店を探すにしても営業時間が、閉店時間がせまっている店が多かった。今日の気分は居酒屋ではない。松阪牛を贅沢に食せる店なのだ。そして少なくても2時間くらいは1件のお店で寛ぎたい。
松坂駅周辺の松阪牛が食べれる店を、ホテルの部屋から持ってきたグルメマップから探すことにした。
そしてピンときた店が見つかった。営業時間もまだまだ大丈夫。場所は駅の向こう側、歩行者用地下トンネルで駅の下を通り抜け、ロータリーを突き抜けたら少し歩く。小洒落た焼き肉店であった。
2階に通され、ビックリ仰天。2階席は素晴らしい和の作りだ。中通路があり、左が大広間で掘りごたつ式テーブルが数カ所ある。どこのテーブルもスーツ姿の人々でいっぱいだ。顔が真っ赤なお父さん方が元気よく会話している。右は個室になっていて、ひと部屋しか空いてないその部屋へと案内された。
畳に掘りごたつ。焼き肉店なのに和食を食べにきたようだ。灯りは蛍光灯でやや明るめではあるが、部屋の雰囲気は良い。みっちゃんは日本邸のような和がすきなので、顔はご満悦だ。
早速メニューを拝見。ステーキはあるかな〜。
メニューは他の焼き肉店とさほど変わりない。松阪牛は…。
店員さんに恥ずかしながら松阪牛はないかと訪ねてみた。
「はい、こちらのロースが松阪牛です。あとのお肉は別のになってしまいます…」
松阪牛極上ロース5切れ……。ひとくちサイズ、5切れか…。
ステーキの夢、破れたり〜。
まぁ別の牛の肉でも味にはなんら問題なしだし、松阪牛のロースはやはり格別に旨いし、セコい話しさんざん飲み食いしたのに鉄板焼きの店より安くすんだし、ということはとても良い店に出会えた、ということになる。だからあんなにたくさんお客がいたんだな〜と思える店であった。ごちそうさまでしたー。
焼き肉店を後にして、ホテルへとふらふら帰る。途中コンビニに寄り、ワインや焼酎、お口なおしの乾きものやおせんべいを買い込み、酔った足取りで今宵の寝床へと向った。
ホテルに無事たどり着いた時、今日の疲れがどっと身体にのしかかってきた。体は正直だ。
シャワーを浴び寝る準備が整ったので、ここからかる〜く部屋飲み開始といきますか。わたしは赤ワイン、みっちゃんは焼酎で、明日からの旅の成功と無事を祈ってカンパ〜イ。さすがに疲れていたせいか、1杯飲みほすころには眠りへとついていた。
〈2日目〉
〜雨の伊勢神宮、すばらしい〜〜
どんより曇り空。今日は雨の予報だ。
昨日のお肉パワーで朝から元気一杯のわたし達。朝食は抜きにして、代わりに水をガブガブ飲む。今日は待ちに待った初のお伊勢さん巡り、なんとか横丁やらで腹を満たすつもりだ。
よし、身支度完了。荷物も整理してと……そうだった、コンビニに寄ってしまったのだった。せんべいやら酒やら、ほとんど残っているではないか。ふー、酔うとダメだな〜。なーんかコンビニへと導かれてしまうわたし達。中高年になっても食欲だけは衰えを知らないらしい。
増えた荷物も整理して、これで準備完了。お世話になりました、と部屋へ敬意の念を送り、次なる目的地〈伊勢神宮〉へと向った。
出発からフォロを閉めて大正解。松阪市内を走行時から雨が降ってきた。かなりの本降りだ。一週間前の予報からこの日の紀伊半島は雨マークだったので、やはりな、と思うしかない。
アルファ115よ、今日だけ雨ざらしで勘弁しとくれ。
松阪市から伊勢市へは1時間かからないくらいで着いた。途中雨あしが強くなったり弱くなったりで、まぁ止む気配はなし。
伊勢市に入り少しすると、右前方に杜が見えてきた。あそこが日本の総氏神、神宮だ。
伊勢神宮とは、内宮(皇大神宮・こうたいじんぐう)と外宮(豊受大神宮・とようけだいじんぐう)を中心とする125社の総称のことだそうである。そして内宮と外宮は少し離れた場所にあり、お参りの仕方としては、外宮から参拝して内宮に向かう。外宮には衣食住の神・豊受大御神、内宮には太陽神であり総氏神であり皇室の親神である・天照大御神が祀られている。
外宮近辺の駐車場にアルファ115を止める。今まで本降りだった雨が、駐車場についたとたん小雨程度になった。不思議だ。ひょっとして、ようこそ伊勢へと神が祝福してくれているのかもしれない。小雨は清めの聖水と考えて、それではいざ伊勢外宮へ。
大きな鳥居をくぐり抜け、緑豊かな杜の奥へと足を運ぶ。小雨が降っていても、神の領域の威圧感をひしひしと感じることができる。
手水舎で心身を清めたら、豊受大御神がご鎮座されているご正宮へとむかう。天照大御神の食事を司り、衣食住、あらゆる産業の神である。
鳥居の前に立つ。頭の中は無になり、全身緊張状態だ。みっちゃんと共に参拝を済ませ列からぬけた。神の領域は空気が違う、この地には目には見えない偉大な何かが存在している、と、わたしにはパワーを感じとることが出来たのだった。そんなわたしをみっちゃんは流し目で(ホントにホント〜?)と訴えかけていたが、こっちも流し目攻撃で(ホントじゃー)と光線を送る。10年以上も一緒にいると、目だけで会話が出来てしまう。楽なもんだ。
ご正宮の後は別宮数ヵ所を参拝し、緑豊かな杜を楽しみながらアルファ115のいる駐車場へ戻った。ふと空を見上げると、重たい雲は何処かへ行き雨は上がっていた。
いよいよ天照大御神が祀られている内宮へ向かう。外宮から数キロほど離れてはいるが、伊勢市には様々な神社仏閣があるので、目を楽しませながらアルファ115を走らす。
今日は朝からスッキリしない空模様。それでも参拝者はいるものだ。外宮にも雨にもかかわらずそこそこの参拝者かいた。そして確実に雨が止んだ今、内宮の駐車場についてみると、他県からきている乗用車や観光バスで埋め尽くされようとしていた。平日でこの人だかりが、日曜祭日だとどうなってしまうのだろう…恐ろしくなる。
聖域へ入るため、五十鈴川に掛かる宇治橋を渡る。参拝者はかなりいるが歩くのに支障はなく、マイペースで進むことができた。神苑と呼ばれる、芝の上に松の木を植えた見事なまでの庭園が、様々な人の心を癒しているに違いない。手水舎で身を清め、緑豊かな杜の道を進み、参道の主かと思わせる巨木を見上げながら、ご正宮へと続く階段の前に立つ。ここか・・・。TVでよく見る階段だ。この先は未知なる世界であり、神の世界に入らせていただくわけだ。緊張しないわけがない。
緊張はしているものの、せっかくなので階段下でみっちゃんとのツーショット。ハイ、チーズ。
それでは天照大御神へ日頃の感謝を伝えに行ってきます。
清々しい気持ちでいっぱいだ。神の総本家に来れたのだから。
内宮にも別宮が数ヵ所ある。別宮とはご正宮についで尊いお宮のことである。もちろん別宮もすべて参拝させていただく。ゆっくり歩き内宮の杜を肌で感じながら、癒しのひとときを過ごした。
参拝されたみなさんは目にしたかわからないが、参集殿という参拝者用休憩所の近くに池がある。そこにいる錦鯉の大きさにはびっくりした。なんせ凄く立派で柄もカラフル。あまりに見とれすぎてワーワー騒いでいたら、池の周りを観光客で埋め尽くしていた。人って騒がしいとこに惹かれてしまうものなのね。誰も見に来る人がいなかった池を、わたしが惹きつけてしまったようだ。立派な錦鯉をカメラに収めて、内宮に入る時渡った宇治橋へと歩きだす。清く澄んだ五十鈴川。今いる世界は聖域で、宇治橋を渡れば俗世界。檜作りの宇治橋を名残惜しくも歩きだす。そして最後この橋でやらなければいけないことがあるのだ。橋の欄干に擬宝珠がある。内宮から見て右側、大鳥居から数えて2番目の擬宝珠をさわるとパワーをもらえる、また伊勢神宮に来ることができるとされている。よし、触らねば。誰も触っていないので、これだ!と駆け寄りなでなでなでなで。
「かーちゃん違うよー、こっちだよー」
ん?ん? みっちゃんが大鳥居付近でわたしを呼んでいる。
「ここから2番目のだよー、そこ4番目だよー」
橋の先端が視界に入らず、わたしは目で見えた擬宝珠から2番目を数えていたらしい。過ぎていく人々はおや?という表情でわたしを見ていく・・・恥ずかしいではないかーい。
恥ずかしい思いでみっちゃんのとこへいき、一緒に擬宝珠をなでなで。また神宮へ来れますように、と。
朝食べていないからお腹がグーグーいっている。大鳥居の隣にある〈おはらい町〉土産物屋や食事処が建ち並ぶ、古き日本を感じさせる町並みで伊勢うどんを食べるプランに決めていた。
情緒溢れるおはらい町、とりあえずふらふらしてみる。いい感じだね~。
「みっちゃん、なーんで教えてくれなかったのぉ。あー恥ず。違うたまねぎナデナデしちゃったよ」
みっちゃんはゲラゲラ笑っている。なんとも楽しそうだ。
「だってかーちゃん走っていくから、そこにもなにかあるのかと思ってさ〜。ハッズー」
やはり楽しんでいる。普通の顔に戻らないほど笑っている、わたしを指差して。
たまねぎというのは、擬宝珠がたまねぎの形に似ているから、そう呼ぶ人も少なくない。
伊勢うどんもあり松阪牛の牛丼もあるお店に入って、食事をすませた。伊勢うどんは思ったより柔らかく、甘辛の醤油ベースのタレを絡めて食べる、といったかんじだ。なるほど、うどんはコシだ!と思う方にはむかないが、私たちには抵抗なく、変わった食感だなと美味しく食べさせていただいた。もちろん松阪牛の牛丼も美味しかったが、こちらはかなり値が張った…。
お腹も満たされ、せっかく来たのでおはらい町を散策することにした。
昔の町並みを見て歩くのはとても楽しい。歴史的建造物も立ち並ぶ通りをそぞろ歩きする。土産物屋を物色しながら、おはらい町なかほどにある<おかげ横丁>という一角を見て歩く。ここも古き町並みを再現した情緒ある建物で目を楽しませてくれた。ここには超有名な赤福の本店がある。五十鈴川沿いに建てられているので、川の景色を眺めながら赤福餅を堪能することができるのだ。うーん、お腹は一杯だ。でもせっかく本店に来たのだから食べるしかない。しかも出来立てを食べれるのだから。
お土産で売っているのとは味が違う気がした。やはり旨い。色もなんだか鮮やかにみえる。あーおいしい、伊勢の名物餅ごちそうさまでした。おかげ横丁をぐるっとまわり、おはらい町を一周し、途中の土産物店でかわいい招き猫が手をあげて(買っておくれ)と意思表示していたので、そうだと思いその招き猫をお土産用に包んでもらい、アルファ115まで戻った。招き猫ちゃんは、わたしの尊敬するご夫婦がこれから千葉県いすみ市でカフェを開くので、そのお祝いにと思い購入したのだ。伊勢のパワーが込められた猫ちゃんだから、商売繁盛しますよーに。
伊勢神宮参りはこれにて終了。3時間くらいかけて外宮内宮、そしておはらい町を見てまわった。
アルファ115を走らす旅に戻る前に、もう一ヵ所寄りたい場所があった。内宮から少し走らせ、着いた先は<猿田彦神社>だ。猿田彦神社はみちひらきの神で、何かを始めるときに良い方へ導いてくれる神として有名。わたしも40歳になったので、この先なにか新たなことへ挑戦しようと決めている。もっと自分を成長させることをやろうと。プラス私たちの周りの人たちが良い方向へ向かうことができますように、たっぷり念をかけて猿田彦様へ拝んだ。
もう雨の心配はないかなー。猿田彦神社の駐車場で空の様子をうかがい、もう大丈夫だと確信したのでアルファ115のフォロをあげることにした。ジャジャーン、アルファロメオスパイダーヴェローチェ。伊勢に参上!
時間は正午前。本当は志摩市へ向かい、志摩市の先の前島半島を一周したかったのだが、そうなると四国へ向かうのがかなり遅くなってしまう。この旅の目的は、海岸沿いを走行しつつアルファ115を見せびらかしながら四国へ向かうこと。だが旅の日数を考えると志摩行きは断念するしかない。無念だ。
道を短縮するため伊勢西ICから伊勢自動車道に乗り、続いて紀勢自動車道に乗り継ぎ終点の尾鷲北ICへと先を急いだ。
信号機のない自動車道は速いなー、快適だなー、そんなことを思いながら尾鷲北ICを下りて海岸線へ向けてアルファ115を走らせた。尾鷲は全国的にみて降雨量の多い地域で有名だが、私たちが尾鷲に入ったころからカラッと晴天になってくれたのでびっくり仰天、逆をつかれて驚かされてしまった。これは神宮様からのプレゼントだ、と思いながら尾鷲市の国道を気持ちよく走行する。ブウォンブウォンブウォーン。
さっきまで曇り空の伊勢にいたとは思えないほど天気は良好。とりあえず海が見える道まで行こう、わたしの運転で助手席には旦那様のみっちゃんが、サングラスにハットを被りイタリアンを演出しているかのように座っている。似合うね~。BGMには山下達郎をチョイス。クリスマス・イヴではないぞ、達郎兄さんにはサーフミュージックっぽい海が似合う曲がたくさんあるのだ。音量をあげてRide On Time!
ナビで確認したら、尾鷲市の海岸はリアス式海岸のため道がくねくねしていた。これでは先に進まない。海岸沿いは諦めて、ここからは国道42号線を使うことにした。この国道42号線は、なんと静岡県浜松市から紀伊半島の海岸沿いをぐるっとして和歌山県まで続いている、9番目に長い国道である。トロピカルルートや熊野街道とも呼ばれ、ドライブには欠かせない道なのであろう。潮風を感じながら南国ムードを味わえる、千葉県の南房総みたいな素敵な国道だ。ただ尾鷲市から熊野市まではやや内陸に入っているため、残念ながら海をみながらということはできそうもない。熊野市に入るまで、我慢我慢。
熊野街道まっしぐら、だんだん空が開けてきて前に見える景色が少しずつ変化していく。赤信号でまず停車。目の前はもう海だ。海岸線をドライブする旅だというのに、伊勢からここまでの間ちっとも海にはかすらなかった。時間短縮のためのたった数時間の内陸走行であったが、やっぱり大海原が恋しくなる。
信号が青に変わった。ハンクラにして徐々にアクセルを踏んでいく。そしてクラッチを外しアクセルを踏み込む。回転が上がったらすかさずクラッチを踏み、いったんアクセルを戻してギアを2速へもっていく。わたしのローからセカンドへのアクセルワークは中々素早くキレがある、な〜んて自画自賛してしまうのだから人生楽しんでいるに違いない。
おお〜やっぱりこの景色だ。左手に海を望みながらアルファ115は勢いよく走りだした。
このまま快適に走行だー、と思っていたら、左前に〈世界遺産 鬼ヶ城〉となにやら気になる看板が見えてきたではないか。通り沿いだから寄ってみてもいいだろう。世界遺産となれば見ていく価値は言うまでもない。
アルファ115を鬼ヶ城駐車場へと導く。時刻は午後3時を過ぎていた。駐車場にはポツリポツリと車があるだけで、平日のこの時間だからか閑散としているのかな。だけど海が目の前の駐車場からの景色は素晴らしい。海岸側の道で暇つぶししている営業車はそこそこいた。いいなー、こんな場所で時間をつぶせて。……決してイヤミではない。
鬼ヶ城センターへと足を運ぶ。館内1階は土産物、カフェ、観光案内などがあり、広いわけではないがとてもキレイな空間だ。3階まであるのか、しかし、鬼がいそうにはない…。
とりあえず端から端まで見て、一旦外へでる。
目の前が熊野灘の大海原が広がっていて、最高に良いロケーションだ。ふと右方面に目を配る。荒波に削られてできた岩壁に道があるではないか、海へと続く岩肌の道が。
そうか、この先が鬼ヶ城の名がつく元になる景勝地がある場所か。うーん、行きたいが、なんだか想像がつく…。
今日泊まる宿もそろそろ探さないといけないし、みっちゃんと目を合わせ「どーする?辞めとく?」と合図しあう。
ちょうどその時、岩壁方面からこちらに向かって歩いてくるご夫婦が来た。すれ違いざまに「こんにちはー」と挨拶を交わす。そしてそのご夫婦が、向こう見に行きましたか?と尋ねてこられたので、いやまだ〜という素振りをみせた。とっさにご夫婦揃って「絶対いったほうがいい!見る価値絶対にありますよー!」
とにこにこされながら、見てきた感情を身体全体で表現して去っていった。
あんな風に言われたら……考えることはない、行くっきゃない。
はなっから見に行く気がなかったので、パソコンが入っているカバンをみっちゃんに持ってもらっていた。鬼ヶ城センター館内で、宿探しするためである。みっちゃんはパソコン入りカバンをぎゅっと抱きしめ「よし!行こぜ、かーちゃん」と岸壁へ続く岩肌の道へと歩きだしていった。いいねー、せっかく来たんだから鬼を見にいくしかないかっ。
ごつごつした岩が辺り一面覆っている。転んだら痛そうなんてもんじゃないだろうなぁ、と思いながら浸食地形の中の人口で造られた歩道を進んでいく。
どのくらいの月日をかければ、ここまで削ることができるのであろう・・・。
目の前に広がる太平洋、熊野灘。荒波により削られてできた海蝕洞。ホオジロサメが大きな口を開けているようにみえた。圧巻だ。海面からどのくらいの高さがあるのだろう。ふつう海蝕洞は波の威力で断層や断崖が削られてできるので海面と同じ高さなのだが、ここは数回にわたる地震性地殻変動やらで海面から数メートルも隆起しているため、大きく削られた穴が高台にあるのだ。岩だか地層だかわからないが、大きな放物線を描いて空洞になっていた。
「ひゃー、すごいね~。鬼の口の中にいるみたいだ。見晴らしもいいし雨が降っても問題ないな、じゃここでBBQでもやっかー」
重たいパソコンを大事に持ちながら浮かれまくっているみっちゃん。辺りに人がいないことを確認して、海蝕洞の中央から大海原めがけて、オペラ歌手並みにサラ・ブライトマンのタイムトゥセイグッバイを少しだけ熱唱しだした。おお~やるね!人って、自然に囲まれて良い空気を吸っているときや、広い洞窟の中やトンネルの中にいるとき、なぜ大きな声をだしてしまうのだろうか。自分の声が反射して楽しいことは十分わかる。でも、それだけか・・・と50過ぎの熱唱してるみっちゃんを見て、ふいに可愛く思ってしまった。
歌いだすと人って現れるもの。みっちゃんは、しまった!と言わんばかりの顔で、下を向きながら海蝕洞を後にした。ニヤニヤが止まらないわたし。
自然の力って凄い、自然こそが芸術作品だと、改めて思い知らされた世界遺産・鬼ヶ城。鬼とは、昔この辺に海賊がいたらしく、海賊を鬼と呼んでいたとか・・・ちょっと調べたらそんなことが記載されていた。
しかし、すれ違ったご夫婦に促されなければ、見に行く気ゼロだった私たち。あのご夫婦の感情表現は役者になれますな。出会いに感謝して、センター館内へ戻った。
時刻は午後4時過ぎ。休憩所でパソコンを開き本日の宿探しを始めた。
2日目のお宿は、那智勝浦町にある<小さな宿 Nieche>に予約がとれた。
和歌山県熊野市にある世界遺産・鬼ヶ城から那智勝浦町まで、1時間もあれば着くだろうと予測して、午後6時にチェックインとした。ナビでルート検索してみたら、那智勝浦町のお隣である太地町よりに、その宿はあるとのこと。そう、だからこの宿にしたのだ。明日ぜひ行ってみたい場所がわたしにはある。絶対に行きたいスポットが、太地町にあるのである。
日も暮れだし熊野街道沿いの民家や商店、建物に明かりが灯されてきた。海岸沿いの道なので、左手には柔らかい光が海に浮かんで見えている。漁火かな、それとも船舶の航海灯かもしれない。
夜に近づくにつれ、空が雲に覆われていき、暗くなるのが一段と早まった。なんだか雨がきそうな予感。少し急いで宿に向かおう、夕食はついてないので、チェックイン済ませたら買い出しにいくことに決めた。
予定通り午後6時に宿に着いた。国道沿いにあり、周りは緑で囲まれていて、建物は2階建ての民宿風な感じのお宿である。玄関入口の前が屋根付き駐車場になっていて3台ほど置けるスペースがあり、入口より一番奥のスペースには車が止まっていたので、私たちのアルファ115は入口側に頭から突っ込むことにした。玄関入口の脇に窓がある。もう辺りは暗いため、その窓から中の様子がうかがえた。
おや?なんだか雰囲気の良さ気な・・・BAR?
アルファ115のエンジン音に気づいたのか、中から子供が出てきた。小学生くらいだろうか、私たちに頭を下げて別のドアへと入っていった。たぶんこちらの宿のお子様だろう。
エンジンを切り、チェックインのためわたしが先に中へと入る。
「こんにちはー」
声をかけてくれたのは、カウンターにいたオーナーらしき男の方だった。そして即座に
「いいですねー、アルファロメオですか!ぼくもあーいった車好きなんですよ」
わぉ、気さくなご主人だ。それにまだ若そう。カウンターの奥から女性が顔をだし、ニコッとこちらに会釈した。やっぱりさっきのお子様は、こちらのご夫婦の子だな。
1階はフロント兼カフェになっている。もちろんここで夜はお酒も飲めるとのこと。現に、わたしが受付しているとき、片隅のテーブルでおじさんが一杯はじめていた。この宿の常連さんかな、オーナーと親しく話していたし。
みっちゃんが荷物を持って中に入ってきた。オーナーと奥様がこんにちはとあいさつをする。みっちゃんは店内を見渡すと、顔に笑みが浮かんできていた。気に入ったんだな、良かった。
「いやー、洒落てますねぇ。こうゆうウッド感、たまりませんな~」
「ありがとうございます。実は、ここすべてボクが作ったんですよ。なんで手造り感いっぱいです」
ええっ!?なんだって!この宿は、オーナー自らの作品かいなっ。私たち驚きすぎてついデカイ声がでてしまった。片隅のテーブルで一杯やってるおじさんがニコッとした。やっぱり常連さんだ。
みっちゃんがいろいろ聞きまくる。オーナーの答える声が嬉しそうに聞こえる。そりゃ自分の作品を人に伝えるのって、ウレシイよね~。木の温もりがライトの灯りと共に、ふんわり柔らかく感じられた。カフェの隅にハーレーが置いてある。オーナーのだな。またハマるねー、この雰囲気に。
部屋は2階になります、と案内された。2階もまた味がありますな。洗面台、トイレ、風呂場は他のお客と共用だ。風呂に関しては各部屋で貸し切りにできる。
部屋は角部屋の6帖一間、フローリング、テーブルが一つあるだけ。窓は広々としていて景色が拝める。いいんじゃないのー。このシンプルさ、私たちは好きだな。
宿の説明も聞いたことだし、スーパーへ買い出しに行く準備をする。オーナーに近くのスーパーを教えてもらい、アルファ115を走らせた。
大きいスーパーはこの近辺にはなく、地元のちょっとしたスーパーになってしまうと。でも、わたしはそれがいい、地元スーパーのが旅してるって実感が湧くからそれでいいのだ。太地町の港辺りにあると教えてもらい、お腹もすいたので少し急いで向かった。
雨が降ってきた、小雨程度だが。考えてみたら今日の天気は目まぐるしかった。まず松阪市では雨で、伊勢市では雨のち曇り、尾鷲市では晴れ、熊野市は晴れから曇り、那智勝浦市に入ると曇りのち霧雨、そして太地町では小雨、である。一日でこれほどの天気の乱れも中々経験できない。旅2日目にしてある意味貴重な体験をした。オープンカーだからか、余計にそう思うのだ。
スーパーはこぢんまりしていて、なるほど、という感じ。もちろん日用品なども置いてあるため、地元の方、特にお年寄りの方たちには重宝する重要なスーパーであろう。
惣菜コーナーを物色する。これはお決まりだ。各地の珍しい食は、だいたいこの惣菜コーナーにあることが多いし、海が近い場所だとお魚コーナーなんかもその土地のものが並んでいる。見慣れない刺身があると気になってしまう。買うかは別だが。
午後7時を過ぎているせいか、惣菜の種類が乏しい。致しかたない。そんな中、イルカの肉かな?変わった部位のものが売っていた。固そうだ。どうに食べるのであろう。買ってみようか、どうするか。
わからないときはお店の人に聞いてみるべし。なーるほど、この固そうな部位は鍋料理に入れて柔らかくして食べるそうだ。そのままではおススメしませんよ、と愛想よく教えてくれた店員さん。買わないで良かったぁ、気になったら聞くのが一番だ。
酒の肴になるような惣菜を選び、缶チューハイを2本、缶ビールを1本、気になる魚肉ソーセージがあったのでこれも1本と。焼酎とワインの残りがあるため、今回は購入なし。昨日松阪市のコンビニで買った酒だ。
店内を一通り見てレジへと向かう。どこか居酒屋があればよかったのだが、宿の周辺にありそうもない。だから体を休めるためにも今日は部屋飲みをしようと決めていた。
食料調達、アルファ115に詰め込んで宿へと帰る。スーパーの駐車場を出るとき、一人のおじいちゃんがジーッとこちらを見ていた。身体を動かすことはなく、首だけぐるんと動かしてアルファ115を目で追っていた。それも無表情で。その様子がサイドミラーに移っていて、とてもおかしい。おじいちゃん、驚かせちゃってごめんなさいね。これ、イタリア車ですよ。
宿にもカフェがある。お酒も飲めるし、手作りの店内の雰囲気をあじわうのもいい。よし、部屋飲みを少し堪能したらカフェに行こう。まずは部屋で乾杯だ。
こじんまりしていてなんだか落ち着く。田舎に帰ってきたみたい。わたしは千葉県出身、みっちゃんは秋田県出身で、お互いにそこそこの田舎育ちである。田舎はいい。高い建物はないし自然豊かで空気がいい。若い頃は都会への憧れはあったが、今はやっぱり自然が落ち着く。
先に風呂に入って1日の疲れを癒そう。カラスの行水でオーケーだ。
部屋の灯りを少し暗めにして、BARで飲んでる感を演出する。地元スーパーで買った惣菜と、この2日間の旅のネタをつまみに話しは盛り上がった。どーも私たち、お酒が入ると声がデカくなってしまう。ふつうでもお互いに声量はあるほうなので、酔っ払ったらどんだけ大きいか・・・本日は宿泊客が少なそうなので、宿には悪いが私たちにはよかったよかった。
お酒も進みほどよく以上に酔がまわってきた。眠い・・・。まぶたが塞がる。時刻は午後11時前。
みっちゃんとわたしは酔った足取りで共同洗面所へ行き、定まらない手つきで歯を磨く。1階のカフェに行くこともできず、その夜は深いふかーい眠りへとついた・・・。
〈3日目〉
〜那智の滝、ぜひ行くぺし!〜
翌朝7時起床。うーん、よく寝た。
カーテンを開けると、広々とした窓から青空が写しだされた。やったー!晴れだ。天気予報でも今日から当分晴れるといっていたので、朝からこの青い空を見れたことに感謝と興奮してしまった。
昨夜は少し飲み過ぎたかもしれないので、水分を十分に補給する。朝食は昨日地元スーパーでサラダとヨーグルトを買っておいたのを食べる。
平日の朝のひととき、仕事ではない朝の時間、とても優雅だ。
ふと窓の外が気になったので見てみると向かいに線路が見えた、とその時、なんとタイミングよく電車が現れたのだ。しかも2両でブルー一色の電車。なんかかわいいーし、なんかテンション上がるかも。ちょうど通勤通学時間だからか、電車の中は混んでる様子だ。混んでる電車って嫌なんだよね〜、だいぶ前に東京の八重洲や新橋まで通っていたことがあったが、もう最悪ー。よくあんな朝のラッシュみんな耐えられるなと思ったし、ここまでして通いたくないとメチャクチャ思った。まぁ会社に魅力があれば我慢したのかもしれないが…。混雑してる電車を見るとついどうでもよい記憶が蘇ってしまう、いずれこれも懐かしいと思える記憶になればいいけど。
時刻は午前8時、軽めの朝食もとったし身支度も完了したし、オーナー夫妻にあいさつして太地町を巡りに行くとしますか。
1階カフェ兼ロビーには、オーナーがにこにこして出迎えてくれた。軽快なトークで場が和む。店内のオブジェといってもいいだろうオーナーご自慢のハーレーと、私たちの愛車アルファ115の会話で華が咲く。朝からいいねー、サイコーな気分で出発ができるぞ。
「じゃ道中気をつけて楽しんでください。いいですよねぇ、旧車で旅するなんて」
「いやー、ありがとうがざいます。いい宿に泊まれてホントよかったですよ」
「あ!そうだ。那智の滝って知ってますか?」
オーナーの目がパッと開いた。那智の滝、もちろん知ってますよ。世界遺産熊野古道の中にあるあの滝ですよね、ただ今回の旅では行くのを辞めようかと思っていたところである。それよりも太地町に行きたいとこがあるのだ。そんなことは言えないので、
「ハイ、知ってはいますがー、ここから距離…ありますよね?行きたいと思ってはいるんですが〜、ハハハ〜」
みっちゃん、言い終えたあとわたしを見るのはヤメテ。オーナーはすかさず、
「いいえ、20分くらいで着きますよ。お時間あればぜひ行ってみてください。とゆうか、絶対行ってほしいです!ホントに圧巻ですよ、すごいですから!千葉から来たのにもったいないです。ホントにおすすめですよっ」
オーナーのまなざし、こりゃ本物だ。そこまでおっしゃっていただいたからには期待に応えねばならない。まして20分で着くならなおさらだ。よし、いくぞー。
オーナーが那智の滝まで行くのに新しい道が出来たことを付け加え教えてくれたので、そのルートで行くことにする。
手作りのナチュラル感たっぷりの宿、フレンドリーで気さくなオーナーご夫婦、素朴でとてもよかった。また泊まりたい、と本当にそう思う宿であった。
山方向へ走りつづける。アルファ115はどこを走ってもサマになるなー。風を感じて自然のマイナスイオンをたっぷり吸収する、オープンカーの醍醐味だ。
天気は快晴、今日は日焼けしちゃうな〜。
舗装された道をひたすら登っていく。さすが観光地、道がきれいでたすかった。アルファ115にデコボコ道を走らせたくはないからね。
木々が私たちの目線より下に移しだされ、徐々に視界が広がってきた。そして一面を青い空で覆われ、ポツンポツンと真っ白な雲が浮いている、いいねー、雲に手がとどきそうだ。
さらに進むとまた山々に囲まれ、ん?おや?…滝…っぽいものが見えた。
滝は木々で隠れたりちらっと姿をだしたりで、まだ滝全体の正体が掴めていない。名のわからない滝か、もしくは、あれがまさかの…。
助手席のみっちゃんが声を高らかにあげた。
「うわぁーっ、デカイなーっ!かーちゃん、あれが那智の滝じゃねーかいっ」
カーブの続く登り坂を登りきったその時、目の前に怒涛に流れ落ちる水の帯がくっきりはっきりと見えた。間違いない、これが那智の滝だ!ここ2日間の雨で水量が増しているせいか、もの凄い勢いで流れ落ちていた。離れた場所からみてもこれだけ迫力があるのだから、目の前でみたらどんだけ凄いのか…早くアルファ115を停めて見に行こう。心が踊る瞬間だ。
飛龍神社と彫られている鳥居の近くに駐車場があった。この鳥居をくぐり石畳の階段を降りていくと、そこに那智の滝があるようだ。駐車場はまだガラガラ。時刻は午前8時30分過ぎ。Niecheのオーナーが言っていたとおり、だいたい20分くらいでここまでついた。周りにお土産店も建ち並らんでいて、思っていた以上に開けた場所だ。滝しかないのかと勝手なイメージを膨らませていた自分に反省である。
では観光客で賑わう前に、お滝様を拝見しにいくとしますか。
いつもはフォロを被せるだけでアルファ115に鍵などしたことはほとんどない、だが見知らぬ土地だし観光地だしなにがあるかわからないし、なのでフォロをロックしてドアにも鍵をかけることにした。
山々の緑豊かな自然と空の青さ真っ白な雲を背景に、アルファ115を眺めてみる。絵になりますな〜、緑青白のアースカラーの中にきらびやかに輝くワインレッド。じつに素晴らしい!益々惚れなおしたぜ、アルファ115よ!
感動したところで、やっと滝に向かい始めた。鳥居をくぐり長く続く石畳の階段を下りていこうとしたその時、観光バスが一台駐車場に入ってきた。私たちの足は止まり、そのバスから降りてくる人達が妙に気になったので少し様子をみることにしたのだ。
「☆△♢□☓○!」「○×!☆△!」
バスから降りてくるなり異国の言葉が飛び交った。そしてまさに恐れていたことが始まろうとしていた。
その観光客達は、真っ先にアルファ115目がけて走り寄ってきたのだ。それもバスに乗っていた殆どの人がだ。観光客達はアルファ115をベタベタ触りまくり、物珍しそうにジロジロジロジロ眺めている。もちろん窓ガラス越しから車の中もジ―――っと隅々まで、みんなで頭を並べながらガン見している。そして次なる行動は写真撮影だ。サイドミラーに肘をかけて「どうだ!俺様のくるまだっ」と言わんばかりの撮影ポーズ。ボンネットに手を添えて「見て―!あたしの愛車よ、カッコイイっしょ」といかにも自分の所有物かと思わせる振舞い。前から後ろから横からパシャパシャパシャ! みんなワイワイ浮かれまくってアルファ115を囲んでいた。
私たちはただぼう然とその光景を見ていた。愛車を触られるのはイヤだが、珍しい車を見て興奮してくれるのは嬉しいことではないか、とそう前向きに思うと腹も立たなくなる。
「まぁ、いいか。いたずらしてるワケじゃないし、喜んでるようならオレらも冥利に尽きますわ。行こっか、かーちゃん」
そりゃそうだ。触られたときは一瞬ムッとしたが、でもみんなの表情を見るととても感動しているようにしかみえないし、凄く笑顔が絶えなかったから、私たちの愛車アルファ115で喜んでもらえるなら・・・まぁ良しとしようか。人生ラテンのノリでいかなきゃね、それがアルファ115スパイダーヴェローチェに乗る者の心構えなのであろう。おおらかに、楽しく、愉快爽快に、ね。
アルファ115に群がっていた異国の観光客達も、少しずつ車から離れていってる。大丈夫だな、確信したので、よし滝へと向かおう。石畳の階段を勢いよく降りていくみっちゃんとあたし。さっきの観光客達が今度はこっちに来る前に、先に見ておかなくては混雑してしまう。さあ急げー。
ふと、思った。アルファ115の鍵閉めておいて良かった~、もしオープン全開にしていたら・・・考えただけでゾクッとする。今日は機転が利いてるぞ。何か良いことがありそうだ。そう、心はいつもポジティブに!
水の流れる音。豪音が響き渡る。
目にした光景は、実に圧巻だ。
那智の滝、ここは神が地上に降りてくる際に通る穢れのない真っ白な絨毯のように私には思えた。滝壺へと流れる水の帯、何とも言えない美しさだ。ここ2日間の雨のおかげか、水の勢いが増しているに違いない・・・身動き出来ないほど見とれてしまう。
「よーし、オレは那智の滝を携帯の待ち受けにしよーっと!」
みっちゃんは良い写真が撮れたらしい、神の滝を待ち受けにするとは中々いい発想なんじゃないの、良いコトが起これー!
神聖なる滝の水しぶきを充分に浴びていると、先程の異国の観光客達が押し寄せてきた。では私たちはアルファ115の元に戻るとしますか、那智の滝よ、バンザイ!
駐車場に戻ると来た時とはうって変わって、なんとほぼ満車状態であった。30、40分の間にここの人口密度が急増しているではないか。
そしてやはりアルファ115の周りには、新たなお客様が群がっていた。
「千葉からこれで来たんですか~」「これ、イタリアよね」「まぁすごい!」「カッコイイっすね」
なんだか有名人になったみたい。
わたしはニコっと笑みをこぼしてそそくさと運転席へ逃げた。はたから見ればなにこの女、と思うであろう。でもわたしからしたら注目が凄かったので、恥ずかしくてたまらない。ここはみっちゃんに押し付けてしまおう作戦だ。
みっちゃんが愛想よくお客様たちと会話している。そろそろ助けてあげるか、みんな去りそうもないし。
ブォォーブォォーン。
アルファ115の低音が響き渡る。お客様たちの目線が一同にアルファ115に注がれた。みっちゃんもニコニコしながら「それじゃどうも」と、やっとの思いで助手席に乗る。
徐々に動かしながら、そしてこの旅の目的である見せつけ行為をしながら、次の目的地ここ那智の滝のお隣にある、熊野那智大社へ向かった。
お土産屋ストリートを通り、一番奥にある立派な店舗を構えている駐車場にアルファ115を止めた。駐車場にいたおじさんたちの感じが良かった、というのもあるし、駐車場代金も無料だ。
開口一番「凄いね~、かっこいいな~」
駐車場係りなのか、その場にいたおじさん数名が、すぐ私たちの元へとやってきた。
一人のおじさんはすぐにアルファロメオだと気づき、昔乗っていたと話す。今もオープンカーに乗っているらしい、年配の方がオープンカーなんて洒落てるなぁ~、粋な人生を送っているに違いない。勝手に想像してしまった。
「帰りはぜひ、建てたばかりのこちらのお土産店を覗いてみてくださいね~。お気をつけていってらっしゃい」
おじさん達に見送られ、熊野那智大社への階段を上り始めた。
階段を上っている途中にはお土産店やカフェなどもあり、また後ろを振り向くと壮大な山の景色を眺めることができる。ここは山の上にある観光地、景色も空気も申し分ない。今日は快晴、日差しも眩しい、気温上昇、階段キツーイ。
朱色の立派な鳥居をくぐると、本殿も他も、境内が鮮やかな朱色で染まっていた。煌びやかで眩しいくらいだ。上空から見たらこの朱色、えらい目立つだろうなぁと、またしても妄想してしまうわたし。実はわたしは大の想像妄想空想家である。いっつもあらゆることを想像して一人でニヤニヤしているかもしれない。みっちゃんはそんなわたしを知らないであろう・・・。
神の総本家である伊勢神宮は、色が使われていないことに驚いた。もっと華やかで色彩を纏っているものかと思っていたが、もしかすると総本家だからこそ色は使わず誰でも安らげる心地よい落ち着きのある風合いにしているのか、自然の中に溶け込める柔らかい色使いにしているのか。熊野那智大社を目にした瞬間、伊勢神宮が脳裏を横切った。
伊勢神宮のような落ち着きのあるシックな色合い、熊野那智大社のような鮮やかな朱色、どちらを見ても立ち止まってしまうほど美しいと思う。神社巡りは本当に楽しい。
この熊野那智大社には、日本サッカー協会のシンボル<八咫烏・やたからす>の鳥石がある。サッカー選手達はここにお参りにくるのかしら?八咫烏、縁起良さそうなので、小さな置物ひとつゲットした。
熊野那智大社を背にすると、山の風景を堪能することができる。まるで天空にいるようだ。そしてこれまた凄いものを目にすることができる。壮大な山々の間に、那智の滝を見ることができるのだ。近くで見る滝、遠くから見る滝、どちらにしても圧巻である。これまた思わず手を合わせてしまう、神よ~。
熊野那智大社に別れの一礼。来るときの上りの階段では非常に汗をかいてしまったが、帰りは下り、気分はルンルン。
駐車場に戻りアルファ115を確認、係りのおじさん達も笑顔でおかえりと迎えてくれた。
「よかったらこちらのお店も見ていってくださいね」
もちろんです。わたし、お土産見るの、だーいすき!なんです。和歌山県に入る前にも何ヶ所か店をみてはいたが、買うのは我慢我慢。アルファ115のトランクは狭いため、すぐにいっぱいになってしまうのだ。何度悔やんだことか。
見るだけならいいでしょ、見るだけ、見るだけ、見る・・・・・・。
お店の名は<和か屋本店>、大駐車場は無料で、2015年3月にオープンしたばかりの素敵なお店である。
店の中を隅々まで拝見、和モダンな作りでお洒落だ。佃煮やお菓子のヵ所ごとに試食が用意されているので、遠慮なくいただく。ほたて紀州煮、ふっくらあさり紀州煮、どれを食しても旨い。ごはんが欲しくなるが、やはりわたし達には酒の肴で決まりかな。紀州煮2品と紀州の梅をお買い上げして、今度は入口近くにある<磯揚げまる天>を見に行く。店員さんから「どーぞ」と試食を勧められ、いくつか食べてみる。旨い!
蒲鉾をフライしたものだと思うが、こうゆうのってどーしてこんなにも美味しいのだろう。旅初日の浜名湖SAでも似たようなの食べた記憶があるが、やはり旨かったな。
チーズ棒とたこ天と海鮮かき揚げ天を夜のつまみに、ほたてマヨ棒を今食べるように購入。ひとつひとつがボリュームあり食べ応えありそうだ。
店の一角には喫茶スペースがあり、ここに那智の滝をイメージした<お滝もち>というビローンと少し長いお餅をいただくことができる。なんだか旨そうではないか、お滝もち2本買って和の素敵な作りの喫茶スペースで腰を下ろす。
先ほど買ったほたてマヨ棒とお滝もちを並べ、写真を撮ったらお口へゴー。
う、う、うまーい!どちらも旨すぎる!味を語らせたら長くなるのであえて語りはしないが、ホントに美味しい。ペロッと食べてしまった。テーブルにはお茶も用意されているので、遠慮なくいただくことにする。
「あーー旨かった!朝も食べたから腹一杯だー」
幸せ気分のみっちゃん、いいねー和歌山の味を堪能してるって感じだ。
お店の中もお客が増えてきたし、そろそろ先へ進まなくてはいけないしで、重たい腰をあげてお店を後にした。
駐車場のおじさん達がニコニコしてまた声をかけてくれた。
「きをつけて、ありがとうございました」
アルファ115のエンジンをかけると、周りにいた観光客たちがこっちを振り向いた。
注目を浴びながら私たちはアルファ115を走らす、おじさん達に手を振ってお礼の意でクラクションを2回鳴らす。
「フォフォーーン」
旅開始だ。太地町でゆっくりするはずが、熊野那智大社で寛いでしまった。でも来て良かった。考えてみれば宿のオーナーが「ぜひ行ってみてください」と進めてくれたから来る気になったが、でなければ那智の滝、まぁ今回はいいか、と思ってたくらいだ。地元の人の意見は聞くべし。見事アッパレであった。
昨日の鬼ヶ城も通りすがりのご夫婦が「ぜひ見にいって下さい」と声をかけてくれたし、今日も泊まった宿のご主人が「ぜひ!」と進めてくれたしで、人の出会いに感謝しなくてはだ。旅をしていて良い出会いがあると本当に嬉しい、いい人多いじゃんと心から思える。
山の景色を眺めながら爽快に下って、目指す太地町へとアルファ115を走らす。
木々の間を通り抜け、照りつく太陽の日差しが顔に突き刺さる。肌がじわじわ焼けていく瞬間を味わっているところだ。
「いやー、かーちゃん帽子ッコ買わなくて、大丈夫かい?日焼け止めクリームもっと塗ろうかねぇ」
秋田方言の~ッコ、話し方に癒しを感じる。
とりあえず帽子はまだいらないとジェスチャーを送り、グラサンかけて目だけは保護する。太陽が燦々と輝いているせいか、見渡す景色の発色のいいこと、自然や建物、どの色もハッキリ主張しているように思えた。
山の麓まで下りてくると土産店がある、行きに気になっていた店だ。もちろんオープンしている、では寄ってみよう。
<御菓子処 那智ねぼけ堂>黒飴の里とかいてある。ムム?黒飴ソフトクリームとは・・・帰りに買うしかなーい!店内はまだ静かだ。お客が増える前にさっさと見てしまおう。
饅頭、カステラ、飴など黒飴を使ったスイーツがズラリと並ぶ。そして和歌山といったらやっぱり紀州の梅、和歌山の土産店で梅がない店なんてないであろう、もちろん安いものからお高いものまであります。そしてそして試食が凄い、あっちこっちにあるので、図太い私たちは殆ど全ての試食を口に入れてみた。あははは~、さっきの土産店でもよー食べたのに、よく腹に入ったなぁとある意味自分を褒めてあげた。黒飴スイーツ旨し!紀州の梅も絶品だ!これだけ試食したからには何か買って帰ろう。
店の奥には<まぐろ専門店>らしきレストランがある。那智勝浦漁港から揚がったまぐろだろうか、ギャー――!食べたーい。でも、お腹が膨れ上がってるし・・・。
「かーちゃんせっかくなんだから、どーだい、食べていけば?」
生もの好きなわたしに気遣ってくれる良い旦那様、みっちゃん。みっちゃん、いつも贅沢をありがとう。だけど、今回は・・・胃が・・・。
レストラン入り口に立てかけてあるメニューを見ながら、想像を膨らませてまぐろをいただいた。まぐろってこんな味でこんな触感だよなぁ、ごちそうさまでした・・・残念だ。
レストランの隣に蒲鉾や竹輪や他、海鮮系の物産店があった。軽く試食をいただいて、今晩のつまみにする竹輪を購入。試食だったらもう少しいけそう、あーまぐろの試食があったらな~、ホントにホントに残念だ。
外に出て大きく息を吸う、そしてゆっくり吐く。腹式呼吸でお腹を動かしてみた。
隣にはカフェ?なのか、黒蜜ソフトをひとつ買ってみた。バニラソフトに黒蜜がかかっていて、なるほど美味しい。
アルファ115のそばで黒蜜ソフトをほおばっていた。駐車場はまだガラガラでアルファ115が非常によく目立つ。隣の畑で耕運機を動かしていたおじちゃんが、ジーーーーっとこっちを見ていた。そして徐々にこっちに寄ってくる。徐々に、徐々に、ゆっくりと。アルファ115はそのおじちゃんの畑側に止めていたので、おじちゃんの目にとまったのであろう、何か話しかけたそうだ。アルファ115の真隣に耕運機がやってきた。フェンス越しでおじちゃんが待っている。
わたしはみっちゃんに任せた、といわんばかりの行動をとってしまった。そっぽを向いてしまったのである。だが、みっちゃんも同じく違う方を向いていたのだ。お互いに気づかぬふりをしてしまった。おーい、みっちゃーん、頼むよぅ~。
おじちゃんはアルファ115の近くを行ったり来たりしていたが、いずれ遠ざかって仕事に戻っていった。なんだか悪いことしたかな~、車好きなおじちゃんだったんだろうな~、話せばよかったかな~、そんな罪悪感が胸を刺した。珍しいモノをみればみんな気になるもの、車が好きな人なら話したかっただろうな。アルファ115に乗ってる資格なし、だな・・・。ごめんなさい、おじちゃん。黒蜜ソフトを食べるのに必死だったの。
〜絶対に行きたい、太地町立くじらの博物館〜
さぁお腹もチョー満たされたところで、そろそろ出発だ。目指すは太地町立くじらの博物館。ここは絶対に行きたい場所なのだ。
太地町に入るあたりに大きなくじらのオブジェがある。ザトウクジラの親子だろうか、なんともデカイ!昨晩この近くの宿に泊って、この道を通り太地町の地元スーパーに買い物に行ったが、夜だったせいか何かある?くらいにしか見えなかった。快晴の中に躍動感のあるザトウクジラの親子のオブジェ、なんともわくわくしてくるではないか。
さらにアルファ115を走らせる。もう気分は高鳴る一方だ。
今度は目の前に大きな船が見えてきた、漁船?海上自衛隊の船?なんだかわからないが、とりあえず巨大なその船をバックにアルファ115をパシャ、写真撮影完了。わたし、船が大好きだ。見ているだけで癒される。漁船、客船、小型船、帆船なんでもいい。とにかく海の上を勇ましく、優雅に走る船はホントに格好いい。海に少しでも近づきたくて、数年前に私たち夫婦は小型船舶の免許を取得したのだ。2級ですけど。
さぁ待ちに待ったくじらの博物館がもうそこである、建物が見えてきた。駐車場にアルファ115を休ませ、足取り軽く入口へむかった。
「大人2枚お願いします」
入口を入るとすぐにお土産コーナーがある・・・見たい。
「かーちゃん、お土産はあとにしようよ!ほら行くべしゃー」
みっちゃんの秋田弁、たまにホントかなぁと思う。みっちゃんのお母様も「わたしもわからないときがあるの、ふざけてばかりいるからね」ってよく言ってたのを思い出す。みっちゃんのご両親はもう他界してるのですが・・・ホントに良いお義父さんお義母さんだったなぁ~。
くじらの博物館なだけあって、さすがくじらの事ばかりだ。鯨漁は凄まじかったんだろう、並大抵なことではなかった・・・鯨というあれだけ大きな生物を仕留めるのだから、死人も出たに違いない。
漁に使う器具や捕鯨船のしくみ、ホルマリンに浸かっている生物(あえて生物とさせてもらう)、映像、様々な資料を見まくって、次は外のイルカ&クジラショーを見にいくことにする。いつも水族館でショーなど見たことない。なんとかショーより魚を見ているほうが楽しいに決まってる、そんなふうに思っていたからであった。
平日だからか館内は静か~だったが、外にはポツポツお客がいる。大勢いるより少ないほうが、見るこちらからしたら断然良いに決まってる。館には申し訳ない発言だが。
おっと、シロナガスクジラの全身骨格が出迎えてくれた。世界で一番大きい動物の原寸大骨格だ、体長26m迫力ありますな~。海でこんなのと出くわしたら心臓に悪いわ、と思う一方で、世界一大きな動物であり滅多に見れない希少生物であるため、生のシロナガスクジラを、泳いでいるところをぜひ!見てみたーい、と骨格を眺めながらついつい見惚れてしまった。
シロナガスクジラの標本の前には、イルカ&クジラのショーが行われる湾が広がっている。今はゴンドウクジラのショーでみんなを引き付けていた。ゴンドウクジラショーなんて珍しい、私たちも早速ステージの近くまでいき中々見れないゴンドウクジラさんたちをガン見した。
晴れ渡る空の下でイルカ&クジラショーを優雅に見ている私たち。飼育プールではなく、自然の入り江を仕切って作られた自然プールで、生き生きと過ごすイルカとクジラたち。いいね~。
自然プールには桟橋がある。イルカとクジラをより近くで見てもらうためであろう、この桟橋お客が入ってもオッケーなのだ。
係りの人が
「どーぞ、近くまで行ってみてください」
と感じよく誘導してくれた、こりゃいくでしょ。どの客よりも早くわたし達夫婦は桟橋にたどり着き、興奮さながらスターたちに会いに向かった。
バンドウイルカ、コビレゴンドウ、ハナゴンドウ、みんなキュッキュッと鳴きながらこっちを見ながら泳いでいる。みんな笑顔にみえる、なんて可愛く愛おしいのだろう。こんなに近くで見るのは初めてかもしれない。あまり興奮していると、桟橋なので揺れて落っこちてしまいそうだ。
なかにはピンク?いや、白かな、珍しい色をした子がいた。白いハナゴンドウである。白変種という体色を白くする遺伝子情報をもつため、色素が減少して白くなってしまったようだ。
「かーちゃん見て見て、白いクジラがいるよーっ!!ほー珍しいねぇ」
みっちゃん大喜び。ガキかっつうの。
この自然プールの桟橋見学、凄い案だとわたし思います。子供はもちろん大人だって150%楽しめちゃいます。あー来て良かったとホントに思える瞬間だ。
自然プールを後にして次に向かったのは、海側にある海洋水族館。ここには魚類や甲殻類やクラゲの他、珍しいイルカを見ることができるらしい、早速会いにいってみよう。
イルカが自由気ままに泳いでいる、スジイルカにマダライルカだ。この2種を水族館で見られるのはかなり珍しいよう、飼育やらの問題でよその水族館にはほとんどいない、と。
そして極め付けが、アルビノバンドウイルカ。白いイルカだ、聞いたことあるだろうか。先ほどの白いハナゴンドウとはまた別もので、こちらの白さは遺伝子の異常らしい。
白いイルカ。まるで神の使いみたいだ。本当にここ、太地町立くじらの博物館に来てよかったと思う。行ってみたいで来てみたら、想像以上に楽しめた。また何か得るものも多かったし、心の休息にもなった。
昼下がりの太陽の下をぶらぶら歩きながら、私たちは太地の空気を感じていた。
そろそろ先に進まなくてはーー。名残惜しいが出発しますか。
また来るぞーと心の中で叫びながら、くじらの博物館をあとにした。
国道42号線またの名は熊野街道、この道を和歌山市方面へと走り出す。天気は良好、顔が焼けるほど暑いですけど。
アルファ115の運転手はもちろんわたし。女がオープンカーを生意気にイケイケに運転するなんてサイコーだ。はたから見れば<この女~>と思われるかもしれないが、特に構わない。だって生意気ですもん。
そういえば! と思い出す。ここから串本町が近いではないか。串本町といえば本州最南端の潮岬がある。ここまで来たからには行くしかないでしょ、ねぇみっちゃん。
「行くしかないでしょーよ。それにどーせ主導権は、いっつもかーちゃんなんですからねっ」
あら、よくおわかりで。理解力ある旦那様は夫婦円満の秘訣ですな~。
軽快な会話に軽快に熊野街道を走行するアルファ115、海岸沿いのドライブは最高に優雅なひとときである。
おや?道の駅の看板が見えてきた・・・道の駅くしもと橋杭岩と表記してある、ぜひ寄ってみようではないか。道の駅って魅力的な場所だな、とわたしは思う。その土地の特産物や観光案内があったりで、いわば地域の情報発信地の場所である。だから道の駅があれば絶対に寄りたいスポットだし、特に旅人にはおススメの場所であると思う。
また道の駅の名前にもその土地がらのモノが使われているので、わたしには目を惹かれてしまうポイントでもある。
「はしくい?いわ・・・って読むのかな~、なんだろう気になるねぇ」
目的地が見えてきた。駐車場にアルファ115をとめる。
道の駅くしもと橋杭岩 駐車場の向こうには海が広がり、そこに奇抜な形をした岩が点在していた。直線状に並ぶその奇岩群が橋の杭に似ていることから、この名がついたそうだ。
この道の駅から見える奇岩群は、国の名勝地であり天然記念物の指定も受けている観光地である。確かに珍しい光景だ。アルファ115の背景に入れてカメラを構える。旅の記念にパシャり。
さて、お次は館内の中に行こう。名勝を目に焼き付けて館内へと歩きだす。そこへ観光バスが入ってきた。
ふと、アルファ115の鍵を閉めていないことに慌てて引き返す。なぜならば那智の滝での出来事が脳裏をかすめたからだ。ふ〜くわばらくわばら。
観光バスに視線を向けると、やはりーー外国の方たちだ。日本へようこそ!だけどアルファ115にベタベタ触らないでー、わたしの心の叫びである。
館内で和歌山県のお土産を物色する。1番目を引いたのは〈みかんジュース〉だ。わたしはみかんが死ぬほど好きで、小さい頃は冬になるとみかんを1日10個は食べていた。いや、もっとかもしれない。手の平なんていっつも黄色かった気がするな…。
和歌山は有田みかんが有名、では〈紀の国有田味一しぼり濃厚なみかんジュース100%〉をひとビン購入して、さっそく飲んでみましょうか。
う〜〜〜〜ん、濃いーーー!!ありがち表現だが、濃厚だぁー。
疲れが吹っ飛んだ気がするし、身体が元気になったようだ。
みかんのソフトクリームも……気になる。うーーむ、うーーむ、
「かーちゃん、ソフトッコ食べればいいじゃないの。せっかくなんだからさぁ」
みっちゃんのやさしさと秋田弁に、これまた癒されてしまう。こうなったら食べるしかない!ソフトを買う瞬間はいっつも「痩せなきゃだからなぁ、どーしよ〜」とちょっと悩んでしまうわたしがいるのだが、旅に悩みなんて必要なーい、行動あるのみだ。
レジにてひとつ注文………と思って並んでいたのだが、その時わたしの頭の中に〈ソフトは1日ひとつにしなさい〉と、突然のお告げが響き渡ったのだ。むむっ?!なぜだ??いつもはこんなことないのに、なぜ今日に限って…なーぜ、みかんソフトを目の前にして…。
1分間考えた。結果、買うのを断念した。ソフトの写真を見て想像を膨らませ食べたことにした…。
みっちゃんが、おや?っとした顔でわたしを見る。
そりゃそうだろうな、いつもだったら欲求は満たすことで人生が潤うのだ、と欲求に突進していくタイプのわたしなのに、なぜソフトごときに頭を悩ませているのだウチの奥さんは。と思っているのだろう、その表情は。
「なんだかみかんソフトはやめとくよ、神のお告げがあったからさ」
何言ってんだこのバカは。と言わんばかりの顔してわたしの顔をみてるみっちゃん。
特にツッコム言葉もなかったのか、じゃ行くべしゃ〜と秋田訛りの言葉を放ち、アルファ115の元へ向かった。
10年以上一緒にいると心で会話が出来てしまう、そんな気がしたわたしであった…。楽だな〜。
太陽がカンカンに照っている中、次なる目的地へとアルファ115を走りだす。まっすぐ和歌山市に向ってもいいのだが、せっかくここまで来たのだから観光名所は行っておきたい。
ということで、お次は本島最南端の潮岬へ向かうことにしよう。
橋杭岩からも近いし、なにより台風情報でよく耳にする場所がこれから行く潮岬なのである。どんなところだろう〜、進むに連れて胸の鼓動が高鳴るわたし。
紀伊半島の下にぴょこっと出ている突起が潮岬である。視界が開けてきた、目の前に筒状の塔が見えてきた……。
右手にはお食事処やお土産店のある建物が建っていて、筒状の塔もその類だ。そして左手には綺麗に整えられた芝生が一面に広がっていて、空がなんとも広く感じられる。
芝生の先に太平洋が広がっているのか〜、感動の一瞬まであと少し。お土産店の駐車場にアルファ115をとめ、道路を渡り、広大な芝生の上をリズミカルに歩き進んで・・・。
本州最南端・潮岬 石碑を見入ってしまった!
感動で体中の血流の動きが早くなり、血管がドクドク波だっていた(に違いない!)
ここが潮岬かーーー。日本ていいな~と、なんだか改めて日本の海・景色の良さに感動してしまったアタシであった。
それでは日本人恒例の、両手を合わせてパンッパンッ! 「宝くじ当たりますよーに」・・・ってなんでやねん!! みっちゃんの頭の中はいつも「宝くじ」やないかーい! 2人で顔を見合わせて、再度パンパン!「良い旅ができますよーに」
さてこれも恒例、岬を離れるまえに、お土産店を覗いていかなきゃね。夕方には閉まってしまうので、とりあえず速攻で店内を物色。なーるほど、ではアルファ115に戻り、向かうは和歌山市だー。
潮岬に別れを告げ、アルファ115を走らせた。ブウォンブウォン ブウォーーー。
「ねぇみっちゃん、実はあたしも宝くじ10億当たれ――って、心の底からお願いしちゃったよ。いや~手を合わせるとなんで野心むき出しになっちゃうのかね~はははーー」
アタシも欲かきだ。でもみっちゃんは
「それでこそ我が妻だ!! 願いは叶うぞーっ かーちゃーん!!」
ホントにポジティブで良い旦那である。はたからすればバカ夫婦だな~。
ノリの良い音楽を聴き、2人でベラベラ会話をし、徐々に沈みかけていく太陽の光を浴びながら、和歌山市方面へと向かうのであった。
国道42号線熊野街道は南国ムード漂っていて、とっても気持ちいい~。海岸線だから海も見えヤシの木?も並んでいて、サイコーなロードだ!あー天気が良くてよかったー。
旅の目的が<アルファ115を走らせる旅>なもんだから、特に計画性がない。10日間で千葉から四国へ行って、そんでもって千葉に戻れればオッケーなので、寄りたいトコ気になるトコはなるべく行くことにしている。宿だって計画性がない旅なので、その日の午後に当日泊まれる宿を探しているのである。ある意味、すっごい贅沢な旅だ。
とゆうことで、移動をしているといろいろ目に入ってくるものである。(あたりまえか・・・)
すさみ町、聞いたことがあるな・・・。確か、海底ポストがある町だ。千葉県の館山市には、海底ポストではなく海底神社があるので、その関連で耳にしたことがあるのだ。わたしはダイバーではないが、サーフィンをちょこっとする。海は大好きである。海関係の話は最高に楽しいと思う。
なにやら看板が見えてきた。みっちゃんがすかさず
「みちの駅すさみってかいてあるど、かーちゃん!こりゃ行くしかないんでないの〜」
さっすが、みっちゃん。わたしの大好き道の駅、あれば必ず寄りたいスポットだってことをよーくご存知で。
では行ってみよう、みちの駅すさみへ。
駐車場にアルファ115を止めて、よっこらせとシートから降りるわたし達夫婦。ちょっと疲れがきたかな〜。
夕方のせいか人はまばら。でもまばらな中、こっちに目線を向けている人はかなりのパーセンテージいた。もちろん目線の先は、我が愛車アルファ君にだ。この時ふと思った!こんなにカッコイイ車に乗っていてよっこらせなんて降り方を、なーんて醜くダサイことをしてしまったんだと、ちょっとだけ反省してしまった。オープンカー、ツーシーター、レアな外車、見た目カッコイイ。とくれば人の目は集まる。やはり視線を感じる時くらいは、乗ってるこっちも優雅にそして格好つけなくてはアルファ115に対して失礼にあたってしまう。おー許したまえアルファ115よ〜。
まぁ誰も見てなきゃ、だら〜んと自然体なんですけどね。時と場合のちょっとした見栄は張っても悪くないかな、とわたしの考えでございます。
敷地内にはエビとカニの水族館というのがある。寄りたいところだが、閉館時刻が迫っていたため今回は残念。お土産や食事処のある建物へ入ってみた。
わぁ〜キレイ!建物に入って第一声がこの言葉だ。新しいからキレイなのは当然だが、広い空間広い通路、平屋作りの建物でなんだか開放的だ。
ルンルン気分で店内をまわる。うーむ、買いたいところだが……。フードコートらしきとこがあったのでいってみる。メニューに〈和歌山ラーメン〉があるではないか。小腹も空いたしそろそろ本日の宿も探さないとだしで、フードコートによってみようということに決定。和歌山ラーメンを1杯だけ注文して席へとついた。セコっ!と思うかもしれないが、これにはワケがある。午前中から試食三昧でお腹が膨れていて、やーっとお腹が空いたなぁと思ったらもう夕方のこの時間、16時過ぎである。今ガツガツ食べたら夕食が楽しめなくなってしまうではないかー。ということで1杯のかけそばならぬ1杯のラーメン、今風だな〜。
わたしはふた口いただき和歌山ラーメンを堪能した。う〜んなるほど、おいしい。残りはラーメン大好き過ぎて痛風になってしまった(それだけが原因ではないが…笑)みっちゃんへと箸を渡す。幸せいっぱいの顔でモグモグ食べてるみっちゃん。すっごくオモシロイ。
わたしはパソコンを広げて宿探し、赤い色の大きなノートパソコンだからなにしろ目立つ。フードコートにはお客は数名しかいない、だからか余計わたし達のテーブルが目に入るようだ。店員さん達の熱ーい視線、今はアルファにではなく紛れもないわたし達への視線だった…。ノートパソコンがそんなにデカイかな〜、ま、気にしない気にならない。チャッチャか探して今宵の宿は、和歌山市内のビジネスホテルに決定。和歌山城が近くにあるらしい、なんだか楽しみだ。
みっちゃんが和歌山ラーメンをたいらげたので、出発の準備をする。店員さん達にご馳走さまとひと声、みんなニコッと笑顔を返してくれた。旅の中で笑顔をみると、運気が上がった気がする。ホントに良い旅をしてるんだなぁと笑顔に感謝である。
みちの駅すさみに別れを告げて、目指すは和歌山市。下道で行きたいところだが、そろそろ道も混んできそうな時間帯だ。時刻は夕方5時前。仕方ない、阪和自動車道にのって和歌山市を目指すことにしよう。
南紀田辺から乗り和歌山を目指す。阪和自動車道にて快適ドライビング。日中のギラギラ太陽からやっと開放され、サングラスのいらない薄暗がりがあたりを覆っていく。
さすがに10月だ。暗くなると少し肌寒く感じる。
みちの駅すさみからは、みっちゃんがドライバーである。朝からずっとわたしが運転だったので、疲れたろうと変わってくれた。
わたし的には体力は十分あるほうだと思う。だから1日中運転していても結構平気、ましてマニュアルのアルファロメオは楽しくて仕方ない。
「ぜーんぜんまだ運転できるんだけどな〜。この旅はなるべくアタシが運転しようと思ってたんだけどー。なーーー」
みっちゃんは人差し指をピンと伸ばし、そして左右にチッチッチッと振ってみせた。
「おカーチャン、あのね、いくら体力があったって少しは体を休ませてあげないと後でドッと疲れがきてグターっとなるど」
話しよりみっちゃんの人差し指が気になり、ちょっとわたしの鼻の穴に入れてみようとゆっくり鼻を近づけてみた。
スポッ!
みっちゃんの流し目。コイツ話し聞いてんのかいって顔して、わたしの頭をパシッと一発。(DVではないですからね〜笑)
「あのね、おカーチャン、人の話しはよく聞きなさいっちゅーねん」
まぁ確かに助手席もたまにはいいかもな〜って思い、わたしは肘をドアにかけ風を感じてみた。
(南紀白浜、近いな〜…行きたいな〜…)
日中の暑さで体か熱されたせいか、涼しい風が心地よい。頭が揺らっと上下に動く。運転という緊張から開放されたからか、体が少しずつ重くなっていく。そして、瞼も自然と閉じていった……。
パッ!と目を開けたら、緑の看板に白文字で〈和歌山〉という文字が飛び込んできた。
あら〜、わたし寝てたみたい。
「グッモーニン! 我が奥様。和歌山ラーメンに着いたどー」
ラーメン大好き人間なら言いそうな表現だ。わたしは1時間ほど寝ていたみたい。辺りは夜の風景へと移り変わっていた。
自動車道を降りて早速市街地へ向う。本日のホテルは、和歌山城近くの繁華街にあるビジネスホテル。
賑やかな街並み、人も多い。休憩したわたしの脳が今度は活性化されていくのがわかるほど、ステキな街並みに思えた。
信号で止まると必ず多くの視線を感じる。それは、もちろん、我が愛車アルファロメオスパイダーヴェローチェをガン見している視線ではないか。恥ずかしさ少し、と誇らしさいっぱいの気持ちでお互い前を向く。横は向かずに…。
(よかった〜こんな状況で居眠りしてないで)
交差点を右に曲がると、和歌山ラーメンで有名なお店が目に入った。ここにあるんだー、食べてみてぇ、と興奮気味のみっちゃん。
そして次に見えてきたのは……おお〜っ街の中に光り輝く城、これこそが和歌山城だ。ライトアップしていてとっても美しい。
カメラをだしてカシャカシャ撮るわたし。こういうときはオープンカーっていいな、周りに枠がないからどんな角度でも撮れる。ただキレイに撮れるかは腕次第!
観光客バリバリのはしゃぎ様、だけど観光客だから別にいいのか。
さらにアルファ115を走らせて、今宵の宿に到着した。時刻は18時40分過ぎ。やはり自動車道にのって正解。少しでも早く着いて、夜の宴を行いたい気分だ。
ホテル入口付近にアルファ115を駐車した。道路向いにあるラーメン店の店員さん達が、ジッとこっちを見ている。やっぱりアルファ115は人気モノだ。
チェックインを終え、部屋へと向かう。エレベータの中で夕飯は何がいいか話し合った結果、お土産屋でツマミをいろいろかったから、今日は部屋食にしようと決まった。ちょっとだけ買い出しにいかねばなので、せっかくだから和歌山城まで散歩して、その後買い物することにした。
ビルが建ち並ぶ街並みの中を、お城に向かってスタスタ歩くわたし達。何時までライトアップしているかがわからなかったので、早歩きしたのだ。
そして大通りに出た瞬間、目の前の高台に和歌山城参上。う〜んなんて美しい。暗闇の中に光る城、夜見るのも悪くないな。横断歩道を渡り少しでもお城に近づこうと歩いていたら、
「いらっしゃいませー、これから怪談話しが始まりますよ〜」
とお化けの格好した男女がお客を集めていた。
なんだここは?
見渡すとそこは公園、出店が並んでいてなにやら催し物が開催されていたようだ。
でもなんでお化けだか妖怪だかの格好してるんだろ〜??
よくわからなかったが、でも楽しそうなので良しとしよう。道路向かいの広場では、選挙だかの熱き演説が行われていた。
夜の和歌山市、熱いね〜、サイコーだね〜。
その場を少し探索し、コンビニで買い物をしてからホテルに戻った。
さて、今日のディナーは……。那智の滝のお土産屋で買った、ボリューム満点のチーズ棒、たこ天、海鮮かき揚げ天、そしてあさりとほたての紀州煮と紀州の梅干し。太地町に向う途中で寄ったお土産屋で、高級紀州梅と竹輪を。さらにどこかで何かを買っていたので、食べる物は何日分あるんだー状態である。
こんなに買ってたんだな〜と、テーブルに広げながら反省するわたし。でもみっちゃんは、いいじゃないの、気にするな、さて乾杯だーとこれから始まる宴を早くやろうぜぃと楽しそうである。
そうだ、わたしだってくよくよするタイプじゃない。いつ死ぬかわからない、だから我慢しないで美味しいものを!ってタイプだった。
それでは紙コップに互いの好きなお酒を流し入れ、3日目の夜を迎えることが出来たことに感謝して、
「旅にカンパーイ!」
明日から念願の四国である。100均の地図を広げて今後のルートを確認する。
お互いに四国が初めてで、またアルファ115と共に行けるのが嬉しくてたまらない。
どんな旅になるのかな〜、酒を片手に明日からの旅を想像しまくるわたし達夫婦であった。
あー旨い酒だー!
〈4日目〉
8時台のフェリーに乗るため、7時に起床。ホテルからフェリー乗り場まであっという間に着くので、焦る必要はない。
そう、気まぐれ自由旅に、焦りはいらないのである。
昨日の夜たくさん食べまくったから、朝はサラダとヨーグルトで。昨日のうちにコンビニで買っておいてよかった。ホテルで食べていき歯を磨き、出発の準備を着々とする。
昨日の晩は疲れもあってか以外と早く寝たため、わたしもみっちゃんもお酒を飲んだワリに超ー元気だ。そしてなにより、天気がメチャメチャいいではないかー。
「さぁ、準備オッケーかい? そろそろいくかっ」
みっちゃんのかけ声で4日目スタート。アルファ115に荷物を積み込み、助手席にみっちゃん、運転席にわたし。女が運転したほうが、こういう車は似合うもの。
本日もたくさんの視線を浴びますよーに。
では出発ー! フェリー乗り場までゴー。
朝の日差しは気持ちいい。アルファ115も快調だ。ひょっとして旅を楽しんでいるのかな?と思ってしまうほど良い走りをしている。実に、すばらしい〜。
フェリー乗り場の受付駐車場にアルファ115を停める。本日初、大注目を浴びてしまった。人の数が以外と多くてビックリ。みんなアルファ115を見てまん丸お目々をしているが、わたし達は予想以上の人の多さに目を丸めた。
無事受付を終え、フェリーに乗るため車の列に並ぶ。いろんな車種の車に囲まれると、アルファ115は小さいな〜と思ってしまう。
ゲートが開きフェリーに車がどんどん乗り込む。アルファ115も流れに従って中へと入っていく。駐車位置に停めて、外からアルファ115を眺めてみた。なんとも、やはりアルファ115はキャシャだ。アルファ115だけで見ると決して小さいとは思わないが、車の集団の中だと、カッコイイというかカワイイ気がしてくる。
ではしばらくの間愛車を休ませ、わたし達は船内を回ることにした。
約2時間のフェリー旅。途中、淡路島付近を通過して徳島県に入る。高速でパーーッと四国に入るのもいいが、行きはフェリーに乗ると決めていた、絶対に。船を取り入れての旅がしたかったのである。
天気も良好、ふく風は気持ちいい。和歌山に別れを告げてフェリーは動き出した。
フェリーといったら、わたしは1番上のデッキにいく。そこで景色を見ながら風を感じるのが大好きなのだ。
本当にいつまでも景色を見ていられる。海を眺めて島を眺めて、行き交う船を眺めて……。こうしている時間がたまらなく好きだ。この優雅なひとときがいつまでも続けば、と欲をかいてしまうほどだ。
みっちゃんも近くにいる。たまにあっち行ったりそっち行ったりしていた。
みっちゃんがトイレに行くと、デッキから去った。他のお客さんたちも淡路島通過し終えたあと、下の階に行く人が殆どであった。
そしてデッキには、わたし1人だけ。1人でこの風景を独り占めできたことに感極まってしまった。
あーなんて贅沢だぁ。思いっきり背伸びをして、思いっきり空気を飲み込んだ。そして、その後思いっきりむせてしまったのだ。
トイレから帰ってきたみっちゃんが、どーしたっかーちゃん!と背中をさすってくれたのは言うまでもない…。
上を見上げたら飛行機が飛んでいた。徳島阿波おどり空港に着陸するのかな〜と想像を膨らませ、みっちゃんとデッキでの会話を楽しんだ。
船内放送が流れている。あと何分後に徳島県に着くことを放送しているんだな。
もう目の前は四国、徳島県。この先も楽しいことがたくさん起こりそうな予感がしてきた。
アルファ115と共に、いざ四国へゴー!