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2-46話 正念場

 そして迎えた<参の壁>での防衛戦。


 弐の時と同じく大量の食糧と少しばかりの休息を得たきつねたちが、迫りくる岩鳥の群れに向けて、狐火を放ち続けていた。


「どんどん撃つのですよ!! ここが正念場なのです」


「もうちょっとだから、もうちょっと頑張れば状況も変わるからねー」


「「「クォーーン」」」


 柚希が階段に立ち、その前をペールが陣取る。

 それも弐の時と同じ光景。


 だが、その前に居るきつねたちの数は、弐の時と比べて半分ほどまでに減っており、最終局面だというのに、史記や鋼鉄の姿もなかった。


 彼らがどこに行ったのかと言えば、柚希たちの足元。

 <参の壁>に背を向けて、迫りくる岩鳥たちの真正面に立っていた。


 横一列に並んで火の玉を吐き続けるきつねたちを前に、男2人が肩を並べる。


「左側が押されている」


「ん? あー、たしかに、まずいかもな。ちょっと行ってくるわぁ」


 史記が前線を守るきつねに近付き、身振り手振りで攻撃目標を伝える。


 柚希たちが壁の上から狐火の雨を降らせ、撃ち漏らした岩鳥を史記たちが正面から迎え撃つ。

 そのような役割分担でもって、迫りくる岩鳥たちを倒していた。


 壁の上からだけで攻撃していた時よりもはるかに効率が良く、動かない岩鳥達を量産していく。

 無論、正面に立つ史記達の危険は増すが、その効果は予想以上だった。


 1匹、また1匹と、迫りくる岩鳥達が、炎の中に沈んでいく。


 だが、それも、長くは続かない。


「くぅぅぅん」


 火の玉を吐けるものが、1匹減り、2匹減り……。

 体力の限界を迎えた者が目立ち始め、放たれる弾幕が途絶えていく。


 ペールの目に映る敵の数は、残り100匹と言ったところ。

 後続に続く者は無く、岩鳥も限界を見せ始めていたものの、それ以上にこちらの限界の方が早いように思えた。


「マスター。敵がお堀に到着するですよ」


 ペールの言葉に視線を下げれば、お堀の端にたどり着いた岩鳥の姿が見て取れた。

 史記たちも必死にお堀を超えさせまいと走り回っているが、全体に疲れの色が漂っており、お堀を超えられるのも時間の問題だと思う。


「うん。それじゃぁ、撤退の合図を出してもらっていいかな?」


「はいなのです」


 敵も味方も死屍累々。


 動かなくなった味方の上を突き進む岩鳥たちを正面に見据えながら、腹ばいになってつらそうな呼吸音をたてるきつねたちの隙間を抜けて、いまだに必死な形相で火の玉を吐き続けているきつねのもとへと向かう。


「撤退の合図なのです。もうひと頑張り、行けますですか?」


「…………」


 返答する体力すら惜しいかのように、無言でうなずいたそのきつねが、残された体力を振り絞って、ひと際大きな火の玉を生み出した。


 そばで見つめるペールの顔にむせかえるような熱量を残しながら、岩鳥の列に向けて、大きな火の玉がゆっくりと飛んで行く。


 そして、岩鳥たちの先頭が大きく羽を広げ、お堀を飛び越えようとした、そんな時。


 大きな狐火がお堀の中へと吸い込まれていった。


「下がるのです!!」


 壁の下に居る者たちに向けて発せられたペールの叫び声に続き、お堀の中から、天をも焦がすような火柱があがった。


 轟々と音を立てながら激しく燃え盛る火柱は、歩み続けていた岩鳥たちに強い熱量を与え、その歩みを止めさせる。


 そして、お堀を飛び越えようとしていた者たちの意識を刈り取りながら、火の勢いを増していった。


 火の玉が落ちた場所を中心に広がっていった火柱は、やがてお堀全体を埋め尽くし、炎の壁を形成する。

 その高さは、柚希達の居る<参の壁>を超えるほどだった。


 そんな肌を刺すような熱量を前に、<参の壁>ぎりぎりまで下がってきた史記が、火柱に顔を赤く染められながら、鋼鉄へと視線を送る。


「すさまじいな。燃え過ぎじゃねぇか?」


「ダンジョンは未知の物ばかりだ」


「だな」


 目の前で燃え盛っているのは、お堀いっぱいに敷き詰めた<油きのこ>。

 史記たちが壁の上に逃げる時間を稼ぐための策だったのだが、ガソリンよりも激しく燃える<油きのこ>は、予想以上の効果をもたらしてくれた。


 しかも、その燃焼時間は長く、火の勢いは衰えるどころか強さを増しているように思えた。


「これ、行けるんじゃないか??」


 火の勢いが強すぎるために、火柱の向こうの様子をうかがい知ることは出来ないが、数多くの岩鳥を行動不能に追い込んでいると思う。

 もしこのまま燃え続けてくれるのであれば、きつねたちの体力も戻り、すべての岩鳥を打ち倒すことも可能になるだろう。


(そんじゃ、壁に登ってもうひと頑張りしますか)


 そんな思いを胸に気合いを入れ直した史記が、森の中へと移動していくきつねたちの背中を追いかけた。


(まずはエネルギーの補給からだな)


 前を行くきつねたちは見るからにふらふらしており、歩くことすらままならない。

 誰しもが限界を超えているように思えた。


(むしろ、この炎にびっくりして、逃げてくれねぇかな……、ん??)


 不意に感じた嫌な気配に、ふと火柱の方へと振り返った史記の目に映るのは、燃え盛る炎に映し出された、丸いシルエット。


 激しく燃え盛る火の壁の中央に、岩の影が映りこんでいるように見えた。


「なにが!?」


 驚きの声を上げた史記を尻目に、火柱の奥からひと際大きな岩鳥が姿を見せる。

 その体は、燃え盛る炎を寄せ付けていないように思えた。



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