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2-40話 神社の裏側 


 鳥居が消える少し前。

 建物の前へと戻ってきた美雪は、儀式の準備をするルメを遠くから眺めていた。


 周囲には竹に結ばれたしめ縄が四角く取り囲み、中央に手のひらサイズの石が円形に並べられている。


 そこはまさに、儀式のための空間であった。


「クォン」


 並べられた石の手前にお座りをしたルメが、一声鳴いてから、横に落ちていた小石を口に咥えて、ふっ、と円の中央へと投げ入れる。


 コロン、コロン、と円の中心へと転がっていった小石が、一瞬の静寂ののちに、ふわりと空へ舞い上がった。

 そして、お座りをするルメの顔くらいの高さまで浮かび上がると、円の中心を陣取るかのように、空中で制止した。


「すごーい、魔法!?」


 どう考えても魔法である。


 楽しそうな声をあげる美雪を尻目に、尻尾をパタパタと動かしたルメが、小さな火の玉を生み出した。


 1つ、2つ、3つ、4つと、次々に生み出された火の玉が、宙に浮かぶ小石の周りを取り囲み、ぐるぐると回りだす。

そして、舞い踊るように小石のそばを離れた火の玉が、四隅に立つ竹の上へと昇り、色を赤から青に変えた。


 準備はこれにて完了。

 あとは、仲間達を信じて、結界を張りなおすだけである。


「クォーーーーーン」


「「「「クォーーーーーーン」」」」


 準備完了を伝えるルメの遠吠えに対して、遠くから勇ましい声が返された。

 どうやら柚希達の方も、準備を終えたようだ。


 最終確認と言った様子で向けられた視線に、美雪がしっかりと頷いて見せる。


「だいじょうぶ。みんな、いるもん」


 まっすぐに前を向く美雪の視線に背中を押されたルメが、深く頷き返してから、くふぉ、とひと際大きな火の玉を吐き出した。


 ゆっくりとしたスピードでルメのもとを離れた火の玉が、宙に浮く小石に触れ、中央へと包み込んでいく。

 そして、小石全体を中央へと取り込み、色を赤から青へと変化させた。


 ――その瞬間、


「ふへ??」


 目の前にたたずんでいた神社が、跡形もなく消え去った。


「ふゅ???」


 何度も瞬きをする美雪の視界に残るのは、砂利が敷き詰められた平らな地面と、それを取り囲む森だけ。

 建物は、基礎すら残さずに、一瞬にして消滅していた。


「……そっか、建物は結界の力、って言ってたね」


「クォン」


 不安げな表情を浮かべた美雪が、ぎゅっと胸の前で手を握る。

 結界の消滅と聞いてもピンと来なかった危機感が、今更ながら、美雪の心を強く揺さぶっていた。


「……ん?」


 そうして、どこか寂しそうに空き地となった場所を眺めていた美雪の瞳に、見覚えのある物が映りこむ。


 それは建物があった場所の向こう側。

 呆然と見つめる視線の先には、綺麗な装飾が施された大きな台座がたたずんでいた。


 それは、1階で空飛ぶスライムと戦った時に見た、あの台座と同じ物に見える。


「魔導書があったばしょ……」


 美雪の脳内をあの時の恐怖や歯痒さが混じり合った感情が、突発的に湧き上がり、ぐるぐると渦を巻く。


 だがそれ以上に『行かなくちゃ』という気持ちが、美雪の心を占領していた。


「ルメちゃん。ちょっと、あそこに行ってきてもいい? すぐ戻ってくるから」


「くぉん?」


 美雪の要望に一瞬、きょとん、とした表情を見せたルメが、きょろきょろと周囲を見渡したのちに、ゆっくりと頷いて見せる。


「…………ォン」


 周囲に敵の気配は感じない。1人でも大丈夫だろう。

 そう判断した結果だった。


「ありがと。いってくるね」


 心配そうに見つめるルメに背を向けて、神社があった場所を歩き始める。


(なんだろう。……呼ばれてる??)


 そんな思いを胸に、台座へと歩み寄っていった。

 1歩、また1歩と、近付けば近づくほど、胸の鼓動が高鳴っていった。



 そしてたどり着いたその場所。


 神秘的な雰囲気を醸し出す台座は、相変わらず強い存在感を放っており、かつて<神事の魔導書>が乗っていたその場所には、ルビーにも似た真っ赤な宝石が1つだけポツンと置かれていた。


(ユキを呼んでいたのは、この子かなぁ??)


 鑑定の眼鏡を通してみた結果は<神事の赤石>。

 その石を見た瞬間に、1階での恐怖や、敵の襲来に備える柚希達のことなど、頭の片隅にあった物がすべて消え去り、赤い石の存在感だけが、美雪の思考を支配していった。


 だがそれは、洗脳や幻覚などの悪しき類ではない。どちらかと言えば、内に秘めた本能に近いように思えた。

 

 友人の進めるゲームを買うような、テレビで進められたスイーツを買うような、そんな感覚である。


(……触ればいいの??)


 そんな内から湧き上がってくる思いに突き動かされるままに、左手を持ち上げた美雪が、中指にはまる青い指輪を台座へと掲げて見せた。


 そして、1歩だけ前へと踏み出し、魔導書を赤石へと近付けていく。


 コツン、という小さな音とともに青い宝石と赤い石が触れ合い、互いが赤い光に染まれた。

 そして、赤石だけがふわりと宙に浮かび上がり、青い指輪の中へと吸い込まれていく。


 気が付けば異様な存在感を放っていた台座すら消え去り、木の葉を揺らす木々と、砂利が敷き詰められた広い空間だけの空間で、美雪がポツンと佇んでいた。


 彼女が身に着けた指輪には、小さな赤い装飾が加わっていた。



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