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2-32話 魔法少女☆美雪

 男たちが狩りに出かけている頃。

 美雪と小狐達は、鳥居の前を次の遊び場に定めていた。


 砂利道の上に、ペタン、と座った狐達は、つぶらな瞳を美雪の手元へと向けている。


 そんな沢山の視線を浴びながら、ゆっくりと立ち上がった美雪が、左手を水平に伸ばして、指先を大きく開いた。


「んんんんんん~。えぃ!!」


 真剣な瞳で気合の声を放てば、美雪の感情に呼応するかのように、左手にはまる青い指輪が、一瞬だけ、青い光をたくわえた。


 その場にいる誰しもが、いまか、いまか、と魔法の発動を待ち続けるものの、いっこうにその時は訪れない。


「……ダメかぁ。んゅぅ、……やっぱり、先に可愛い服に変身しなきゃダメなのかな??」


 真剣な表情を保ったまま、美雪の口からそんな言葉が紡がれる。


「魔法少女、魔法少女……、えぃ!!」


 掛け声とともに目を閉じた美雪が、両手、両足を大きく広げた。

 

 次第に彼女の体が淡い光に包まれていき、キラン、キラン、と効果音を奏でながら、足元、腕、スカート、上着と、美雪の服装が変わって、……いかない。


 うっすらと目を開いた美雪の視界に飛び込んできたのは、愛着のある普段着だった。


「むぅ……。ねぇねぇ、どうしたらいいかな?」


「クォン? きゃぅぅん……」


 突然話を振られた小狐が、伏し目がちに首を横に振る。


「わかんないよね……。

 魔法少女、魔法少女……、にゅっ!? 変身するには妖精が必要!!」


 それだ!! とばかりに目を輝かせた美雪が、えぃ、と詠唱したものの、妖精が姿を見せることはなかった。


「魔法少女に大切なこと。魔法少女に大切なこと……。

 心を込めて……、えい。…………むぅぅぅ」


 奇妙なポーズをとってみたり、何処に居るとも知れない妖精に助けを求めて叫んでみたり、時には小狐達と円陣を組んだりしてみたものの、何かしらの変化が生まれることはない。


 心地よい陽気に身を委ねて、お昼寝を始める小狐の数が増えていくだけだった。


 そんな子狐達に誘われるかのように、むぅぅ……、と唸りながらペタンと座った美雪が、泣き出しそうな視線を宙に漂わせる。

 

「ペルちゃんも、武器屋のおばあちゃんも『えぃ』って感じ、って言ってたんだけどなぁ……」


 露天風呂の中でペールから聞いたアドバイスも、冒険者専門店の賢者様に聞いたアドバイスも、大きな違いはなかった。


『えい、ってやるだけなのですよ』


 その一言に尽きるのだという。


 詠唱も必要なければ、魔法陣も必要ない。無論、変身や妖精も必要無い。


 ただ、えい、とするだけ。


 そんなアドバイスをもとに、


「えぃ!!」「えぃ!!」「えーーーぃ!!」


などと頑張ってみるも、現在に至るまで何の効果も現れなかった。


「むぅ…………」


 唇を尖らせ、不満の声を漏らしながら、丸くなって眠る小狐のおなかをもふもふする。

 

「キミのおなかは暖かいね~、いいよ~、いい毛並みだよ~」


「……ぉん、……」



 くすぐったそうに身をよじる小狐に少しだけ笑い声を漏らした美雪が、よし、と気合を入れなおして、立ち上がった。


(お兄ちゃんを守らなきゃだもん。お兄ちゃんが怪我とか、絶対やだ!!)


 そんな思いが、彼女を魔法へと駆り立てていた。


「えい! えぃ! えぃ、えい! えい、えい、えい、えい!!」


 手応えを感じないままに、魔法の発動を信じて、声を出し続けた。


「魔族の末裔たる我の呼びかけに応じ、天命の理を捻じ曲げ、我が思いに答えよ!!」


 時には、詠唱や魔法陣なんかもオリジナルで考えてみたが、出来上がったのは恥ずかしい思いと、小狐の冷たい視線だけ。

 大半の小狐が寝ていてくれたことだけが、唯一の救いだった。


「……ん? どうしたの??」


 そうして、なんの手応えも感じないままに魔法の練習を続ける美雪を見かねたように、1匹の小狐が静かに立ち上がった。


 ポテン、ポテンと少しだけ美雪の側から離れると、鳥居に視線を向けて、カパ、と口を大きく開く。

 2本の尻尾をパタパタと動かせば、口から眩い光が漏れ出した


 ……だが、何かしらの変化があったのはそれまで。


 ォン、ォン、と咽るように鳴いた子狐が、寂しそうに目を伏せて、尻尾をペタンと地面につける。


「んゅ??」


 呆気に取られる美雪を尻目に、別の小狐が立ち上がり、口を大きく開いて、しっぽをバタつかせた。


 口元から光が漏れ出し、やがて小さな火の玉が生まれる。


「おぉ~!!」


 一瞬の出来事だったものの、狐火が確かに生まれていた。


 そんな彼等に呼応するかのように、お昼寝から目を覚ました小狐達が、誰からともなく口を大きく開き、しっぽをパタパタと動かしていった。


 口元から光を漏らす者。

何も変化が起きない者。

小さな火の玉をほんの少しだけ出して見せる者。

火の玉を飛ばす物。


 誰しもが必死な表情で狐火を操っていた。


 だが、かつて見たルメの狐火には、遠く及びそうもない。


「……そっか、魔法も練習しなきゃ使えないんだね」


 小さく呟いた美雪の瞳が、まっすぐに前を向く。


「頑張らなきゃだね!!」


「クォン!!」


 小狐達の行動に励まされながら、時に励ましながら、えぃ、えぃ、と魔法を唱えていく。


「……お? おぉ~!! いま、ちょっとだけ光らなかった? 光ったよね!? ね!?」


「クォン?」


「むぅ~、いま絶対光ったもん。次はぜーったい、発動させる!!」


 そうして、小狐達と共に、魔法の練習を続けていった。


 ――そんな時。


 ガン、ガン、という衝突音が周囲に響き、小狐達の動きが止まった。

 緊張を滲ませた瞳が、鳥居の向こう側へと向けられる。


 そんな視線に惹かれて、顔を上げた美雪の目に映るのは、階段付近で見た岩鳥の姿。


鉱石鳥(オーアバード)……」


 消え入りそうな声で呟いた美雪の前で、岩鳥がくちばしを振り下ろしていた。


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