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2-30話 バーン!!


 狐に囲まれた乙女達から、少しだけ離れた鳥居の前。


 そこには、仁王立ちする史記と鋼鉄、横一列に並んだ10匹の狐の姿があった。


 ルメ曰く、彼等はこの村を代表する屈強な男達らしい。


 パッと見ただけでは良くわからないものの、言われてみれば、毛皮を押し上げるように発達した肩周りや太ももが、どことなく筋肉質に、……見えないこともない。


 ぶっちゃけた話し、史記の目には屈強どころか、男女の違いすらわからないのたが、『ほうほう、たしかに強そうだ』などと、適当に相槌をうっておいた。


 そんな狐達を前に、大きく息を吸い込んだ史記が、腹の底から通る声を紡ぎだす。


「気を付け、回れみぎっ!!」


 史記の掛け声に合わせて、狐達が一斉に後ろを向いた。

 20本もの尻尾が、目の前で揺れている。


(おぉぅ!! なんか猫じゃらし見てぇ……。美雪じゃないけど、モフモフしたい……)


 心の底から湧き上がってくる欲求を抑えながら、再び声を張り上げる。


「回れみぎっ!! ……ジャンプ!!」


 正面を向いた狐達がその場で一斉に飛び上がった。


 そんな狐達を、うんうん、と満足そう眺めた史記が、ゆっくりと右腕を水平に持ち上げる。

 そして、人差し指を前方へと向けて、親指を立てた。


「バーン!!」


 威勢の良い声が、周囲に響き渡る。


「……ウゥン??

 ……!! キャン……」


 一瞬だけキョトンとした狐達が、誰からともなくコテンと倒れていった。


その中には、もがき苦しむような動作を行う、強者の姿もある。


「よし。完璧だな」


「…………そうだな」


 やりきったとばかりに、誇らしげな表情を浮かべる史記に対して、何らかの言葉を飲み込んだ鋼鉄が、背後に建つ鳥居へと視線を向けた。


 それにつられて、史記の瞳も鳥居の方へと向けられる。


「うっし、それじゃ、行くとしますか」


「あぁ」


「「「クフォーーン」」」


 史記を先頭に列を作った狐達が、ゆっくりと鳥居に吸い込まれていった。

 

 彼等に与えられた任務は2つ。


『使えそうな物を見つけて来てくれないかな?』

『美味しいのが食べたい!!』


 そんな願いを叶えるために、男達は結界の外へと飛び出していった。


 

 黒い渦から抜け出た先に広がるのは、平穏な砂利道と、静かな森。


「……敵は、いないみたいだな」


 周囲を見渡した史記が、ホッと安堵の息を吐き出した。


そんな彼の隣に鋼鉄が寄り添い、狐達が円を描くように周囲を固めていく。


「案内は任せていいか?」


「フォン」


 その円を保ったまま、砂利の上を歩き始めた。


 

 そうして5分ほど歩いた頃。


 ふと、先頭を歩く狐が、その足を止めた。

 腰を落としながらも耳と尻尾をピンと立てた彼は、鋭い視線を森の中へと向けている。


「なにかあったのか?」


「クフォン」


 視線の先を覗き込んだものの、そこに見えるのは鬱蒼と生い茂ってた木々ばかりで、特別なものなど何もない。


 だが、見通しはかなり悪く、何かがあってもおかしく無い、そう思わせる雰囲気はあった。


「ん~、……とりあえず、行ってみるか?」


「そうだな」


 人間達の同意を得た狐が、ゆっくりと森の中へと入っていく。

 史記達もその後ろへと続いた。



 ほどなくして見つかったのは、視界いっぱいに広がる白い大きな塊。


 自分達よりも大きな糸の塊が、何本もの枝に糸を伸ばしてぶら下がっていた。


「……繭?」


 人よりも大きな点を除けば、理科の授業で学んだ、蚕の繭にも見える。


 その白い塊の前で、ペタン、と伏せて動かなくなった狐の様子を見るに、彼が見つけた物は、この繭なのだろう。


「敵……、では無いよな??」


「目的は、糸だろう」


「だよな」


 この大きな繭から糸を作って、防衛に役立てよう、そんな考えだと思えた。


 だが、化学繊維で育った彼等には、繭から糸を紡ぐ知識など無い。

 理科の授業で学んだとは言え、小学生の頃の話である。この年になってまで、明確に覚えているはずがなかった。


 どうする? などと困惑する人間達を尻目に、狐達が、慣れた様子で繭の周囲を取り囲み始めた。


 そして、一斉に口元を輝かせ始めたかと思えば、ルメが吐き出したものと大差無い大きさの火の玉が生み出され、次々と繭の表面に張り付いていく。


「っ!!!」


 目を開いて驚きを露わにする史記を他所に、繭の全面が火の玉で覆い尽くされていった。


「糸の収穫じゃないのか? 燃やしてるぞ??」


「いや、燃えていないらしい」


「ん??」


 呆然と眺める史記の前で、火の玉がゆっくりと弱まっていく。


徐々に小さくなる火の玉のすき間から、火を放つ前と変わりない、真っ白な繭の姿が、ちらちらと見えていた。


 

 そして、火が完全に消え去った頃。

 不意に、ピョコンと糸の端が繭の外へと飛び出してくる。


「熱で粘着を弱めたってところか??」


「おそらくな」


 絹糸に当てはめるのならば、茹でた感じなのだろう。


 ただ眺めているだけの人間達を尻目に、1匹の狐が飛び出してきた糸の先を咥え、二本の木の周囲をぐるぐると回り始めた。


 みるみるうちに繭を構成していた糸が引っ張り出され、木々の間に糸が巻きつけられていく。

 その糸は史記の指よりも太く、見るからに丈夫そうに見えた。


「何かに使えそうな気はするけどさ、……どうやって持って帰る??」


「ペール頼みだな」


「だよな、……狐達はあの様子だし」


 巻きつけられた糸から視線をずらせば、繭の中身を取り囲み、何やら話し合いをする狐たちの姿が写った。


 時折、自分達の方に視線を向ける彼等に、『好きに処理してください』と手で促しておく。

 

 どうやら彼等の目的は、周囲を構成する糸ではなく、その中身だったようだ。

 つまり、食料の調達である。


 さすがに味見をする気にはなれないが、彼等にとってはご馳走なのだろう。


「サンプルに少しだけ持って帰って、残りは後で回収に来るか。

持ち帰って必要ないって言われても嫌だしな」


 弾力のある糸をペシペシと叩いた史記の顔には、食事中の狐達に対する苦笑いが浮かんでいた。


 何はともあれ、丈夫な糸を手に入れることが出来た。

 何に使えるか分からないが、それなりの成果だろう。


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