表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/151

2-29話 本堂で作戦会議


 それから数十分後。

 畳敷きの広い部屋に、美雪と柚希、ペールの姿があった。


 部屋の奥まった場所には、豪華絢爛な台座があり、その上には、抱えるほどの白い球体が置かれている。

 その手前には、お供え物の姿まであった。


 神社で言えば、本堂に当たる場所である。


 そんな神聖な雰囲気が漂う空間を多くの小狐達が駆けていた。


「きゅん」「くんっ」「くふぉん」


 楽しそうな鳴き声を上げた小狐達が、嬉しそうに笑う美雪の周囲を走り回る。

 そんな狐達を踏まないように注意を向けた美雪が、右足を大きく前へと踏み出した。


「とってこーい」


 体をひねるようにして右手を振り抜いた美雪の指先から、1枚の円盤が飛び出していく。


 周囲を徘徊していた狐達が一斉に畳の上を走り出し、20匹近くの狐が奪い合うように円盤へと飛びかかった。


 追いかけるようにして飛びかかる者。

 並走して走る者。

 先回りして待ち構える者。

 真下やサイドから突き上げて、円盤の軌道を変える者。


 様々な思惑が交差しながら繰り広げられる激しい空中戦は、やがて、仲間の頭を踏み台にして大きく跳躍した1匹が、パクリと口に収めたことで、終戦を迎える。


 敵大将の首とでも言うかのように、堂々とした態度で美雪の前へと円盤を差し出したその狐が、『コフォン』と嬉しそうに鳴くのだった。


「おぉー、えらい、えらい。ごほうびをあげよ~」


 しゃがみ込んで狐と視線を合わせた美雪が、手のひらサイズの大きなブドウを1粒手渡した。


 手の上に乗った葡萄にハグハグとかぶりつく狐の全身を左手でわしゃわしゃと撫でていく。


 そうしているうちに、また周囲の狐達が騒がしく動き回るようになり、次いで美雪の手に円盤が握られた。


「次行くよ~。とってこーい」


 なんとも楽しそうな空間であった。


 そうして和気藹々と走り回る集団から少しだけ視線をずらせば、1枚の大きな紙を囲む狐の集団と、その中央にうつ伏せて、何やら書物をする柚希とペールの姿が見て取れた。


 時折、『コォン』、『クゥン』、『フォフン』、と狐達が騒ぎ始めたかと思えば、ルメとペールを経由した意見が、美雪へと伝えられる。


『外と繋がる入り口は、正面だけでござる。村の背後の森は、もうちょっと近いでござるよ』


「えぇーっと、……こんな感じかなぁ?」


『そうでござる。あと、正面は、緩い上り坂でござるよ』


 狐達からもたらされる情報を元に、次々と周囲の地形が書き込まれ、簡易の地図が出来上がっていく。


 縮尺などは適当だが、ここに住まう者達が注意深く監修しているため、大きなズレも無く、様々な情報が書き込まれていった。


「これでいいかな?」


 そんなお手製の地図を眺めた柚希が、大きな胸を持ち上げるかのように腕を組み、うんうん、と何度も頷いてみせる。


「戦力を正面に集中出来るのは嬉しいよね。

 ここって、壁とか柵なんかを作ったら駄目なのかな?」


『壁や柵でござるか?? 大丈夫なのでござるが、拙者達は作れないでござるよ』


 自分の手元を見つめるように視線を落としたルメが、申し訳なさそうに、小さくつぶやいた。


 そんなルメに対して、『ん?』と柚希が首を傾げてみせる。


「こんな建物や鳥居が作れちゃうのに??」


『あー、それは違うのでござる。この建物は結界様の力でござって、拙者達が作ったものではないのでござるよ。人間と違って、拙者達の手は、器用に動かないのでござる』


 ルメの言葉通り、彼女達の手は狐そのものであり、細かなものづくりなどには向いていないように思えた。


「……ん~、良くわかんないけど、わかった、かな?」


 さすがの柚希でも、魔法なんでー、と言われてしまっては、理解の範疇を超えていた。


「えーっと、とりあえず、私達が防壁なんかを作っちゃっても問題はないんだよね?」


「ないでござる。もちろん、お手伝いはするでござるよ」


「うん、ありがとね」


 嬉しそうに頷いた柚希が、敵の予想進路やその対策や作戦、欲しい設備なと、考え付く限りのことを地図上に色々と書き込んでいく。


 そして、ふとペン先を止めた柚希が、うーん、と悩ましげに首をひねった。


「魔法って大人はみんな使えるのかな? 使用制限とかってあったりする?」


『火力の強弱はあるでござるが、使えない者は居ないでござる。魔法を使うとお腹が空くでござる』


「ん~、そうなんだ」


 ルメが鋼鉄に向けて放った火の玉は、それなりの火力に思えた。

 大人達全員があの魔法を使えるのであれば、それなりに勝ち目も見えてくる。


「ペールちゃん、食べ物はまだまだ沢山残っていたよね?」


「はいなのです。けど、全員分となると、心もとないですよ?」


「そうだね。食材の調達も必要かな」


 <準備ですること>と書かれたメモ帳に<食料の調達>の文字が書き込まれた。


「ルメちゃん達は、穴掘りって得意? 木って切れたりする??」


『どっちも大丈夫でござるよ』


「そっか、……ん? え?

 木、切れるんだ……」


『狐火を使えば簡単でござる』


「ん~、火事にならないのかな??

 ……まぁ、それは後で見せて貰うとして、あとは……」


 そうして、具体的なアイディアを出し合いながら、岩鳥を迎えうつための作戦会議が進められていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ