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2-25話 神隠し??


 100本を超える大収穫となったきのこ狩りを終え、時折見つかる食べ物を収納しながらルメの後ろを追いかけて行けば、やがて大きな鳥居が姿を表した。


 道の両端をつなぐように設置された鳥居は、見上げるほどに高く、赤く塗られた柱は、周囲に生える木々よりも遥かに太い。


 厳島神社を思い起こすその鳥居は、どこか神聖な雰囲気をかもし出しており、鳥居自体が神聖な気でも放っているかのようであった。


 ただし、そんな見目麗しいと言いも、近くで見えれば所々にひび割れた箇所が確認でき、色合いにもくすみが見て取れた。


 良く言えば年季の入った、素直な言葉を用いるならボロボロ、そのような鳥居だった


『到着でござる。この先に村があるのでござるよ』


 ルメの言葉に鳥居の向こうを伺ってみるも、そこには巨木に育った木々が並んでいるだけで、村どころか道すら無い。


 今まで進んできた道は、鳥居を最後にプツリと途絶えてしまっていた。


「ルメ、村ってのは?」


『狐の暮らす村がこの先にあるのでござる。この鳥居を抜ければ村でござるよ』


 クエッションマークを浮かべる史記達を置き去りにして、ルメが鳥居の中央へと突撃した。


 2本の柱を通り抜けた瞬間、ルメの姿が一瞬にして消え失せる。


「……ルメちゃんが吸い込まれちゃった」


 ルメが鳥居を抜ける瞬間に見えたのは、ブラックホールを彷彿とさせる黒い穴。

 その穴に吸い込まれるようにして消え失せたのだ。


「ワープ? 結界? 瞬間移動? 神隠し?」


 そうとしか思えない光景だった。

 なにはともあれ、ここにずっと居るわけにもいかない。


 誰しもが呆気に取られる中、史記がまっすぐに鳥居を見定めた。


「俺から行くよ」


 ルメの事を信用していないわけではないが、モンスターの本拠地とも言うべき場所に乗り込むだから、万が一の際の犠牲は最低限に減らしておきたかった。


 そんな史記の判断に、美雪や柚希が『私も一緒に行く』と主張したが、

『ルメが1人で行ったのは、1人ずつしか抜けられないからってことじゃないか?』

 と反論した結果、史記1人だけが鳥居の前へと足を進めた。


 左手に持った鉄パイプにギュッと力を込め、ルメを見習って鳥居の下を駆け抜ける。

 

「っく!!」


 気がつけば、目の前に黒い穴が出現していた。

 至近距離で見れば、穴の中は黒い渦が巻いているようで、地獄への入り口とでも表現しそうな見た目である。


 そんな禍々しい穴へと、頭から飛び込むようにして潜り込む。


 瞬間的に浮遊感を感じた後に、気がつけば背中から硬い地面へと落ちていた。


「ぃっっ……」


 痛みに顔を歪ませながら、跳ね起きるように大勢を整えた史記の目に、道の脇にちょこんとおすわりをしたルメの姿と、瓦葺きの大きな建物の姿が飛び込んでくる。


 すまし顔のルメの後ろに見える建物は、入り口で見た鳥居を越えるほどの圧倒的な建物。

 赤を基調とした外観が史記の目を魅了していた。


 2本の太い柱が前へとせり出した屋根を支えており、その中央には太い縄が走っている。縄からは雷を模したかのような紙が垂れ下がっていた。


 建物の入り口を塞ぐかのように、大きな木の箱が鎮座しているのも特徴的だった。


「…………神社?」


 周囲を森に囲まれた由緒正しき神社とでも言うべき建物が、そこにあった。


「きゅーん、クふぉん」


「あ、や、悪い。ペールが居ないと何言ってんのかわかんねぇ」


 神社の方へと首を向けたルメが何かを伝えようとしてくるが、残念ながら通訳はまだ鳥居の向こうである。


(さて、どうしたもんか)

 

 胸の前で腕を組み、悩ましげに首を捻る。

 敵意は感じないが、圧倒的な大きさの神社からは何者かが動き回る気配が漂っていた。


(美雪達を読んでくるべきか、それとも中を見てからにするべきか……。

 ペールだけでも連れて来たら良かったな……)


 今更ながら自分の選択に後悔し、何気なく後ろを振り返れば、そこには飛び込んできた鳥居が鎮座して居た。

 向こう側で見たものと同じ物かと思ったが、こちらの鳥居の方は新品のようであり、鳥居の額とでも言うべき場所に<狐>の文字が踊っている。


 そうして、吸い寄せられるように1歩、2歩と足を進めた。


 ――その瞬間。


 突然現れた黒い穴の中から、柚希が飛び出してきた。


「うぉう!!」


 慌てて逃げようと試みたが、あいにくと体は急に動いてくれない。その結果、真正面から受け止めることになってしまい、勢いを殺せずに押し倒されてしまった。


 柚希の長い髪が史記の顔へと垂れ下がり、柔らかな膨らみが史記の胸部を包み込む。


「むぎゅう」


 可愛らしい声を漏らした柚希が、そっと目を開けば、そこに映るのは息がかかるほど近くにあった史記の顔。


「……え??」


 一瞬にして顔を赤く染めた柚希が、飛び跳ねるようにして史記の上から離れた。


「ご、ごめん、重かったよね……」


「い、いや、重くはな――グェボ!!」


 遠ざかっていく柔らかな感触と良い香りにどこか寂しそうな表情を見せた史記が立ち上がろうとした瞬間、黒い穴から現れた美雪の両膝が、無防備な腹へと突き刺さった。


 それは天国から地獄へと堕ちていくようで、お腹と背中がくっつくかのような衝撃に、息が詰まる。


「史記くん!!」「んゅ? お兄ちゃん??」


 驚く柚希の声と妹のふんわりとした声を聞きながら、薄れ行く意識を手放した。


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