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2-24話 メタボなきのこ


 ピンと立った2本の尻尾を追い掛けて、土の道を山の方へと進む。


 ふと後ろを振り返れば、森の向こうに天へと登る階段が顔を覗かせていた。


 歩くにつれて出口から遠ざかっているのだが、あの鳥達に対抗する手段が無いのだから仕方がない。


「そういえば、ルメはどうしてあそこに居たんだ?」


『ご飯を探しに来たら、岩鳥に下敷きにされたのでござる』


振り返ることもせず、尻尾をふさふさと揺らしながらルメが言葉を紡いだ。


「下敷き……、良く無事だったな」


『食べられそうになったのでござるが、急に階段の方が騒がしくなって、逃げて行ったのでござるよ』


 当時を思い出した影響からか、尻尾がだらりと地面に引きずられた。


 なんでもあの岩鳥は、ルメ達にとって、天敵のような存在なのだとか。


 多対一で戦えば勝てることもあるらしいのだが、あいにくとその時はルメだけだったそうだ。


(俺達が襲われたから、ルメは助かったってことか……)


階段での騒ぎとは、史記達が巻き起こしたあの騒ぎの事だろう。


 食物連鎖を悪いことだとは思わないが、こうして二股の尻尾をゆらゆらとさせて歩いている彼女が食べられなかったことに、史記がほっと安堵の息を吐き出した。


 そうして雑談を繰り返しながら山へと向かう道すがら、突然、2本の尻尾が大きく左右に振られ、ゆっくりと地面へと降ろされた。


 それを合図に、全員が足を止める。


「ルメちゃん、美味しいものあったー??」


 ルメがこうして立ち止まるのは既に3回目。

助けた時の宣言通りに、こうして立ち止まっては、史記達に食べ物の存在を示してくれていた。


『あそこでござる』


 右側の尻尾だけを水平に持ち上げたルメが、白い毛の生える先端で、森の中を指し示す。


 木々の隙間から顔を覗かせるのは、胴体がパンパンに膨らんだ奇妙なキノコ。

 エリンギをメタボにしたかのようなキノコがところ狭しと群生していた。


「んゆー? どれー??」


 そんなキノコの姿を見ようと、木々の隙間を覗き込んだ美雪が、ふわふわの髪を揺らしながら兄へと微笑みかけた。


「ん~っと、<油きのこ>。良質な油が取れる食材で、その油を使っての素揚げがオススメなんだってー」


「……すげぇな。デフォルトで鴨ネギ状態のきのこかよ。それは食べるしかないよな。

 ペール、頼んだ」


「はいなのです」


 採取係が板についてきたペールが、スルスルと森へとわけ入り、膝下くらいまである大きなきのこに両手を這わせた。


 ゆっくりと力を注げば、ふにゅんと指先が吸い込まれるように、きのこの表面がへこんでいく。


 感触はおっぱいに近いような、水風船に近いような、そんなふにゅふにゅとした肌さわり。


 表面だけがきのこで、内部のほとんどは油。そう思わせる感触だった。


「採取するですよ」


 そんな掛け声と共にキノコを引き抜けば、たゆんたゆんの大きなキノコが手の中に収まった。


「おっきいのです」


顔よりも大きな<油きのこ>を嬉しそうに眺めたペールが、抱きしめるようにキュと力を込めれば、1本目の獲物がにゅるん、と体内の収納場所へと吸い込まれていく。


「次に行くですよ」


 そして、空になった手を次のきのこに向けようかと視線を少しだけずらせば、いつの間にか側に来ていたルメと目があった。


『収納持ちとはすごいでござるな!! 便利でござる。チートでござる』


 ふさふさと尻尾を揺らしたルメが、キラキラとした瞳をペールへと向けていた。


だが、そんな尊敬の眼差しも、一瞬の後に周囲のキノコへと吸い込まれて行く。


『……このキノコ、一本だけ食べたいでござる。食べていいでござるか?』


「えぇーっと、……はいなのです。

いいと思いますですよ」


 従魔としては、御主人様の指示を仰ぐべき場面なのだろうが、答えのわかっている質問ほど無意味な物もない。


 慣れない草の道をゆっくりとこちらに向かって歩いてくる人間達の中に、ルメのお願いを断る者など居ないと断言出来た。


『1本だけ食べたら手伝うでござる!!』


尻尾をブルンブルンと振り回したルメが、1本のキノコに狙いをさだめて首を伸ばす。


 大きな口を開けて<油きのこ>をくわえ、ヒョイっと顔を持ち上げて引き抜いた。

そしてそのままコロンと寝転げて仰向けになり、ラッコのような大勢で<油きのこ>の笠に鋭い牙を突き立てる。


『んふぅー、口いっぱいに幸せな味が広がるでござる。久しぶりのカロリーでござるよ」


 重力に従って流れ出る旨味を口の中へと流し込めば、自然と二本の尻尾がパタパタと動き出す。


 中身が無くなったキノコを前足ではさみ、器用に口の中へと収めていった。


『もう一本食べるでござる』


「いっぱいあるから良いと思うですよ」


『かたじけないでござるー』


 ひょこ、と立ち上がったルメが、次の獲物に真っ白い牙を突き立てた。


 そして、2本、3本と夢中で食べ進めるうちに、人間達が追い付いてくる。


「……これって、キノコなの??」


 不思議そうな目をした柚希が<油きのこ>を指先でつつく。

そんな柚希に負じと、美雪の小さな手が、ぷよぷよとした胴体をにゅっと掴んだ。


「んふぅ。ぶにょぶにょーー」


 手に力を入れれば、中に入っている油が笠の方へと逃げていく。

 これでベットが作れれば、気持ちいいに違いない。そう確信出来た。


 そうしてメタボきのこの胴体をニギニギしていた美雪が、楽しそうな瞳を兄へと向ける。


「いっぱい狩ればいいの??」


「あー、そうだな。油はあれば便利だと思うし。多いほうがいいんじゃないか?」


「りょーかい。それじゃぁ、採取しますかー」


 人間達も加わっての、きのこ狩りが始まった。

1本、また1本と、ペールのもとへと運ばれた油きのこが収納場所へと消えて行く。


 途中、美味しそうに齧りつくルメの姿に影響された美雪が、


『生で食べても美味しいのかな?』


などと言い出したものの、流石に生のキノコに口をつけるような暴挙には出なかった。


 さすがの美雪様でも、調理されていないキノコは怖かったようだ。

 懸命な判断である。




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