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2-22話 おやすみをください


 脚を引きずるようにしてゆっくりと立ち上がった狐は、史記達へと、明らかな敵意を向けていた。


(やばい!! 森の中へ!!)


 そんな思いが史記の脳内をよぎるものの、敵は見るからに素早く、細い。


 狐を相手に森の中での鬼ごっこなど、勝てるはずもなかった。


(敵は1匹……、やるしかないか)


 鋼鉄とペールに決意の篭った視線を向けられば、しっかりとした頷きが返ってくる。


 武器をぎゅっと握り締めた3人が、柚希の指示を仰ぐことなく、狐に向かって飛び出していった。


「右から後ろへと回り込むです」


「了解した。正面は任されよう」


 背後から置き去りにしてきた2人の驚く声が聞こえるものの、振り返る者は居ない。


 入り口で鳥に襲われた事を自分の判断ミスだと落ち込む柚希に、これ以上の負担を掛ける訳にもいかず、影響が心配だからと本人に打ち明けていない美雪の魔法を頼りにする訳にもいかなかった。


「キャゥヴゥゥ」


 牙をチラつかせて吠える狐の側面を取ろうと、ペールが史記達の元を離れてスピードをあげる。


 そんなペールとは対象的に少しだけスピードを落とした鋼鉄が、全身を覆えるくらいの盾を出現させた。


 そしてゆっくりと狐へと忍び寄る。


「ゅゥゥゥゥ」


 前方から来る鋼鉄と、横から来るペールの姿とを交互に見る狐は、見るからに狼狽えていた。


 だが、どれほど近くへ行こうとも、狐はその場から動く素振りを見せない。


(……なぜ、仕掛けてこない? ……怪我で動けないのか!?)


 近くで見ると、狐の怪我はかなりひどく、後ろ足からはおびただしい量の血が流れ出ていた。


 時折ふらついているような姿も見えており、立っているのがやっとの状態にも見える。


(なんだか痛々しいな……)


「気を抜くな!! 手負いは厄介だぞ!!」


 ふとした気の緩みを感じた鋼鉄の激が飛ぶ。

 手負いの者ほど、何をしてくるかわからない。


 そんな鋼鉄の言葉に引っ張られたかのように、狐の口が大きく開かれ、その中が赤く燃え盛った。


「なにを!?」


 悲鳴にも似た声をあげる史記を尻目に、フボウ、という音が周囲に響き、狐の顔と同じくらいの火の玉が鋼鉄に向けてまっすぐに放たれた。


「ッチ!!」


 周囲を包み込むような熱気を前にチラリと後ろを流し見た鋼鉄が、ガッチリと腰を落とした。


ーーその瞬間、構えられた大盾に巨大な火の玉が直撃する。


 手に伝わる衝撃と共に熱風が吹き荒れ、盾の後ろに隠れる鋼鉄と史記にも熱が届けられた。


 あまりの熱量に鋼鉄の表情が強張る。


 盾があるからこそ熱いだけで済んでいるが、もし直撃していたらと思うと、暑さとは関係のない汗が流れ出た。


「盾を捨てるですよ!!」


 ペールの叫び声にハッと目を開けば、盾の上部が赤く色づいていた。


 持ち手に伝わる熱も、時間と共に増している。


「チッ!!」


 ペールの忠告に従って投げ捨てられた大盾が、土の上へと転がっていった。


 やがて動きを止めた大盾の表面には、狐が放った火の玉が張り付くように燃えており、時間と共に勢いが増していく。 


 熱せられた部分がゆっくりと溶け始め、地面へと滴り落ちていった。


 火の玉に盾が食われている、そんな光景だった。


(やばい!! マジでやばい!! 次が来る前になんとかしないと!!)


 瞬時の判断で鋼鉄の横をすり抜けた史記が、鉄パイプを頭上に掲げて飛び出した。


 決死の思いで地面を蹴り、牙をむき出しにして唸る狐へと肉薄する。


 ――その瞬間。


 史記の視界が強い光で包まれた。

 

「ぐっ!!」


 目の前が一瞬にしてまっしろい世界へと変わり、周囲の音だけが感じられる。

狐の位置どころか、両手で握った鉄パイプの姿すら見えてこない。


 そんな状態での攻撃など、当たるはずもなかった。


「くっそ!!」


 バックステップで狐から距離を取りながら、ぼやける視界を懸命に広げようとしたものの、なかなか思うようにはいかない。


 狐の炎が直撃したのか、とも思ったが、幸いなことに目以外に不調は感じなかった。

 閃光弾のような、強い光を放つだけの攻撃だったのだろう。


(離れれば火の玉。近づけばフラッシュ。どうすればいい!?)


 必死に頭をひねる史記が思い起こすのは、物理法則を無視したような攻撃の数々と、意識を失っていた妹の姿。


(火の玉もフラッシュもたぶん魔法だ。何回でも使える技じゃない!!)


 避け続けて活路を見出す。そう決めた史記の視界が、ゆっくりと戻ってきた。


 おぼろげな目に映るのは、自分を守るようにして立つ鋼鉄の背中と、両手にナイフを握ったペールの姿。


「…………へ?」

 

 そんな2人の視線の先には、地面にベターっと腹を付けて、上目遣いでこちらを見つめてくる狐の姿があった。



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