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7話 出した答え

 歴史の授業。それは、たいして興味も持てない内容の話を永遠と聞かされ続ける苦行染みた時間であり、学校生活において『歴史が1番苦手』と明言する生徒も多い、不人気な授業である。


 担当教員の話し方に起因する部分も多いが、教壇から淡々と語られる言葉は、もはや催眠術に近い。


 特に昼食後の授業であれば、学業を放棄し、睡眠に切り替える生徒が続出しても、仕方ないとさえ言える、……かもしれない。


 そんな、クラスメイト達が机に突っ伏して夢の世界へと旅立っている中にあっても、真面目に教師の話を理解しようとしている者も居る。


 無論どちらが正しいかなど、論じる必要さえないだろう。


 だが、今日に限って言えば、史記はそのどちらでもなかった。


(おぉー!! ほんとに自分で出来そうじゃん。勝に感謝だな)


 真面目に勉強しているかのように座りながらも、視線は常に机の下を向き、広げられたノートに文字が書き込まれることは無い。

 

 授業開始と同時に学生の義務を放棄した史記は、教師の目から見えない場所でスマホを取り出し、情報の荒波を漂っていた。


(けど、ダンジョンかぁ……。面倒だけど、しかたないよな……)


 ダンジョンに潜る。


 ゲームや小説などでは比較的楽しそうに語られるその行為も、史記や勝にとっては、面倒事以外の何物でもない。

 ゲーム内で狩りをする事を楽しいとは思っても、実際に猟銃を持って山に入りたいとは思わないのだ。


 しかし、面倒だとは思っても、他に選択肢など存在しないのも事実である。


 結局、6限目の授業時間を全て使って調べた結果は、勝の言葉通りの物だった。


 15歳上で防衛大臣の認可を獲た者なら『冒険者』を名乗って、ダンジョン内に入ることが出来るらしい。


 ちなみに、何故防衛大臣なのかと言うと、ダンジョン局が防衛省の枠組みの中にあって、防衛大臣の管轄だからだそうだ。

 完全なるお役所仕事である。


 それに加えてわかったのが、国に報告されて無いダンジョンなら、許可を得ていない者が入っても『ダンジョンだなんて知りませんでした、ゴメンナサイ』と言えば、無罪放免らしいということ。


 ある投稿者曰く『車に引かれる可能性がある一般道の方が、遥かに危険だと思うよ。動きやすい服を着ていけば大丈夫ってレベルだぜ!!』とのこと。


 つまり『とりあえず入ってみて、大丈夫そうなら冒険者になって自分で管理すれば良い。全然ダメそうなら逃げ帰って新しいアイディアを出せば良い』そういうことのようだ。


 限りなくブラックに近いグレーなのだとは思うが、ブラックでは無い。


 ちなみに、お金儲けに関しては超一流の話であって、一般人がどうにか出来るレベルのことは書いてなかった。


 ダイヤモンドより固い鱗を持つ、クリスタルドラゴンの牙をお金持ちのビルさんが何兆円で買ったとか、溶岩の中に生息するレッドドラゴンのステーキが、100グラムで何十万円とか、そんなレベルの話である。


 どう考えても、一般的な高校生でしかない史記の手に負える範囲ではない。


 そんな有意義と呼べる情報収集の時間も、授業終了を伝える鐘の音と共に終わりを迎る。

 教師が自分達の傍から居なくなると、クラスメイト達が一斉に部活の準備や帰り支度を整え始めた。


 それぞれが思い思いに周囲に居る友人との雑談に興じ、それまでの静けさは掻き消される。


「え? ミリ部って部活あるの?」

「カラオケ行く?」

「今日の部活、ミーティングからだってさ」


 様々な言葉が無秩序に飛び交う中で、そんな会話に紛れ込ませるように勝を呼び止めた史記は、授業中に出した結論を簡潔に伝えてみた。


「ってな訳で、ダンジョンに入ってみようと思うんだ。

 スグルも来るか?」


 やっと肩の荷が下りたとばかりに、楽しげな表情を浮かべる史記に対し、勝の方も、負けず劣らず。

 新しいおもちゃを見つけた小学生のように、目をランランと輝かせ、史記の方へと身を乗り出した。


 ダンジョンに興味は無いが、それが親友との新しい遊びなら、話は別だ。


「おぉ!! 行く行くー!!!

 ……って、言いたい所だが、俺、お前の家に入れねーじゃん」


「……あー、そういえば、そうだった」


 1人で乗り込むのが心細かったために勝を誘った史記だったが、良く考えれば実現不可能な提案だった。


 勝は史記の家には立ち入れない。


 史記の家で1番の権力を持つ美雪に何度も告白をし、何度も振られ、出入り禁止になっているからだ。


 顔を合わせるたびに愛の告白をしてくる面倒な男。恋愛勇者の呼び声高い変態。

 出入り禁止にならない理由が無い。

 

「……鋼鉄も休みだしなぁ」


 頼りにしていた親友は、バカだから力を借りられない。もう1人居る親友は、家庭の事情で本日は休みである。


「……しょうがない。ひとりで行くかぁ」


「……わりぃな」


 他に頼れそうな知り合いが思い浮かばない史記は、1人でダンジョンへ潜る決意を固めるのだった。



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